第9話 魔王様と探索準備
「ダンジョンは探索が一割、準備が九割」という人間どもの古いことわざがある。
昔の俺は、そんな格言など気にしてはいなかったのだが、今となってはその言葉の良さが身に染みる。
「回復薬と魔力回復薬下さい。それから、このダガーナイフも」
一度目の探索に失敗した後、俺たちは大急ぎで購買に行き、なけなしの小遣いで回復薬と武器を買い求めていた。
「ナイフ? マオは僧侶でしょ」
ルリハにはビックリしたような顔をされるが、二人しか居ないパーティーなのだから、回復役だからだとかそんなことを言ってる場合ではない。
「ルリハの魔力を節約するためには僕も攻撃手段を持たないと」
二人でダンジョンをクリアするには、できればルリハの魔法はボス相手に温存し、雑魚は俺が何とかするという作戦でいくしかない。
「マオ、本気ね」
「うん。まぁね」
レベルを上げないと進級できないのだから本気で取り組むしかない。
よくよく考えたら、今回は探索の前に仲間の魔法も確認しない、ろくに装備や回復薬も揃えないと、あまりに無計画であった。
次からは、ちゃんと作戦を立ててダンジョン探索に臨まないと。
買ったばかりのダガーナイフを装備する。
できる限りの装備は揃えた。
後は……何とかルリハの魔力を上げる方法を考えなくては。
◇
寮に戻ると、虹色に輝く投影機に魔力を込める。
「アレクサ」
名前を呼んで起動させると、金髪で緑の服を着た可愛らしい
「どうしましたでしょうか、ご主人様」
アレクサがぴょこんという効果音と共に小首を傾げる。
学園から支給されたこの最新式の投影機では、人工精霊を呼び出すことができ、精霊を介して遠く離れた場所にいる人物と通話ができるのだ。
「えっと、通話をしたいんだけど。この番号」
くちゃくちゃになった紙をアレクサに見せる。レノルの連絡先だ。
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
シュンという音とともに消えるアレクサ。相変わらず不思議な魔道具だ。一体どういう
程なくして、見慣れた銀髪の神官の
何かあったらすぐ連絡するようにと言われていたのに、しばらく放ったらかしにしておいたので、さぞかし怒っているかと思いきや、レノルは思いのほか上機嫌だった。
「実は私、最新式の投影機を買ったんですよ。凄いですねーこれ。動画もヌルヌル動きますし、音質もかなり良くてですね」
自分の買った最新機種がいかに優れているかを喋り続けるレノル。恐らく山奥の神殿に暮らしていては誰にも自慢できないので、話し相手に飢えていたのだろう。
「いやそれはいいんだけどさ」
レノルの自慢を遮ると、さっそく本題に入る。
「――というわけで、仲間が出来たのだが魔力が少なくてあまり魔法を使えないのだ。どうしたらいいと思う?」
レノルは眉間に深い皺を寄せた。
「そんな使えない人間、パーティーを首にしてしまえば良いのでは」
「あのなぁ」
何となくレノルはそんな風に言いそうな気はしていたが。というか、かつての俺でもそういう判断をしていたかもしれない。
だがそれでは困るのである。ルリハとパーティーを解消した所で、新たに仲間ができる保証なんてないのだから。
「せっかく出来た仲間なんだし、首にするのは無しの方向で。だいたい使えないのは俺も同じだし」
「そうですね」
「そうですね、じゃなくて、何とかして魔力を増やす方法は無いか?」
「とりあえず、最初は金にものを言わせて魔力を増やす装備やポーションを揃えることですね。そうしてダンジョンに行き、なるべく多くのモンスターを倒せば自然にレベルが上がり、魔力が増えるでしょう」
真面目な顔をして答えるレノル。レノルの癖にごく真っ当な普通の回答をするのだな。
「でも俺たち金が無いんだけど」
「そうですねぇ」
レノルは考えこむ。
「そういえば私が学生の頃はアルバイトをしていました」
そう言えばこいつ、昔は人間だったとか言ってたな。あまりレノルの制服姿は想像できないが。
「アルバイト? どんなのだ」
「学校のすぐ横に神殿があるでしょう?」
「ああ、なるほど、神殿でアルバイトするんだな?」
「いえ、適当に神殿に並んでる人に声をかけてヒールをするんです。もちろんお金を取って」
「ええ?」
人が神殿に行くのは無料で病気や怪我を治してほしいからだ。それを金を取るというのか。しかも神殿のそばで。
「それって儲かるのか」
「ええ。神殿に来る人の中には、無料だからと軽い気持ちで来て、あの行列を見て後悔するという人が必ずいます。そこですぐに治してやると言えば、多少高くてもお金を払ってくれるというわけです」
そんなに上手くいくのだろうか。
「でもそれ、見つかったら停学、いや退学になってもおかしくないんじゃないか?」
「そこは上手くやるしかないですね」
「いやいや、俺はやらんぞそんな危ないこと」
できればそんな危ない橋は渡りたくない。
「魔王様ともあろうお方が、そんな小さなことを恐れるとは」
「俺はお前みたいな不良と違って優等生なんだよ。わざわざそんな危険を犯すほどバカではない」
ムッとして答える。
「それ以外で何か方法はないか」
「そうですね」
レノルは少し考え込む。
「そう言えば、その娘の使う魔法は古代魔法だと言っていましたね?」
「そうだが?」
レノルの
「では、こういうのはどうです。いっその事、考え方を変えてみるのです」
「考え方?」
考え方を変えるとは、一体どのようなことなのだろうか?
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