月のライン 7-4


 メルは町なかを駆けていた。


 楽しげな笑い声の間をすり抜けて、来た道を戻って行った。


 ロイに、手紙を渡してくるので、あのベンチで待つよう言ったが、おそらく待ってはいないだろう。


 あのあとすぐに、小学校のほうへ行く、と言って聞かなかった。


 畑を壊すつもりだろう。この町のために、ロイは証拠を消そうとしているのだ。


 メルは役場前の広場に着いた。


 上下に動きながら、回り続けるメリーゴーランド。移動式遊園地。


 その費用を出したのは、他ならぬ町長だ。


 この町のため、ロイも町長も、自分の身を尽くしている。


 それぞれ違うやり方で。


 メルは辺りを見回した。


 メリーゴーランドの近くに、メルの父はもういない。


 けれど役場の前にはまだ、町長の姿が見えた。


 町の人々と談笑している。


 メルの足がそっと近づく。


 何も言わずに、手紙を町長に差し出した。


 町長の顔から笑いが消える。


 封筒を開くと、花びらが一枚、その足もとにひらり、と落ちた。


 町長はメルの顔を見る。


「僕はロイの友達です」


 とメルは言った。


「お願いです。彼を助けてあげてください」


 その眼差しに、嘘をついている欠片もなかった。


「この島にロイはいるのか?」


「今、畑のほうへ行きました」


 町長は封筒をしわくちゃに握りしめ、人々を押し退けて駆け出した。


「花に近づいちゃいかん!」


 町長は心の底から叫びながら、絡みそうになる足を、一生懸命、動かした。


 走り去る背中を見送って、メルは、その場で目を閉じた。


 もう……大丈夫だ。


 ロイ、きみの信じたように、まだ父親は、息子を想う。


 僕には、手紙を届けることしか、他には何もできないけれど、互いに心を通じ合わせることに繋がるのなら、これ以上のやりがいはない。


 開いたメルの目の中に、ライトアップされた町並みが映った。


 幻なんかじゃない。


 ちゃんとこうして、ここにある。


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