第15話

「はぁ? 何で、そうなるんだ? お前、さっきまで散々ニュースで言ってたの、ちっとも聞いてなかったってのか!?」


 兄が呆れ半分、怒り半分といった様子でオレに詰め寄るが、軽く手を挙げ押し留めながら、根気強く意図を説明していくことにした。

 兄(ついでに父と妻達も)……10分ほど、オレの考えを聞いて合点がいった様子ではある。

 もちろん、心配してくれているのは有難いのだけど、今後を考えれば考えるほど、オレ達が過不足なく暮らして行くうえで、これ(ダンジョン探索)は必須条件だと思う。


「なるほどな……この近くのダンジョンなら、いわゆる不人気ダンジョンだし、規模もさほどではないようだ。カズかヒデのどっちかが護衛でウチに居るなら、どちらかが誰かを連れてレベル上げ? ……そういうのをやるっていうのは、自衛のためにも悪くない考えだろうな」


 父が真っ先に賛同を示す。


「まぁ、そんな感じ。……って言っても、ご指摘の通り、不人気ダンジョンだから、初心者を連れて入るなら、最初の間引きは絶対に必要だと思う。だから、今回はオレ1人で行くよ。次が兄ちゃんと親父の組み合わせね」


 以前、市民センターの有った場所に出来た近所のダンジョンは、交通の便が良くないせいか、入る人は稀で、オレがたまに潜ると雑魚ばかりだが、ウジャウジャとモンスターが押し寄せてくる。

 しかも見た目に難のある、虫系モンスターの比率が非常に高く、それも不人気ぶりに拍車を掛けている。

 オレや兄のように、この付近で探索者がよく足を運ぶダンジョンは、温泉街の中にあるうえ、バランスの良いモンスター構成で、なかなかの人気を博す中堅ダンジョンだ。

 そちらは車で10分ほどだが、元々がそこそこ人気の観光地である以上、それなりに強いモンスターが近場に出てくることが予想されるので、バックアタックに細心の注意を払わなければならない。

 とてもダンジョン初心者を連れての攻略に、向いているとは思えないのだ。


 オレは手早く準備を終え、気合いを入れ直す。


「ヒデちゃん……くれぐれも気を付けてね?」

「ぱぁ~」


 妻と息子に見送られて、玄関を後にする。

 ウチの王子様は、こんな時でもニコニコだ。


 ここからダンジョンまでは歩いても2分といったところ。

 さすがに歩いて向かうが、先ほどスライムに襲われたラーメン屋跡地も通る。

 過剰な警戒は必要ないにしろ、油断は大敵。

 物陰には十全の注意を払いながら進んでいく。


 幸い何事もなくダンジョンに到達。

 腕に巻きつけた(スキー場のリフト券をイメージして欲しい)ダンジョンパスを機械にかざし、慎重にダンジョン内部へ進行していく。


 カササササササ……


 さっそく敵さんのお出ましだ。

 最初にオレを出迎えたのは巨大なダンゴムシの姿。

 ジャイアントピルバグだ。

 ダンゴムシには鈍重で堅固なイメージがあるが、堅固さはそのままにノロマとは言い難い速度で迫ってくる。

 ……とは言うものの、元がダンゴムシだ。

 たかが知れているのも事実。

 遠間から腕を伸ばし、手にした短鎗でサクっと頭部を突き刺し、ジャイアントピルバグが突進態勢(タイヤ状に丸くなるヤツのこと)に入る前に勝負を決める。

 外のモンスターとは異なり、アッサリ発光し、パチンコ玉大の魔石を遺してダンゴムシは消え去る。

 それを拾うやいなや……


 ーーカササササササササササ……


 次の敵さんが歓迎に来たようだ。

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