第40話
……これは思っていたより、数段ヤバい。
あの直後、物は試しとばかりに階層ボスに挑んだオレは、残像が霞むほどの速さで繰り出された致死の一撃を寸でのところで避け、盛大に冷や汗をかくことになった。
第3層のボス……デスサイズは、簡単に説明するなら、巨大かつ凶悪なカマキリだ。
死神の鎌を意味する名を冠するに相応しく、ジャイアントマンティスに数倍する速度で、連続して斬擊を繰り出してくる。
『回避が無理ゲーに近い。しかも回避が無理なら、ほぼ即死確定』
かつて、このダンジョンに挑んだ、当時の日本トップクラスの探索者の言葉だ。
オーストラリアのメルボルン近郊のダンジョンで、初めてこのモンスターを発見し、デスサイズの名を付けた探索者も、同様の気持ちだったのだろうか。
彼は片腕を失いながらも、どうにか撤退には成功し、デスサイズの命名と、生きたままの引退を同時に行えただけ幸運なのだと、後に語った。
彼のパーティに、他の生存者は誰一人居なかったという。
鋼鉄さえも容易に切り裂く鎌の一撃は、鎌で獲物を捕まえてから
獲物が捕まる前に、そもそも裁断されてしまうのだ。
しかも、カマキリとしての本能で、自然と二刀流を使いこなすのだからタチが悪い。
体長も、ジャイアントマンティスを優に上回り、インド象に匹敵する。
本体の動きはヘルスコーピオンと同程度だが、斬擊の速さは比較にもならないほどだ。
さらには、取り巻きのジャイアントマンティスの頭越しに斬擊を放ってくるため、取り巻きの排除だけでも命懸けの作業となる。
こちらが、ようやく一撃を喰らわせても、なんと取り巻きのカマキリを食って回復までするという、ちょっと洒落にならない化け物なのだ。
取り巻きの数自体も非常に多く、最初はデスサイズとジャイアントマンティスを合わせて、18体との戦いだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今、オレは四苦八苦しながら、どうにか7体まで数を減らしたカマキリの群れと距離を取り、すっかり荒くなった息を整えながら、一時撤退か、戦闘続行か……真剣に自問自答していた。
まだ取り巻きのジャイアントマンティスが残っているからこその、束の間の猶予時間だ。
デスサイズは、手下のカマキリどもの後ろから、恐らく久方ぶりの獲物であるオレを、心なしか余裕すら感じさせる態度で
いや……
取り巻きが全滅した時に存分に発揮されるだろうデスサイズの本気……果たして今のオレに
ここで退くのは簡単だ。
退いてじっくり腕を磨き、マジックアイテムを集めて武装を強化し尽くして……そんな作業にしばらく従事すれば、それこそ
最悪、兄に頼めば……うん、相性的に余裕だろうな。
いや……ダメだ…………
石橋を叩くだけ叩いて結局渡らない……
今まで、ギリギリの戦いの中でこそ研ぎ澄まされてきたものは、確かにオレの中に根付いている。
ここで簡単に勝ち負けの分からない戦いから逃げるようなら、今まで積み重ねてきたものが、
あたかも砂上の楼閣の様に崩れ去るのが、目に見えるようだ。
挑め!
超えろ!
闘え!
錆びた鉄のような味のする唾液を無理やりに飲み込み、まだ6体いる三下カマキリを一気呵成に突き倒していく。
デスサイズは、急に目の色を変えたオレに驚いたかのように、高速で羽ばたいて自ら距離を空けた。
手下を置き去りにして。
……あと4……3、2…………残り1匹!
『スキル【
まるで……覚悟を決めたオレを祝福するかのように、しかしやたらと硬質な【解析者】の声が、高らかに脳裏になり響く。
さぁ……決着をつけようか。
最後に残された取り巻きのジャイアントマンティスを瞬殺し、オレはデスサイズを睨み付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます