月のライン 7-3
すぐ目の前に駆けつけた、メルの問いかけるような視線を受けて、ロイは小さな声で答えた。
「メルがなぜここにいるのか、俺には分からないが、今ここでメールボーイに会えたことは、俺にとって好都合だ。聞きたいことがあるんだろう? そこに座ってくれ」
メルはロイと一緒に、近くのベンチに腰掛けた。
街灯の明かりが、2人の上から降り注ぐ。
「リカも心配してるんだ。お前のことが好きだからだよ」
メルがロイに訴えた。
「僕が知らなかったとでも思っているのか? もう何年一緒にいるんだよ。小学校の時からの友達だろ。悩みがあるなら、打ち明けてくれ。言えないのなら、手紙でもいい。僕に、届けさせてくれ」
するとロイは、コートの内ポケットから、一通の封筒を取り出した。
少しほっとしたメルに向かって、ロイは差し出す。
「同じことをしても、効果がないのは分かってる。だけど俺には、こうするしか他にない。自分で渡そうと思ったが、メル。この手紙を、町長の元に届けてくれ」
「町長に……?」
メルは手紙を受け取った。
「仲直りの手紙なら、喜んで配達するさ」
その言葉に、ロイは悲しそうに笑った。
「そうじゃない。俺は父親の愛を確かめようとしているんだ。メル、不思議に思ったことはないか? なぜ、俺たちは同じ小学校に通っていたんだろう。お前は本土で生まれたから、当然、地元の学校に通う。だが俺は、毎日、島からそこへ通った。どうして。島に小学校があるにもかかわらず、だ」
ロイが急に饒舌に語り出したのを、メルは驚きながらも聞いていた。
ロイは言った。町長が小学校の裏の畑で、幻想花の栽培をさせていたこと。
本土のマフィアに横流しするかわりに、金銭を受け取る。
その汚い金で、この島は成り立っている。
アクアアルタから町を守るため、防水壁を建てるためだとしても、ロイは黒いものが許せない。
父を認めない。
「警察に……」
と、立ち上がったメルの袖を掴んで、ロイはまた座らせた。
「警察に通報するのはやめてくれ。この島がメディアにふれると、観光客も減る。島民はやっていけなくなるだろう。それだけは何としても避けなければ」
深刻な顔をしてロイが言う。メルはもう、何も言葉が出なかった。
「封筒の中に、幻想花の花びらを入れておいた。俺が本土で、夜中に買い取ったものだ。親父の言っていた通り、本当に密売していたんだ。前にも同じのを送ったが、今こうして、俺の捜索願いが出ていないとこを見ると、親父の俺を思う気持ちは、もうなくなってしまったのかもしれない」
ロイは悔しそうに俯いて、両手で自分の頭を抱えた。
「それでもまだ、俺は信じることを捨てきれないんだ。自分の息子を、幻想花のそばで育てたくなかった父の、その時の想いを、呼び戻したい。手を引いてくれることを信じてるんだ。自分の息子が、幻想花の被害者になることに、耐えられる親がいるだろうか?」
ロイはかぶりを振って立ち上がった。
「見ろよメル。この町の幻想を。美しい町並み。きらびやかな光。維持しているのは、犯罪者だ。俺たちは知らずに、ただ表面だけの幻を見ていたんだ」
そして、ロイはポツリと言った。
「変えられないなら、海に沈んだほうがよっぽどマシだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます