第4話

さて、生徒が崩れ落ちるというのはいささか日常ではない光景だが、考えられる原因は比較的多い。貧血による目眩が真っ先に浮かぶが、最悪心筋梗塞まで有り得る為、慌てずにはいられない。もっとも高校生で心筋梗塞など起こり得るのかどうかは私の知ったことではないし、仮に起こり得たとしてもそれは極めて低い確率であることぐらいは理解していたため、僕の不安はそこでは無かった。

教室には数学の教科担任含め数人の女性教師がやって来た。どうやら救急車を呼んだらしく、やがて運ばれるのだが、その前に教室に放置しておくわかにもいかないので一度保健室に運ぶらしい。女性教師の1人が足を、1人が肩を持ち、危ない足取りで生徒を運んで行ったのを見届けた僕は、数学の教科担任から授業の続きを受ける他なかった。

さすがに女子生徒の倒れた後となっては数学の教科担任も困惑した顔をしていて、彼のペースは乱れていた。同級生が倒れている中、何事も無かったのように授業を続行する生徒達は実に不気味であると、私は思わずにはいられなかった。

数学の教科担任が数式を書く。黒板とチョークが擦れる品のない音が響く。書かれている数式は問題であり、これを生徒は熱心に書き写した後、熟考に至る。呑気なものである。僕は数学の教科担任をじっと見つめた。

彼は数式を資料と思わしき物を見つめながら黒板を埋めていく。やがて一通り書き終わった後である。

彼はチョークをポケットの中に入れた。

これを、普段の聡明な僕であれば違和感を覚えた筈であるが、精神が不安定であった僕は何にも気づくことは無かった。

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