第52話 魔王様と身体測定(6)

 そして怒涛の撮影会が終わり、しばらくして学園新聞は無事発刊された。


「どんな風に載ってるのかな」


 ソワソワしながら購買に並ぶ。購買には、カナリスが載るという噂を聞きつけた女子が列を成している。


「うわ、凄い人」


 とりあえず最後尾と思しき所に並ぶ。これはもしかして、順番が回ってくる前に売り切れてしまうのではないか?


 そんな懸念を抱いていると、聞きなれた声がして、女子生徒達がさぁっと購買から離れた。


「ここか……」

「はい、会長」


 長い黒髪がなびく。キリリとした切れ長の目は真っ直ぐに購買を見つめている。


「せ、生徒会長!?」


 立っていたのは生徒会長と副会長だった。生徒会長は、いつもの威厳のある様子ではなく、ピンク色の財布を手に随分とソワソワしている。


「おお、マオか。貴様も学園新聞を買いに来たのか?」


 俺を見て瞳を輝かせる会長。

 周りの女子たちが何やらヒソヒソ噂しているのが分かった。頼むから妙な誤解はやめてくれ。


「ええ、まぁ」


「そうか。私も生徒会長として学園の発刊物はチェックしないとならないのでな」


 嘘つけ! ただ単にカナリスの念写像しゃしんが見たいだけだろうが!


「生徒会長、どうぞこちらへ!」

「欲しいものがあるのでしたら、どうぞお先へ!」


 先に並んでいた女子たちが列を譲る。みんな生徒会長が怖いので萎縮してしまっているようだ。


「そうか? では遠慮なく――」


 会長はずいと購買へ足を進めると、良く通る声で堂々と宣言した。


「学級新聞を三部貰おう。閲覧用。鼻血で汚れてしまった時のスペア。そしてスペアが汚れてしまった時のスペアだ!」


 待て。そんなに買うのか。というか鼻血って……。


「そしてそこのマオにも一冊」


 突然俺を指さす会長。


「へっ?」


 目をパチクリさせていると、生徒会長は俺の手に学園新聞を一冊押し付けた。


「早くしないと無くなってしまうからな」


「ありがとうございます」


「こうでもしないと貴様はモタモタしているから買いそびれるだろう。何、日頃の礼だ。感謝の言葉などいらん。じゃあな」


 会長はそう言うと、ヒラヒラと手を振って去っていった。


「では、私もこれで」


 副会長もぺこりと頭を下げて去っていく。

 全く、格好良いんだか、格好悪いんだか!





「お、買ってきたか」


 セリがソワソワしながら出迎える。なんだかんだでセリも学園新聞が気になるみたいだ。


「なんかドキドキするね」


 カナリスは顔を引き攣らせている。


「マオー、学園新聞貰ってきたわよ!」


 とそこへ学園新聞を手に、ルリハとチグサがやってくる。


「皆さんの分、用意してありますよー!」


 チグサが俺とカナリスに学園新聞を配る。


「なんだ、ただでくれるんだ」


「今回は撮影に協力して貰いましたからねっ。にゃは!」


 ウインクするチグサ。

 カナリスと俺はチグサから学園新聞を貰ったので、俺が買ってきた分は仕方なくセリに渡す。


「よっしゃ、ただで新聞ゲットぉ!」


 ガッツポーズをするセリ。


「ま、仕方ないな」


 これで全員に新聞が行き渡ったことになる。


「よし、みんな準備はいい?」


 ゴクリと生唾を飲み込み、全員の顔を見渡す。


「はーい」


「よし、開けるよ」


「せーの!」


 10ページほどある学園新聞を、全員でゆっくりとめくっていく。一ページ目にはカナリスの写真は無い。二ページ目、三ページ目もない。


「あったわ! 五ページ目!」


 ルリハの声に急いで五ページ目へとページを進める。


「わぁ、カッコイイ……!」


「何これ! 凄いセクシーじゃん!」


 見ると、男子の制服を着て前をはだけている念写像しゃしんと女子の制服を着て恥ずかしそうにしている念写像しゃしんの二枚が紙面を飾っている。


 男子の制服の写真はセキレイだけど、女子の制服の方はちゃんとカナリスの写真が使われていて、なんだか少しだけ嬉しくなった。


「こ、こんなに大きく……」


 カナリスの顔が真っ赤になる。

 俺はチグサに尋ねた。


「カナリス一人に何ページ使うの」

「にしし、彼は人気ですからー」



 チグサの相変わらずの笑顔。

 でも良かった。一緒に送った男姿の念写像しゃしんも女装写真と一緒に採用されているから、これでカナリスが女子と疑われることは無くなるだろう。


「……ん? 何だこれ、袋とじ!?」


 すると、次のページをめくったセリが不思議そうな顔をした。


「え? 袋とじ?」

「何それ」

「なんで学園新聞に?」


 俺たちが不思議がっていると、チグサはいたずらっぽい目で豪快に笑い飛ばした。


「そうです! 今回の学園新聞には、特別に袋とじをつけたのです! にゃはは!」


 まさか本当に新聞に袋とじを付ける奴がいるとは。


「見てみていい?」


「どうぞ」


「何が入ってるんだろう」


「ドキドキするわね……」


 みんなで袋とじの中身を確かめる。


 するとそこに入っていたのは――


 頬を染め、目を潤ませながら、制服のネクタイを緩ませ、ブラウスのボタンを開ける扇情的なポーズの……俺だった。


 皆の視線が一斉に俺に注がれる。


「な、なんなのよこの卑猥なのは」


「マオったらやるぅ!」


「マオくん、いつのまに……」


 どうやら、カナリスの念写像しゃしんに混じって間違えて俺の念写像《しゃしんにも送ってしまったらしい。


 それにしても、まさか俺が袋とじになるなんて……人間社会というものはやはりよく分からん。


「にゃはは。いいでしょ、それ!」


 チグサがウインクする。


 俺は大きなため息をついた。


 全く……俺は男の娘ではないのだぞ。

 そういう趣味は、断じてない!!


 だがこの一件以来、俺が袋とじになっていたことは瞬く間にクラス中に広まり、俺のあだ名は一時的に「袋とじ男の娘」になってしまったのであった。



 ……どうしてこうなった!?




【番外編①「魔王様と身体測定」完】

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