第16話

 次々と襲い来る虫型モンスター。


 ジャイアントピルバグ、ジャイアントリーチ、ジャイアントスパイダー、ジャイアントセンチピード、ジャイアントフライ……要は巨大なダンゴムシ、ヒル、クモ、ムカデ、ハエ……ここまで見事にデカい虫ばっかりだ。

 ちょっと精神を意図的にマヒさせとかないと、ツラい相手が連続して押し寄せて来るのだから……慣れては来たが、それでもキモいものはキモいのだ。

 それが正確に何匹目のモンスターを倒した時なのかは、正直なところ判然としない。

 やたらとデカイ虫どもを薙ぎ倒すこと数十体、突如として……


『スキル【槍術】を自力習得しました』


 耳慣れない機械音声が頭に響いた。

 それに気を取られて、危うくジャイアントセンチピードに巻き付かれる悪夢に見舞われるところだったが何とかそれを回避。

 返す刀(鎗だが……)で、ムカデの頭に風穴を空けてやったが、何やら今までの刺突より明らかにシャープな動きだったように思う。

 それ以前に今まで我流で振るっていた短鎗が、やたらと手に付く感覚をも覚えた。

 これが【解析者】というスキルの恩恵なのは、考えるまでもないだろう。

 今までにスキルを自力で習得したなどという話は、聞いたことすらないのだから。


 すっかり気を良くしたオレは、なかなか減ったように見えない虫達を相手に、目に見えてキレを増した鎗の技で次々に戦果を上げていく。

 ドロップアイテムは魔石が殆どだが、低位の回復ポーション、同じく解毒ポーション、スタミナポーションなども、僅かとは言え手に入れることが出来た。

 特筆すべきは今まで見たことのない形状の瓶に入ったポーションだ。

 これは鑑定して貰う必要がある。

 データベース上に載っている物なら、ダン協(ダンジョン探索者協同組合)の簡易鑑定機で割り出せるだろう。

 恐らくは俗にドーピング剤と呼ばれる、身体能力強化アイテムだとは思う。

 今日の目当ての品のうちの1つだ。

 自分で飲んでも良いし、誰かダンジョン未経験の人に飲んで貰ってから、連れてくるのも手だろう。


 経過時間を確認すべく、ダンジョン用の高耐久型腕時計を見るが、まだ15時にもなっていない。

 だいたい1時間ちょっと戦っていた計算だ。

 少なくとも、いったん1層のモンスターを狩り尽くすまでは、間引きを続けるべきだろうな。

 ダンジョンの入り口から入って左側……西側の探索と間引きは概ね完了。

 次の階層へと続く階段のある東側は後回しにして、中央付近の探索に移る。

 依然として虫型のモンスターが大多数を占めるが、装備の貧弱な低位ゴブリンも混ざっているのが目につく。

 ゴブリンもなぁ……慣れてないとキツい相手なんだよなぁ。

 何せ人型だ。

 さらに醜悪な外見。

 臭くて汚いというオマケ付き。

 オレ自身、ゴブリンから少しでも距離を取りたくて、得物に鎗を選んだのは兄や妻にも内緒の話だ。


 中央付近の探索にも凡そ1時間。

 数えきれない虫型モンスターの他には、ゴブリンが8体。スライム2体。低位コボルトが1体。

 戦利品は魔石が中心で、ポーションちらほら。

 残念ながらドーピング剤と思われる薬瓶は、ドロップせず。

 しかし、恐らく何らかのマジックアイテムであろう指輪が手に入った。

 いわゆる呪われたアイテムとやらで無ければ、ウチの家族の戦力底上げに有効なものになるだろう。


 いよいよ残すは東側の探索のみ。

 折よく【槍術】スキルを覚えられたおかげで、暗くなる前に期待以上の戦果を挙げて帰れそうだ。

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