一章 十話 暗闇
【暗闇】
何も見えない。まっすぐ立っていられているかもわからない。
わたしを終わらせる音が近づいてきていることだけが、はっきりと分かっていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
何も見えない。次のホールまでどれくらいあるかもわからない。
視界が閉ざされた分聴覚だけが研ぎ澄まされて、獣たちの足音がぐわんぐわんと脳に響く。
汗ばんだ手ででもハクの腕を離さないよう、何度も握り直しながら「足を止めることだけはするわけにはいかない」という思い一つで足を前に出す。
ふらふらぐらぐら、頭が揺れる。
もうまっすぐ走ることはできていないのだろう。
それでも、それでも、それでもぼくは――。
「コク、三秒後右に」
ハクがつぶやくように口を開いたその一瞬。あれほど頭を揺らしていた獣たちの足音が消えて朦朧としてきた意識もはっきりとし、ハクの澄んだ声だけがぼくの世界に響いた気がした。
そして体は脳が言葉を理解するよりも早く、命令を遂行しようと動き出す。
ハクの腕を再び強く握りしめ、体を右に傾ける。
ハクは若干引きずられるような形になりながらも、まだ足を踏み出してくれている。
大丈夫。
そうしてなんとか壁にぶつかることなく曲がり切り、更に足を踏み出そうとしたとその時ハクはぼくが掴んだ腕をくんと引いた。
今までにない強さで腕を引かれ、その力に抗うことなく振り返る。
振り返ると今にも鼻同士がくっついてしまいそうな程の距離に、こちらに向かってニンマリと笑うハクがいた。
ガチャン、バタン。
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