第48話 魔王様と身体測定(2)

「ひゃっ!」


 慌てて前を隠すカナリス。

 や……ヤバい! 男子生徒全員にカナリスの裸が見られてしまう!


「ご、ごめんっ……って、あれ?」


 俺はマジマジとカナリスの体を見た。

 白く華奢な上半身には、男のように真っ平らな平原が広がっている。


 胸が……カナリスの胸がない!!


「どうしたの?」


 カナリスは怪訝そうな目で俺の顔を見やる。


「い、いや、なんでもないよ。着替えの邪魔してごめん」


 平静を装いカーテンを閉める。


 どういうことだ……!?


 カナリスが、男になった!!??

 とうとう手術をして取ってしまったのか!?


 い、いや、そんなまさか……。


「次、マオくん」


「はいっ!」


 考えている間に自分の順番が回ってきてしまう。


「よし、異常はなさそうだね」


「ありがとうございます」


 検査を終え、カーテンの外に出る。

 チラリとカナリスの方を見たが、やはりどこからどう見ても男である。


 もしかして……あれは魔法なのだろうか。

 ひょっとしたら、一時的に性転換する魔法や薬があるのかもしれない。さすがカナリス。準備がいいな。


 とりあえずカナリスが女だということはバレなそうだ。


 ほっと息をつくと、制服に着替えて部屋を出た。





「あっ、いたいた、マオ!」


 廊下に出ると、ルリハがこちらへ駆けてくる。


「ルリハ。身体測定終わったの?」


「ええ。それより見て、これ」


 ルリハが得意げに身体測定の結果を見せてくる。


「身体測定の結果がどうかしたの?」


「どうかしたのじゃないわよ! 私、2cmも身長が伸びたのよ。マオは?」


「ぼ、僕は1cm……」


「ふっふっふ、勝ったわ!」


 偉そうに無い胸を張るルリハ。


「1cmも2cmもそんなに変わらないよ!」


「そんなことないわ。大きな差よ」


「いやいや、誤差の範囲内だね」


「何よぉ」


 俺とルリハが口論をしていると、いきなり後ろから女子がルリハに抱きついてきた。


「やっほい、ルリハちゃーん。身長大きくなったんだって?」


 見るとそこには、若草色の髪をふんわりとボブカットにしている女の子。


「ひゃあっ! な、何するのよチグサ!」


 チグサ? どこかで聞き覚えのある名前なような。


「ん~、ルリハちゃん、身長は伸びたらしいけど、はあんまり成長してないんじゃない?」


 言いながら、ルリハの無い胸を揉みしだくチグサ。ルリハの顔が見る見る赤くなっていく。


「よっ、余計なお世話よーっ!」


「そうだぞ。ルリハの胸はこじんまりとしていて収納に便利だし」


「全然褒めてないわよ、マオ」


 ルリハは俺をジロリと睨みつける。

 チグサはなおもルリハの無い胸を後ろから揉みしだくと、髪に頬ずりした。


「にゃはははは☆ でも同居人ルームメイトの成長具合は気になるじゃん?」


 ルームメイト!?

 

 そういえば、俺が女子寮に潜入する時、ルリハは自分の制服だと小さすぎるから、ルームメイトから制服を借りたって言ってたっけ。

 

 ということは俺が女装する時に着たのはこの子の制服だったって訳か。


 確かに言われてみれば身長や体型は割と俺と近いかもしれない。もちろん向こうには俺と違って胸があるけど。というか結構大きい。


 俺がチグサの胸を見ていると、彼女の猫のような目がすうっと細くなる。


 ヤバい。胸を見ていたことがバレたか!?


「そう言えば……マオくんでしたっけ? 見たよォ、キミの女装姿。大変よく似合ってましたねぇ、ふふ」


「ど、どうも……」


 するとチグサは音もなくルリハから離れた――かと思いきや、いきなり後ろから俺に抱きついてきた。


「にゃーん!」


「う……うわっ!?」


 チグサは俺の胸元に手を回すとワシワシと胸を揉んできた。


「あれれ、固い! やっぱりマオくんは男の子ですねぇ。ひょっとして女の子じゃないかという噂があったので確かめようと思ったのですが、これは紛れもない雄っぱい!」


 何を言っているのだこの女!

 というか、逆に背中に柔らかいものが当たって――


「ちょ、ちょっとチグサ!」


 ルリハが大慌てで俺からチグサを引き離す。


「ええ~? ちょっとスキンシップしただけじゃないですかぁ。全くルリハってばヤキモチ焼きなんですからっ!」


「や、や、ヤキモチなんて焼いてないんだから!!」


 ルリハは廊下の先まで響き渡るような声で叫ぶ。


「ルリハ、ちょっと落ち着いて」


「私は落ち着いているわ!」


 どう見たって落ち着いていない。

 それにしても……


「まさか、別のクラスにまで俺が女だという噂が広まっていたとは」


 俺はガックリと肩を落とした。

 クラスの男子どもといい、一体どうなっているのだ。全く、俺を女と間違えるなど、ここの奴らは見る目がない!


「仕方ありませんよぉ」


 チグサは投影機を取り出す。


「ほら、これなんか本物の女性と見間違うくらいに可愛いですよね~」


「ど、どうも」


 ずい、とチグサの顔が近くに迫ってくるので、俺は慌てて後退りをした。


「でも、どうも不思議なことがあるんですよねぇ」


 チグサが唇に人差し指をあて、上を向く。


「不思議なこと?」


「ええ。なんでマオくんがいきなり女装をしようなんて思ったのかです」


 チグサの不敵な笑みに、思わず心臓が口から飛び出そうになる。


「そ、それは……」


「決まってるじゃない、似合ってるからよ!!」


 しどろもどろになる俺の代わりに、ルリハが答える。


 チグサは腕組をし、口元に笑みを浮かべたまま頷いた。


「ほうほうほう。ではその日に、女子寮に見慣れない女生徒が侵入していたという噂は嘘だったんですね?」


「えっ……?」


 戸惑っていると、チグサは投影機で念写像しゃしんを見せてきた。


「こ・れ♡ マオくんじゃありませんかぁ?」


 ニヤニヤと笑うチグサ。


 念写像しゃしんには、遠くからではあるが俺の女装姿がバッチリ映っていた。


「男子生徒が女子寮に立ち入るのは校則違反ですよね? この事が学校にバレたらまずいのではないですかぁ?」


 ニヤニヤ笑い続けるチグサ。


 や、ヤバい。


 女子寮に潜入したことがバレてる――!?

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