第39話

 第3層の深部。

 朝の探索では間引きに追われ時間切れで来れなかったエリアには、スライムの上位種という位置付けながら、生態からサイズから全く別のモンスターが居た。


 ゼラチナス・キューブ。

 ゼラチン質の透明なキューブ(立方体)という意味合いだが、分かりにくければ透明なサイコロや、ルービ◯クキューブを想像して貰えれば良いかと思う。

 ダンジョンの通路一面を埋め尽くすサイズなので、大きさは今まで実際に目にしたモンスターの中では最大だ。

 待ち伏せの達人(?)で、透明に極めて近い身体的特徴を活かし、通路そのものに擬態する。

 よくよく注意してみれば、わずかな蠕動ぜんどうや、光の屈曲率の違いから、そこにいるのを見分けることが出来るが、かなり見えにくいのは確かだ。

 慌てて移動をしていたりすると、ぶつかるどころか自分から体内に突入していくハメになる。

 しかも麻痺毒持ち。

 体内に突入したうえ、麻痺させられてしまったなら最早、捕らわれた獲物に為す術は無い。

 世界各国のダンジョンで数多の犠牲者を出した、ある意味とても凶悪なモンスターだ。

 THE初見殺し。


 もちろん弱点はある。

 防御力というものが皆無に近いので、行動の自由さえ奪われなければ、木刀でもアッサリ切り裂けてしまう。

 体積が大きいので、倒しきるのには苦労するが、そこら辺の小・中学生でも倒せる稀有けうなモンスターでもあるのだ。

 適当に切り裂くと、飛び散った断片に麻痺させられかねないが……。


 そんなこんなで、とても個性的なゼラチナス・キューブなのだが、事前の情報と、オレの恵まれた視力の前には、敢えなくその数を減らしていくだけだった。


 他には……ジャイアントモスキート、ジャイアントアント、ジャイアントマンティスが初お目見え。

 それぞれ、デッカい蚊、アリ、カマキリだ。

 強さとしては第1層や、第2層に出現する虫型モンスターと大差はない。

 この中ではジャイアントマンティスが頭一つ抜けている印象だが、さすがにギガントビートルやヘルスコーピオンほど強いわけでもない。

 素早い動きと、鎌の鋭さに注意しながら、順調に、蚊やアリともども駆逐していく。

 ……なお、ジャイアントなハリガネムシが寄生していたりはしない様子だ。


 これら初登場組のモンスターに加え、オークやゴブリンアーチャー、ジャイアントスコーピオンなどとも、かなりの数の戦闘をこなし、ようやく新手の姿が現れなくなった頃、ちょうどボス部屋の扉の前に到着した。


 時刻は21時半を過ぎたところ。

 ここで、オレはボスに挑むべきか否か、かなり考え込んでしまった。

 時間帯、安全マージンともに微妙なところだからだ。


 恐らくは勝てるし、たとえ勝てないまでも、取り巻きを減らして逃げ帰ることは可能だろう。

 しかし時間が、そろそろヤバい。


 明日の早朝は兄達が探索に赴く予定だが、妻の分のおにぎりを握るのは、オレの役割なのだ。

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