第51話 魔王様と身体測定(5)
俺たちは一通りセキレイの撮影会を終えると、床に寝そべりゴロゴロとしながら撮った
「うーん、どの
俺が呟くと、カナリスは不思議そうな顔をしながら横に寄り添ってきた。
「どうしたの? 何か気に入らない?」
セキレイも後ろから俺の投影機をのぞき込む。
「うん。可愛いには可愛いんだけど、どれもカナリスっぽくないというか」
「どういうこと?」
「あまりにも女装慣れしすぎてる。恥じらいが無いんだよ」
学園新聞を買う女生徒たちの望みは何か?
それは普段クールな王子様のカナリスが、恥を忍んで特別に女装をするというシチュエーションに萌えることである。
「こんなにノリノリで女装するカナリスは、僕的には少し違うように思うんだ!」
僕が熱弁すると、カナリスとセキレイは同時に首を傾げた。
「……なるほど?」
僕は自分の来ていた上着を脱ぐとセキレイに渡した。
「ねぇ、セキレイ。ちょっと僕の制服を着てみてよ」
「えっ、男の制服?」
セキレイが目をぱちくりさせる。
「いや、嫌だったらいいんだけどさ。でも、どうも学園新聞の読者の求めているものとは違う気がするんだ!」
「別に嫌じゃないよ」
セキレイはテキパキと服を脱ぎ捨てると、俺に向かってウインクした。
「その代わり、マオくんも女装してよねっ!」
「う"ーっ、わ、分かったよ」
セキレイがカナリスの制服に着替え、ショートヘアのウイッグをつける。
「ふふ、どう?」
妖艶な仕草でシャツの前をはだけるセキレイ。
「うん、いいじゃん! 決まってる!」
俺は夢中でシャッターを押した。
「こういうのは?」
セキレイはズボンをギリギリのラインまでずり下げる。意外と鍛えられている腹筋。そこから下半身へと伸びる筋がなんだかいやらしい。
「ちょ、ちょっと大胆すぎない?」
カナリスが狼狽える。
「分かってないなぁ。女の子はこういうのがいいんだよ!」
「そうだ、そうだ!」
髪をかきあげたり舌なめずりをしたり、壁ドンしたり、次々とイケメンポーズをキメていくセキレイ。
どうやらこの人は、女装男装関係なく基本的に自分の容姿が大好きな人のようだ。
「……うん! いいよいいよ!!」
俺が撮ったものをチェックしながら盛り上がっていると、セキレイはガッシリと俺の肩を掴んだ。
「じゃあ次……マオくんね!」
妖しげに輝くセキレイのブルーの瞳。
ついに来たか。
「わ、分かったよ……」
そこまで言うなら仕方ない。
「……ってあれ、僕の制服」
ガサゴソと荷物を漁るセキレイ。どうやら制服がどこかへ行ってしまったようだ。
「ねーカナリス、僕の服……あれ? カナリスは?
俺は洗面所のドアを開けた。
「カナリス、いる?」
「……ひぁっ!」
するとそこには、先程までセキレイが着ていた女子の制服に着替えているカナリスがいた。
「まっ、まっ、まっ、マオくん……これは、ちょっと着てみたかっただけで……!」
「あっ、ごめん! 着替え中だったんだね」
俺は慌ててドアを閉めた。
カナリスが女子の制服を着てるところを見るなんて初めてで、なんだかドキドキしてしまう。
「マオくーん、あったよー」
セキレイに呼ばれて振り返る。
「ねぇ、セーラー服の他にもナース服やメイド服もあるんだけど、どれがいい? あっ、それとも全部着る?」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるセキレイ。
「いや、えっと、セーラー服でいいよ」
とりあえずセキレイのセーラー服に袖を通す。
「セキレイは普段これ着て学校に通ってるんだ」
なんだか男のものとは思えないほど良い匂いがして頭がクラクラする。
「うん!」
「女子校は楽しい?」
「うん。でも初めが可愛い女の子が沢山いて、大好きなお料理やお裁縫を勉強できて楽しかったけど、チヤホヤしてくれる男子がいないってのもちょっと寂しいなぁって」
「そうなの?」
セキレイは俺にピッタリと体を寄せてくる。
「うん。だって可愛い女の子の格好してこうやって男の子をドキドキさせたりするのって楽しくない? ふふ」
妖しげに笑うセキレイ。俺にはよく分からない感情だ。もっと人間のことを勉強しなくては……。
「撮るよー」
セーラー服を着た俺をバシャバシャとセキレイが撮っていく。
「もっと上目遣いで!」
「脚をもっと開いて!」
「そう、その角度で、もっと自然に笑って!」
うむむ、難しい。どうしても笑顔が引きつってしまう。
「ぼ、僕も撮っていいかな?」
俺がセーラー服を着てぎこちない笑みを浮かべていると、カナリスも投影機を構える。
「うん! ……ってあれ? さっきの制服は?」
カナリスったら、さっき女子の制服に着替えてたはずなのに、もう男の格好に戻ってる。
「もう着替えたよぉ。ちょっと着てみたかっただけだから!」
照れたようにカナリスが言う。
裸を見られるのは恥ずかしくないのに、女子の制服を来ているところを見られるのは恥ずかしいのか? 変なの。
「えー、僕も見たかったー」
セキレイが口を尖らせる。
「自分の制服姿を見ればいいでしょ。お兄様の方が僕より可愛いし女の子の制服も似合うんだから……」
「自分の制服とカナリスの制服じゃ、全然違うよぉ。見たい見たい! 僕もカナリスの制服が見ーたーい!」
「もう……」
困った顔をするカナリス。
「僕もカナリスの女子の制服姿、もう一度ちゃんと見たいな。二人で並んで映ろうよ」
俺が提案すると、カナリスは大きなため息をついた。
「分かった。着替えてくるね」
しばらくして、カナリスが洗面所から出てきた。
「ど……どう、かな?」
困ったように笑い、スカートをちょっとつまみ上げるカナリス。プリーツスカートからスラリと伸びた白い脚がモジモジと動く。
清楚な白いブラウスを押し上げる二つの大きな膨らみ。胸元の可愛らしいリボン。
恥ずかしそうに頬を初めるカナリスの姿は文句無く可愛らしい。
思えばカナリスのスカート姿を見るのはこれが初めてだけど、こうしているとやっぱりカナリスは美少女だなぁ。
「可愛い」
俺が言うと、カナリスは顔を真っ赤にした。
「そっ……そそそそそうかな? 似合わないんじゃないかと思ったけど」
「何言ってんのー。僕の妹なんだから、似合わない訳無いじゃない! ねっ、マオくん!」
「うん、凄く似合ってるよ」
「またまたぁ……やめてよ、二人とも」
カナリスの顔がこれ以上無いくらい真っ赤になる。
変なの。別にカナリスは女の子なんだから、照れることないのに。
「あ、そうだ」
俺は照れ笑いをするカナリスを思わず
うん、よく撮れてる。
投影機の中には、 その日のベストショットが収まっていた。
別に肌を晒したり挑発的な格好をする必要は無い。こういう恥じらいの表情こそが、読者の望むものなのだ。
「マオくーん、続き撮るよ!」
「あ、うん!」
こうして撮影は無事進み、投影機の中には大量のセキレイとカナリス、そして俺の女装姿が収められたのであった。
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