一章 十二話 道先案内人
【道先案内人】
獣達から逃れることには成功したが、今後他の獣が現れないとは限らない。
加えて油のないランタンでは出口探しどころか真っ直ぐ歩くこともままならない。
この状況を打開する方法はあるにはあるが……
「はぁ、はぁ、はぁ」
閉じた扉に背中を預けて荒い息をする。
肺が冷たくて、胸が痛くて、真っ黒になったホワイトボードのような脳みそは生まれたばかりの白さに戻っていく。
ズリズリ。
隣でぼくと同じようにしていたハクが、扉に背を預けたままぺたりと床に座り込む。
「なんとかなったか。怪我はないよね」
「うん大丈夫。それよりもここは一体」
あいも変わらず真っ暗な世界。
どれだけ目を凝らしても、視界の下の方で薄ぼんやりとしたハクの髪の毛であろう白色が動いていることしかわからない。
「ここは廊下に並んでいた部屋の一つだね」
廊下に並んでいた部屋。
探索を始めてすぐの頃に手当たりしだいに扉を開けていたが、パッと見た限りどの部屋も同じような内装で同じようなものが置かれていた。
そして残念ながらそこにはランタンも油もなかった。
「つまりはこの部屋においてあるものには期待できない、と」
目先の命の危険が去ったとはいえ、根本的な問題は解決していない。
「それはどうだろう。わたしと出会う前に君はいろんな扉を開けたと言っていたけれど、本棚にあった本を開いたことは?」
「それはないけど、読んですぐに役立つ本なんてそうそうないと思う」
それを聞いたハクは立ち上がって、手探りで部屋の中を歩いていく。
「それならば」
カタン。
小さな物音に続いてページを捲る音、本を閉じる音、新たな本を手に取る音と順々に繰り返されていく。
「わたしも詳しくはないのだけれど、この城は少しだけ特別でね。おそらくここにある本の中には……」
その瞬間真っ暗な部屋に柔らかな光が現れた。
ハクが手に持っている本のページが。否、本に書かれた文字が光っている。
「みつけた」
淡々とした口調ともにハクがこちらを振り返る。
口調とは裏腹にこころなしか片側の口角が上がっている。
「それは一体」
「残念ながら固有名詞を知っているほど詳しくはなくてね。魔の道の道先案内人とでも思っておけば間違いはないんじゃないかな」
眉間に皺が寄り、眉頭が沈む。
苦手なものなのだろうか、難しい内容なのだろうか。
ハクがそれに対して良い印象を抱いていないことはわかるが、少ない情報の中で詳細まではわからない。
嫌なことはさせたくないが、代わりを務められるほどぼくはここのことを知らない。
「コク、君今何を考えた?」
声をかけられいつの間にか下を向いていた目線を上げると、ハクが怪訝そうな表情で僕の目を見ていた。
光る文字に照らされた夜空の瞳に射抜かれる。
これ以上目を合わせていたらぼくの目を通して脳みそのすべてを覗かれそうで、そっと目線を外す。
「なんでもない」
「まあいいや。とりあえずこれについてはわたしも詳しくないから、何も聞かずにしばらく待っていてほしい。このあたりの本の中にランタン代わりにできるものがあるはずだから」
「わかった」
ハクに無理はさせたくないが、この件に関しては力になれないのだから仕方ない。
渋々とうなずいて、ハクに今頑張ってもらう分後でちゃんと力になれるように休息を取ることにした。
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