一章 九話 踏み出せ
【踏み出せ】
はじまった。ついにはじまってしまった。
……あの少年が、意志を持った。
ハクの腕を引いて、床を蹴る、蹴る、蹴る。
ぼくたちの足音に続いて、カチャカチャとした獣たちの爪が床を跳ねる音が波のように押し寄せてくる。片手に持ったランタンは足を踏み出す度にガチャガチャと音を立てるが、あのピチャピチャとした水音はもう耳を澄ましても聞こえない。
「さて、どうしたものか」まだ走り始めて何十秒も経っていないものの、最初はたくさんあったはずのぼくらと獣たちの距離はどんどん縮まっている。
「次のホールまで行けるかも怪しいな」獣との距離は音でしか判別がつかず、ホールまでの距離については判断材料がないもののそう思えてしまうくらいには距離が縮まるのは早かった。
ぐるぐると回る脳みそは、現状の危うさは把握できても解決策なんて見いだせない。
ハクの手首を握る手を少し強める。
「こんな醜い獣たちに殺されるような最期を、彼に迎えさせるわけにはいかない」
その一心で、もうとうに限界を迎えている足に力を入れて床を蹴る。
ハクはバランスを崩しながらもちゃんと足を踏み出してくれている。
「大丈夫。まだ、殺させやしない」
唸るようにつぶやいて、更に足を踏み出そうとしたその時。
フッ
最悪のタイミングで、視界が闇に包まれた。
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