一章 十四話 魔の道
【魔の道】
灯りを手に入れた二人は魔の道をゆく。
一度魔の力を使用した体は、同族や人ならざるものを引き寄せやすい。
状況は良くなったように見えて、逆である。
ハクは胸元で揺れる灯りが消えないようにランタンに閉じ込めると、再びぼくに手渡して歩き出した。
彼に暗い道を歩かせまいとランタンを握り直して、早足
それに対して一つ小さな疑問を持つ。
灯りを手に入れたハクはもうぼくとともに行動する理由はないはずだが、ハクに自分用の灯りを出す様子はなくぼくに行き先を委ねている。
「なぜ?」
思わず口からこぼれた言葉に、少し前を歩いていたハクはくるりと振り返り首をかしげる。
それに対してランタンに目を向けると、察したハクは「ああ、」と納得した声を出すとあっけらかんと告げる。
「だって、まだ楽しみが残っているだろう?」
その言葉に、出会ってすぐの会話を思い出す。
『仕方ない。せっかくだから、昔話は脱出してからのお楽しみにしよう』
ハクがこの迷宮に入った経緯についてはぐらかされた際に、ぼくが口にした言葉だ。
「君の楽しみを奪う気はないし、そもそもわたしの目的は君についていけば達成される」
「さがしものは?」
「ここは迷宮だ。迷路とは違って気の遠くなるだけのただの一本道なのだから、出口に向かってただまっすぐと歩いていれば自然とさがしものがある場所を通ることになる」
なるほど、それもそうだ。
ぼくが最初にいた場所は突き当りにある、廊下に出ても一方向しか進む道のない部屋。間違いなくこの迷宮の最奥と言える場所だろう。
その部屋は唯一部屋においてあるものが違っていたが、もしかしたらハクの探しものもそこにあるのではないのだろうか。
「歩みが遅いけれど、なにか悩み事?」
斜め後ろを歩いていたハクがぬっと横に現れてぼくの顔を覗き込む。
「ああ、最奥にさがしものがあるのではと思っているのなら杞憂だよ。君と合流する前に見ているからね」
二、三秒じっとぼくの顔を見ていたハクはさらりとぼくの心を読んでみせた。
道先案内人の話の際といい、やはり彼の瞳は人の脳みそを覗き込むことができるらしい。
「……なるほど」
そっと目をハクからそらしながら言う。
目元を隠したほうが良いかもしれない。
そうこうしているうちにハクは僕の感情を読もうとすることをやめたらしく、ぼくの数歩前に出るとくるりとこちらを振り返る。
先刻までの弱々しい明かりとは異なる星のない夜の満月の明かりがハクの顔を照らす。
……眉間にシワが寄っていて口元も笑っていない。
「会話はしながらでもいいから、少しでも早く足を進めよう。あの獣たちがいつ現れるかわからないからね」
ゆるく口角を上げた薄い笑み。「苦笑い」といったほうが良いだろうか。
明らかに口にしただけの理由ではない。不安材料があるのだろうか。
しかし、彼が言わないという選択肢をとっているのなら、聞いてもわからないぼくが無理に知ろうとする必要はない。……気になるが。
今は足を進めよう。
彼の言う「魔の道」を。
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