第8話 魔王様とルリハの魔法
クラスでも目立たないぼっちのところにいきなり美少女が訪ねてくる。――
何故そんなことを考えているかというと、ルリハが俺のクラスに来るなり大声で叫んだからである。
「マオ、準備できた? さっさとダンジョンに行くわよ!」
皆の視線が一斉に俺に注がれる。全身が沸き立つみたいに熱くなった。端的に言って、恥ずかしい。俺は必死に他人のふりをしようとしたが、それも無駄な努力だった。
「マオくん、呼んでるよ?」
マリナが満面の笑みで俺の肩を叩く。
「う、うん」
「お友達ができたの? 良かったわね」
嬉しそうに手を叩くマリナ。善意なのは分かっているが、余計なお世話である。
「ただのパーティーメンバーだよ」
「へー、マオくん、あの子とパーティー組むことにしたんだ」
「うん。なりゆきで」
マリナのやつ、やけに絡んでくるな。何が言いたいのだろう。
もしかして初日で女だという理由でパーティーを組むのを断ったのに、結局他の女子と組むことが気に入らないのだろうか。
「良かった。このままだとマオくん、誰とも組めないんじゃないかって心配してたの」
ホッとする表情を見せるマリナ。どうやら本気で心配されていたらしい。
「あの子、C組のルリハさんね。凄く可愛いわよね。マオくんとお似合いだわ。ねっ、セリ」
よりにもよって隣にいたセリに同意を求めるマリナ。
セリは俺の机にドカリと腰掛けると、下品な黒のパンツを見せながら顔をしかめた。
「はァ? マオが女と組むとか、生意気なんですけどー」
「そういう風に言うのは良くないわ。可愛いし、マオくんと組んでくれるなんて、きっと凄く良い子だわ」
「フン。確かにサイズ的にはピッタリかもね。あんたより小さい子なんてそうそう居ないし」
馬鹿にしたように笑うセリ。
「せいぜいお子様同士仲良くやればァ? キャハハハハ!」
「ちょっと、セリったら」
ビッチに絡まれて気分を害しながら、俺はルリハの元へと向かった。
「おっそーい」
腰に手を当てプンスカ怒るルリハ。
「ごめんごめん。ちょっと準備に手間取っちゃって」
言いながらも、俺はじっとルリハを見つめた。確かに小さい。俺もルリハよりほんの少し大きいくらいなので人のことは言えないが。まるで小学生である。
「な、何よ、人のことジロジロ見て」
「いや、本当に小さいなって」
「は?」
ルリハが慌てて胸を隠す。そこじゃない。
「違う違う! 身長だよ」
「どっちにしても失礼だわ」
ルリハが頬を膨らます。
「でも男と違って女子は身長が小さい方がモテるんじゃないの?」
「イヤよ。私はもっと背が高いほうが良かった」
「そうなんだ」
「でも魔王様は山のように大きく筋骨隆々だったいうし、私もきっと将来はエルフのようにスラリとした美人になるわね」
ツッコミを入れた方がいいのだろうか。コメントに困る。
「さて、ついたわね」
初日の授業で来たあのダンジョンの前にやってくる。
ダンジョンの横にあるプレートに手をかざすルリハ。光が溢れ、数字が浮き出てきた。
このダンジョンには複雑な空間転移の魔法がかけられている。
目の前の装置でレベルを調節することで、ダンジョンは使用者のレベルに見合ったダンジョンになるのだという。
「そう言えばアンタってレベルいくつだっけ」
クルリとルリハが振り返る。
「レベル1だよ」
「ウソ」
「残念ながら本当なんだ」
ルリハは驚いたように俺を見た。
「まさか私より下がいたとはね」
「がっかりした?」
ルリハはクスリと笑う。
「ううん。変に高レベルより気楽でいいわ」
「ちなみにルリハはレベルいくつなの?」
「私はレベル3よ」
ルリハが自分とさしてレベルが変わらないことに少し安心する。あまりレベル差があると、申し訳ないから。
「私の方がレベルが高いから私がリーダーでいいわね?」
「別にいいけど」
特に反対する理由も無い。
「じゃあとりあえず、一番下のレベルにするわね」
浮き出た数字から「1」を選びルリハがタップすると、うなるような低い音がし、ダンジョンの入口が開いた。
「さ、行くわよ」
ひんやりとした洞窟内へと慎重に足を踏み入れる。
人工的に作られたダンジョンだけあって、 壁には松明が赤々と燃えていて足元は明るい。
だが先まで見通せる程の明るさでなく、ソロリソロリと奥まで進む。
「あなたは回復魔法を使うんだたわよね。私のサポートをお願いね」
「うん」
スタスタと歩いていくルリハ。
上手くルリハをサポートできるだろうか、そんな不安が頭をよぎる。
魔王城にいた頃は、他人と一緒に戦ったことなどない。
大体の相手は、俺が剣を振るったり闇魔法を浴びせれば一瞬の内に倒せたからだ。
だけれども今の俺は弱体化しているし、剣士や武闘家が居るならともかく、仲間は魔法使いのルリハだけ。心細いことこの上ない。
「モンスターが出たわよ」
ルリハの声に顔を上げる。目の前にいたのは、プルプルと揺れる青いスライムだ。
「ファイアー!」
ルリハの杖から赤々とした炎が吹き上がる。スライムは一瞬で消し炭になった。
低レベルの割には炎の質は悪くない。スライム相手には勿体ないほどの炎だ。
「すごいじゃん、ルリハ。良い感じの炎だ」
褒めてやると、ルリハは無い胸を張って笑う。
「ふふん、そうかしら。やはり魔王の力を受け継いでいるからかもね」
「そうだね」
俺はルリハの妄言を右から左に受け流した。
「それに、もしかしてルリハの魔法って古代魔法?」
「良くわかったわね。先祖代々受け継いでいる由緒正しい魔法よ」
魔法には大きく分けて現代魔法と古代魔法の二つの種類がある。
現代魔法は、シンプルで分かりやすく、初心者でも扱いやすいのに対し、古代魔法は、扱いは難しいが自分の好きなように魔法をカスタマイズ出来るのが特徴だ。
今では古代魔法を使う人間はまれで、現代魔法が主流であるが、ルリハのように古い家柄の人間は古代魔法使いであることが多いらしい。
「マオ」
ルリハにローブを引っ張られる。
「ボーッとしてないで、またスライムよ!」
「ご、ごめん」
目の前には三体のスライムが揺れている。
「ファイアー!」
三体のスライムが一気に燃える。だが、ルリハの様子がおかしい。
苦しそうに肩で息をしていて、いかにも疲れた様子なのだ。
「マオ、あんた何か攻撃魔法使えないの?」
ルリハが俺を見やる。
「え、使えないけど」
俺が言うと、ルリハはチッと舌打ちした。
続いて、またしてもスライムが現れる。今度は勢いよくポヨーンと俺に向かって飛んでくる。
「うわっ」
顔をスライムに覆われる。苦しい。窒息死しそうだ。
「マオ!」
ルリハが必死で俺の顔からスライムを引きはがす。
「はー、助かった」
「逃げるわよ」
ボソリと呟くルリハ。顔が青い。
「え、どうして。魔法は」
「使えないわ」
「えっ?」
「もう魔力が無いのよ!」
ルリハが汗をダラダラ流しながら振り返る。
「だって、まだファイアーを二発しか」
「二発しか打てないのよ」
イライラした様子で叫ぶルリハ。
この言葉に、俺は彼女の抱える問題を理解した。どうやら彼女は、ファイアーを二回放っただけで魔力切れになるらしい。
いくらレベル3だからって、そんなことってあるのか?
俺たちは、息を切らしながらレベル1のダンジョンから逃げ出したのであった。
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