一章 十三話 灯れ
【灯れ】
手のひらに力を入れてつぶやけば、暗闇に月が現れる。
彼に助けられた肉体は、魔の力がよく馴染んでいた。
これならば、十分魔術を扱えるだろう。
「コク」
まどろみの中で、優しく語りかけるように名前を呼ばれる。
風に揺れる泉の水面のようなそれは、ここに来る直前に聞いた声を彷彿とさせるが別物だと確信を持って言えた。
ハクは中性的な姿をしているが、声は少年のそれであって女性らしさのあるあの声と混同することはない。
「はぁ」
呆れたようなため息。
ハクには申し訳ないがもう少しこのまどろみを味わっていたいのだ。
「いつまでそうしているつもりだ。ランタン代わりになるものは用意できたし、空腹を覚える前に先に進むのが先決だと思うのだが」
少々の呆れと怒気が混ざった、いつもより低いその声にハッとして起き上がる。
ハクはぼくが休んでいる間も生きるためにあまり良い印象を抱いていない書物を探してくれていたというのに、一瞬でも「このまま二人で最期の時までごろごろしていたい」などと思った自分を呪いたくなった。
「おはよう」
ベッドの縁に腰掛けていたハクはぼくの頭をゆるゆると撫でると、立ち上がり机の上に開いた状態で置かれていた本(道先案内人)を手にとってこちらを振り返る。
「少し見ていて欲しい。毎回上手くいくかはわからないけれど、ちゃんと発動させることが出来ればランタンの代わりになるはず」
ハクは少し不安げにじっと本を見つめながら、優美な仕草でページをひと撫ですると再びぼくのほうをちらりと見てから目を閉じる。
「――」
ハクが小さく何かをつぶやくと、ぼくとハクの間に手のひらほどの光が現れる。
光る本といい獣たちといいここにはぼくが知らないものがたくさんあるのだなと思いながら、ぼくとハクの間でふわふわと浮いているそれを眺める。
「よし、二回目もうまく行った。消えてしまったら次も灯せるかわからないから早く行こう」
心底安堵したような顔をした後に嬉々と扉を開けて言うハクに幼さと愛らしさを感じながらぼくも立ち上がりあとに続く。
「わかった。獣が現れないうちにできる限り進もう」
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