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三隈 令

ハムルビ #1

【残機 6】


 瞼を閉じると、二度と開ける事ができないような気がして刮目する。

「ひゅー……ひゅー……」

 自分でも呼吸をしているのか分からないくらいに息が細く、上手く肺に酸素が溜まらない。

 頭上で点滅する蛍光灯は、冷たく周囲を明滅させてチカチカと音を立てている。

「が、ごぼっ」

 生温かい液体が食道を逆流し、口から溢れ出す。地面に這いつくばった状態のオレは、その息苦しさに耐え兼ねて口に溜まった液体を吐き出した。


 びちゃ


 体外へ放出された液体はドス黒く、鉄に似た臭いがツンと鼻を突いた。

「あ、あぁ……」

 血だ──これは、血だ。

 自分が今の今まで何をしていたのかを振り返ろうと努める。が、酸欠の脳は微睡んだまま、思考回路がプツリと断たれた。

 背中が焼けるように熱い。まるで炎で炙られているようだ。

 オレは重力に押さえつけられている腕を持ち上げると、ゆっくりと腰の方へと手を回した。


 ぬちゃ


 先程胸に込み上げた生温いものと同じ感覚が、手のひらを満遍なく支配する。腰に回した腕が力無くずるりと滑ると、床に落ちる手前、硬い何かが指に触れた。

 ?

 自分の腰に生えているそれを、力無い指でそっとなぞる。

 ナイフ? 

 言葉にしようとしたが、口の中に溜まる生臭い液体が喉につっかえ、上手く声が出せない。

 どうしたことだろう。恐らくナイフが突き刺さっている事は間違いないのだが、不思議と痛みを感じない。

 辺りを包み込む静寂には、自分の心音だけがどくん、どくんと鳴り響いている。

 気付けば辺りは闇に包まれていた。

 蛍光灯が切れたのだろうか。なにも、見えない。喋る事を諦めたオレは心の中でそっと呟いた。眠ってはいけないという本能だけが自身に呼びかけ、頭の中に危険信号が轟かせていた。

 駄目なのに、すごく、眠い。あぁ、身体が地面に吸い込まれるようだ。なんて、なんて心地良いんだろう。いっそこのまま眠ってしまおうか。そうだ、太陽が昇るまで眠ろう。朝が来れば、起きればいい。四肢は痺れて全く動かないし。心臓は働き過ぎたのだろう、もうほとんど鼓動が聴こえてこない。深い眠りがオレを誘う、このなんとも言えない感覚。眠ってしまえ。そうだ眠ろう、ねむろう──ねむ────ろ────────────ぅ────。

 朦朧と消えゆく意識の中で最後に聞こえたのは誰かの足音だった。ヒールを履いているのか、尖ったような音がカツン、カツンと反響しながら近付いてくる。

 それを最後にとうとうオレの五感は失せてしまった──死んでしまった。


「残り五回」


 『ダレカ』が静かに呟いた。


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