第17話

 残された東側の探索に移るため、通るルートを変えつつ、入り口の方に戻って行く。

 そこそこモンスターが残っていたようだが、問題にせず蹴散らしていった。

 これまでのところ、他の探索者には全く遭遇していなかったのだが、入り口付近に来たこともあってか、ここに来て初めて思い思いの装備をまとった若い連中が、モンスターと戦っている場面に遭遇する。

 相手はジャイアントセンチピード。

 このダンジョンに出現するモンスターの中では、初心者には少しキツい相手なのだが、つたない部分も有りながら、数的有利を活かして順調に戦闘を進めているように見える。

 前衛に、西洋風の剣と盾装備が1人と、両手で斧を持ち大げさ過ぎるほど重厚な防具を装備したのが1人。

 中衛にロングスピア持ちが2人。


 邪魔にならないよう戦闘領域にゆっくり近付いていたオレは、彼らの後ろから迫り来るモンスターに気付いて警告の声を上げると同時に、全力で走り出した!


「後ろ! 危ないぞ!」


「なっ! 邪魔すんなや、オッサン!」


 状況が呑み込めていない様子の前衛の小僧が、非難の声を上げるが、駆け寄りざま構わずジャイアントセンチピードにトドメを刺し、勢いそのまま、中衛の少年に襲い掛かっていたイビルバットに突き掛かる。


 惜しくも空中に回避されたが、とりあえずはモンスターと若者達の分断に成功。

 腰のポーションストッカーを探り、回復ポーションを引き当てると、怪我をしてない方の槍持ちの少女に後ろ手で差し出す。


「ほら、早く治療してやってくれ」


 女の子は少し悩んでいたようだが、それでも痛がっている少年の様子に腹を決め、ポーションを受け取る。


 前衛の連中が苛立たし気な足音を立て、こちらに向かって来ようとしている様なので、叱責気味に一声掛けてやる。


「ムカデが来た方、ちゃんと見とけ。また挟み撃ち喰らいたいのか!?」


 ピタッと足音が止まる。

 どうやら忠告を受け止めてくれた様だ。

 ようやく後顧の憂いが無くなったので、飛び回るコウモリに少し手こずりながらも、きちんと決着をつける。


「危ないところを、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 怪我をした少年と、よく見ればその少年に良く似た顔立ちの少女は素直に頭を下げた。

 礼も言わずムスッとした剣持ちのガキ。

 何やらオドオド視線が定まらない、ずんぐりむっくりの斧持ちの少年。

 パッと見18歳~20歳ほど。

 高校卒業したてか、大学生ってとこかな。


「いや、別に礼は良いよ。今は、外からもモンスターが来るようになっちゃったから、戦ってる時でも後ろに気を付けてね?じゃあ…」


 厄介ごとはゴメンだ。

 ムカデとコウモリの落としたアイテムは彼らが拾えば良い。

 そう思って予定通り東に足を向けると……


「待って下さい! これ、コウモリの……」


 少年がポーションの瓶をこちらに差し出してくる。


「待てよ! それはオレらのだろ?」


「何言ってるんですか! これはあちらの方が倒したコウモリの落としたアイテムですよ!」


 ポーションの所有権を主張する剣ガキと、律儀に筋を通そうとするお嬢さん。


「あぁ、いいから、いいから。またケガした時用に持っときな。じゃあね」


「そんな! 助けて頂いたうえ、これは受け取れません! むしろ、何か他にもお礼をしないと……」

「そうですよ、今は大したものは持っていないので、良かったらお名前を教えて頂けませんか?」


「いいって言ってんだから、いいじゃん。しつこくすんなって!」


 ダメだな、これは。


「ゴメン! オレも急ぐからさ……」


 駆けるようにして逃げ出す。

 善良そうな兄妹には悪いけど、あの頭の悪そうなのに名前を明かすとか願い下げだしなぁ。


 何だか、どっと疲れてしまったが、出口には彼らが居るので帰るに帰れない。

 オレは行く手に現れた罪も無い(?)モンスターに、苛立ち紛れに鎗を繰り出すのだった。

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