ハムルビ #2-1
【残機 5】
「うわあぁあぁあああああ!!!」
勢い良く起き上がると、窓から射す日の光を正面から受け、思わず顔を逸した。
「ああぁ、あ……ゆ、め?」
一人暮らしを始めて数年が経ったが、こんなに気持ちの悪い目覚めはいつ以来だろうか。
気分が、悪い。
「……うぷ、ぉえ」
酸っぱいものが胸元まで一気に込み上げるが、喉元まで上ってくる前に空気と一緒に呑み下した。
そんなオレの全身をじんわりと覆う汗が、なんとも言えぬ気持ち悪さを助長していた。
自身の額から、スッと線を描いて流れる汗を力任せに腕で拭うと、空中に飛び散ったそれらが粒になって音も無く布団に着点した。じんわりと馴染みならが広がる汗を凝視しながら、オレは静止する。
どくどくと全身を巡る血液はゆるりと減速を始め、唸る心臓と共に落ち着きを取り戻していった。
夢にしてはリアルだったな。まさか、予知夢とかデジャヴュの類だったりして。
あり得ない、と
下半身に覆い被さるタオルケットを蹴飛ばして、床に足を置いたその時、下の階から誰かがオレを呼ぶ大きな声が聞こえた。
「──
母だ。オレの名前をいつも君付けで呼んでいる。
「先にシャワー浴びるから! 机に置いといてー!」
……返事は、無い。
この時、オレの頭には大きな疑問符が浮かび上がった。あれ? さっき一人暮らしがどうのこうの、と。しかし直感的に湧いたそれは、ぐうっと鳴いた腹の虫によって掻き消された。
「お腹、空いたな」
部屋の窓は空いているが、鳥の
電子時計に目を配ると、【7:12】と表示されていた。いつもなら、この時間にお隣さんのアラームが忙しなく鳴り響いているのだけれど。今日は早起きしたのだろうか。それとも休日? 疑問を抱きながらもう一度電子時計に視線を移すと、左端には『火』の文字が小さく表示されていた。
「平日じゃん。てか七時かー、ちょっと余裕ない……いや大丈夫か」
寝起きの鈍った思考を巡らせながらベッドから腰を浮かせると、学生鞄と制服を抱えて自分の部屋を後にした。
「それにしても気味が悪いくらいに静かだな」
自分の声が空間を包む感覚が
オレは纏わり付く静けさにぶるりと身を震わせたその時だった、唐突に先程見た夢の情景が頭の隅を掠めたのだ。
オレはまた一つぶるりと身震いをすると、じっとりと肌に纏わりついている汗を流すために一階にある風呂場へと足早に向かった。
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