番外編① 魔王様と身体測定
第47話 魔王様と身体測定(1)
それは、あの偽魔王事件から数週間後の出来事であった。
「はぁ……」
俺は部屋で「身体測定のお知らせ」と書かれた用紙を見てため息をついていた。
「どうしたのマオくん」
カナリスが不思議そうに聞いてくる。
「うん、明日は身体測定でしょ? だから憂鬱なんだよ」
身体測定のお知らせをカナリスに見せる。カナリスは不思議そうに首をかしげた。
「どうして。身長が伸びていたりしたら嬉しくない?」
「そりゃあ伸びたら嬉しいけど、見た感じそんなに変わってない気がするし。それがはっきりと数字になると凹むというか」
ぶっちゃけ俺はクラスの男子の中で一番小さい。そんなのは計らなくたって見ただけで分かる事だ。それをまざまざと数値化するなど、考えただけで憂鬱になる。
ブツブツと文句を言っていると、カナリスが豪快に笑い飛ばす。
「大丈夫だよぉ。きっと大きくなってるって」
「そうかなぁ」
俺は笑うカナリスをじっと見つめた。
「それよりカナリスこそ、大丈夫なの?」
「何が?」
「身体測定のお知らせ」を指差す。
「ほらここ。『心臓や肺の検査をする際に服を脱ぐので脱ぎ着しやすい服装で来ること』って書いてあるけど……」
服を脱ぐなんて、カナリスの性別がバレたらどうするんだ?
「うん、それなんだけどね」
カナリスが天井を向いて考える。
「大丈夫、手は打ってあるから」
自信満々の表情。どうやら何か作戦を考えてはいるらしい。
「そっか」
俺はそれ以上は追求しなかった。
◇
「それでは、女子は保健室に、男子は生徒指導室に移動するように」
そして翌日、クザサ先生が無表情に告げ、身体測定が始まる。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
カナリスと俺は、生徒指導室に移動した。
いよいよか。一体カナリスはどうやって身体測定を乗り切るんだ?
ドキドキしていると、白衣に身を包んだレノルがカナリスに駆け寄ってきた。
「それじゃあ委員長のカナリスくんは記録係をお願いします」
「はい」
レノルから記録用紙を受け取るカナリス。
なるほど、記録係になる事で身体測定を後回しにしてもらい、後でこっそり一人で受ける作戦だな。
レノルならカナリスが女の子だって事を知ってるし、きっと上手く取り計らってくれることだろう。
ホッと胸を撫で下ろし、隣の空き教室で着替えを済ませ、薄着になって身長と体重を測る。
「あっ……1cm増えてる!」
びっくりすることに、ほんの少しだけど身長が伸びていた。
見た目はそんなに変わったようには見えないが、きちんと成長しているんだと思うと感慨深いものがある。
「良かったねー」
カナリスが嬉しそうに記録してくれる。
ちなみに体重は3Kg増えていた。
「そんなに太ったかなぁ」
ガッカリしながら腹の肉をつまんでいると、レノルが微笑む。
「身長も伸びましたし、脂肪より筋肉の方が重いですから」
「そっか、体が鍛えられてるってことか」
肘を曲げて、ささやかだけど力こぶを作ってみる。相変わらず腕は細いが、力を込めると確かに筋肉がついたことが分かる。
ダンジョンの中を歩いていても以前より疲れないし、体つきもがっしりしてきた気がする。この調子でいつかは昔の姿に戻りたいものだ。
「だいぶスムーズに進んでいるようだな」
そこへクザサ先生がやってくる。
「ええ、みんな協力的ですから」
カナリスがにこやかに答えると、クザサ先生は感心したように頷いた。
「そうか。ではカナリス、ここは私が見ているから君も今のうちに身体測定を済ませておきなさい」
「えっ!?」
動揺するカナリス。
「後に回すより今やった方が効率が良いだろう。女子はまだまだ時間がかかるようだし。さ、行ってきなさい」
無情にもカナリスの持っていた記録表を取り上げるクザサ先生。
そうか。先生ってば、カナリスの性別のこと知らないんだ!
だがカナリスは、一旦ぐっと唾を飲み込んだ後、満面の笑みで言った。
「分かりました。ありがとうございます」
ええ!? 大丈夫なのかな。
どうしよう。カナリスが男子たちの前であられもない姿になってしまったら!
いや……でも待てよ。よく考えたら胸を見せるのは医者の前だけで、クラスのみんなの前で裸になる必要はない訳だ。ということは、医者にさえ話を通しておけば何とかなるのか?
教室に着替えを取りに戻るカナリスの後ろ姿をぼんやりと見つめていると、名前を呼ばれる。
「マオさん、次は先生の肺と心音の検査がありますので、上のシャツを脱いでこちらでお待ちくださいねー」
「えっ?」
見ると、上半身裸の男子生徒たちがずらりとカーテンの向こうに座って検査を待っている。
……待てよ、これ。
まずくないか!?
「どうしたんですか?」
「い、いえ、脱ぎます」
俺がいそいそと服を脱いでいると、クラスの男子生徒数人にじっと見つめられていることに気づいた。
「……え、な、何!?」
恐る恐る俺が尋ねると、男子生徒たちはため息をつき始めた。
「ほら見ろ、やっぱり男子だろ」
「ちぇっ、俺、マオが実は女子だっていうのに20ゴールド賭けてたのに」
「賭けは俺の勝ちだな! 大人しく昼飯奢れよ!」
よく分からないが、どうやら俺が本当に男子かどうかで賭けをしていたらしい。
いくら髪が長くて身長が低いからって、よりにもよって俺の事を男装した女子だと思う奴がいるとは!
イライラしながら椅子に腰掛ける。
「でも、賭けはまだ終わってないぜ! マオは男だったけど、俺はカナリスが女だっていうのに賭けてるから」
先程の男子が笑う。心臓が飛び出そうになった。
なっ……バレてる!?
「いやいや、さすがにそれはないっしょ」
「えー、でもまつ毛めっちゃ長いし、近くによったらすげぇいい匂いしたんだけど。あれは絶対に女子!」
「んなわけねーだろ、いい加減にしろよ」
ドキドキしながらクラスの男子どもの会話を聞いていると、カーテンの向こうからカナリスの声がした。
「すみません、遅くなりました」
カ、カナリス!? このタイミングで!!
「じゃあ、次は肺と心音の検査があるので、上を脱いでこちらでお待ちくださいね」
「はーい」
呑気な返事。
ええっ、嘘だろ!?
こんな獣のように女に飢えた男子高校生たちの前でカナリスが上半身裸になるだって!?
だっ、駄目だ! そんなの駄目だぞ!!
「カ、カナリス!」
思わずカーテンを開ける。カナリスが着替える前に注意しようと思ったのだが、そこにはすでに上半身素っ裸のカナリスがいた。
なんというタイミングの悪さ!
「ひゃっ!」
慌てて前を隠すカナリス。
や……ヤバい! 男子生徒全員にカナリスの裸が見られてしまう!
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