第67話

 柏木氏に依頼した新しい武器の出来上がりは、非常に素晴らしいものだった。


 試用室を借りて、一通りの技を試してみた感想としては、僅かに重いように感じられたものの、それもオレが依頼した通りの仕様ではある。

 既に以前の鎗ですら、軽すぎるぐらいに感じていたことから、腕力その他の身体能力の早期成長を見込んでのことだ。


 材質は魔鉄という名の、鋼鉄より硬く弾性の高いダンジョン素材をメインに、穂先や、新しく加えられた月牙(槍の側面に付けるニ日月状の刃)、月牙の反対側……これも新しく加えることにした槌頭(ハンマーヘッド)は、魔法銀とも言われるミスリルを使用して貰った。


 ワーウルフなど、一部モンスターには、鉄など通常金属の刃や弾頭が通用しないという情報があるので、それらのモンスターにも有効だというミスリルを採用したのだ。


 これらの素材は、大半が兄からの提供で、一部に鎗の仇のリビングアーマーから得た魔鉄や、オレのモンスター災害以前の戦利品であるミスリルインゴット(学生時代に通っていた、旧あらかわ遊園ダンジョンで宝箱から得た物)なんかが加わっている。


 出来上がった武器の形状は槍というより、ほこや、ハルバード(斧槍などと漢字表記されることもある)に近い。


 オレも【長柄武器の心得】が欲しいところだ。

 地道に、妻から手解てほどきを受けるとしよう。


 防具の調整も、まさに完璧という出来で、フィット感が以前とは段違いだ。

 しかもオレ達の事情を汲んで、より使い回しやすい留め具や、ベルトの構造を実現しながらも、耐久性すら向上させてくれたという。


 これらの仕事の確かさは、上昇した【鍛冶】スキルの恩恵も、間違いなくあるのだろうが、それ以前に柏木氏の性格も、非常に色濃く反映されているように思われる。

 明らかに、使う人の立場に寄り添った工夫が見て取れるのだ。

 これならば……兄に託された残りの素材を全て預け、さらに技を磨いて貰っても良いだろうと思われる。

 差し当たり、父と妻の武器を新調したいが、具体的にどういう形にすべきかは、本人達に相談して貰うべきだろう。


 あとは…………銃器系をどうするか、だよなぁ。

 兄以外は長柄武器だから、携行しやすい拳銃だろうか。

 ダンジョン外でも使えるものを求めるなら、銃器に準ずる飛び道具という意味でも、ボウガンという選択肢も有りだとは思う。

 まだ時期尚早かもしれないが、一応は相談をしておくことにした。



 結論的には、取り敢えず保留……試供品というわけではないが、ダン協から貸し出し可能な範囲のものを、幾つか取り寄せて貰い、試しに使ってみることが可能だというのだ。

 試してから、購入を検討出来るなら、それに越したことは無いだろう。

 また、オーガクラスのモンスターを、銃器以外のメインウェポンで倒せる探索者は、民間人が使用を許可されているレベルの銃器では、早晩メインウェポンに劣るようになるという話だったのもある。


 これは、モンスターのサイズに対しての銃弾のサイズの問題も、もちろん関係しているのだが、ダンジョン探索による能力値の増加の恩恵を、銃器では全くと言って良いほど受けられないということもある。

 自動小銃だとか、対戦車ミサイルのような軍用に属するものが使えれば、また話は違ってくるのだろうが、残念ながら日本では、民間人がそれらを使用することも、民間でそれらを販売、購入すること自体も、法的にいまだ認められていないのだ。

 アメリカに代表される、そのあたりの規制が緩やかな国では、銃器をメインに活躍している探索者も多いのだが、日本では一般的に刀槍の類いがメインの位置を占め続けているのも、これでは仕方ないことだろう。


 右京君は防具類も幾つか前衛向けの物に変更するらしく、名残惜しそうな顔をしたが、ここで別れる。

 柏木氏に改めて丁寧に礼を述べて、会計を済ませた後、武器販売所を出てダンジョンの入り口へ向かうことにした。


 まだ時間的には余裕があるので、もしリポップしていたなら、石距てながだこと再戦といこう。

 魔鉄やミスリルは、腐食に対する耐性には定評がある。

 わざわざ喰らう気もないが、瘴気を必要以上に恐れる必要も無いというのは、かなり精神的に楽になるものだ。


 ダンジョンゲートにパスを宛がい、意気揚々と進む。

 もはや、目をつむっていても(さすがにやらないが……)たどり着けるだろう、階層ボスの部屋に真っ直ぐ向かっていく。


 まず行く手を阻んだのは、ジャイアントセンチピード……大ムカデだった。


 相変わらず気持ち悪いのは気持ち悪いが、新しい得物を試す意味では、ちょうど良いモンスターでもある。


 カサカサと不気味な音を立てて這い寄るジャイアントセンチピードに、軽く月牙を一閃。

 狙いあやまたず胴体を両断したが、まだウネウネと動いている。

 さすがの生命力だ。


 今度は槌頭で一撃。

 見事、大ムカデの頭部に命中し、粉砕することに成功する。

 数瞬後、光に包まれてジャイアントセンチピードが消えた後には、幸先良く腕力向上剤が遺されていた。


 ……うん、いけるな。

 今のオレにとってはジャイアントセンチピードは、決して強いモンスターでは無いが、生命力だけはかなりの水準だ。

 ジャイアントセンチピードを問題にしないのならば、月牙による斬撃も、槌頭による打撃も、当面は間違いなく使える威力だと思えた。


 続いて現れたジャイアントビートルには、穂先で頭部の甲殻を突き破る一刺し。

 硬いモンスターには、やはり刺突が有効だ。

 反対に斬撃は相性的にイマイチ。

 打撃は中間というところだろう。

 モンスターのサイズが、もう少し大きくなれば、打撃の方が有効な場面も増えてくるかもしれない。


 これで、ある程度までのモンスターなら、相性に左右されずに、戦うことが可能だ。

 柄で叩くのも、石突きで殴るのも、槍という武器の特性上、有効な攻撃手段だが、槌頭で威力を収束出来るなら、その方が良いだろうし、オレの以前の鎗では不可能に近かった、斬るということが出来るようになったのは、やはり大きい。

 薙ぎ払いや打撃の際、鋼鉄の柄では、ほとんど無かった『しなり』が、魔鉄によって作られた柄では充分に得られるようになったのも、地味だが明らかに武器の攻撃性能を上げた。

 しなりを利用した刺突の技も【槍術】には含まれているので、それを使えるようになるのは、メリット以外の何物でもない。


 行く手を遮るモンスターを、どんどん魔石やアイテムに変えながら、ひとしきりの技や新機能の実験を終えたオレは、階層ボスのギガントビートルをも、あっさりと一蹴……第2層に歩を進めた。


 …………そして、そこで意外なモノを目にすることになるのだった。

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