第2章
第14話 パソコンの中身
起動した真っ暗な液晶画面。
中央に緑色の王冠が描かれたロゴが表示されると、高い声が画面から響きだす。高く加工されたその声質はどこか遊びに誘ってくる陽気な少年を思い起こさせる。
『やあ! ボクの名前は城崎裕司。警察のみなさん、ごきげんよう』
『ボクは金田鉄生という男の命を狙ってる。ボクから十三万を借りといて返さないアイツはすぐに葬ってやる』
『彼がこの世で彼である限り、ボクは他の民間人への手出しも辞さない。止められるものなら止めてみな、ハハハハ!!』
「どうだ? この動画がお前の自宅から、庁内のパソコンに送りつけられたんだ」
再生が終了し、机の上に置いたその銀の箱をそっと閉じて尋ねる。
茶色いコートを着た刑事――
「覚えは……全くありません。さっきから言ってる通り、僕はこんな動画見るのも初めてです。警察になんか送ってないし、撮ってもいない」
震えながらも首をひたすら横に振る。確かにパソコンはある――買い換えたばかりの最新型のものが。しかし、身に覚えは全くと言って無い。絶対に違う。やってない。
「答えは変わらず……か」
やれやれ、と肩をすくめる蔭山。やってない以外で手掛かりが出ればいいのだが。
「この庁内に送られてきた動画の発信源を特定してこうして辿り着けたわけだが、たとえ
「――最も、これがシロだろうとクロだろうと、この事件(ヤマ)のほんの一つの問題を解決しただけに過ぎないんだがな……」
思わず本音をこぼす。まだまだやらないといけないことが山積みな様子だ。
この動画が送りつけられた直後、東京駅はバイクに乗った集団によって白い風に包まれた。動画の城崎が言っていたことが現実となる。
それまで鉄生を追う殺し屋の動向を追っていた警察は、その黒幕を追う方面と東京駅の事件を追う両面で捜査、先に城崎の身柄を確保。
だが東京駅の実行犯をはじめとした事件に参画する者は多く、完全にこれらの全貌を解明しきれていない。
動画を送りつけるくらいならば
事実、今回の事件は殺し屋といった裏社会に関わる人間が大勢関与している。戦闘員だけでなく、コンピュータに長けた者がいても不思議ではない。
彼の職業がITベンチャー企業に勤めるエンジニアだったとしても、プログラムの知識がある人間がパソコンに少し細工をかければ何だって出来てしまう。
プログラムで命令を出してやれば、コンピュータはただそれを無感情に実行するだけの存在。
城崎が本当に自分で動画を作成してやったのか、全く面識もない第三者がパソコンを乗っ取ったことによる犯行か――真実はパソコンの中にある。
「この動画のこと、あとは鑑識の解析結果に任せるとして――」
「金田鉄生と何があったのか、経緯を全て説明して欲しい。動画から見て、貸し借りした十三万円を巡ってトラブルとなり事件を起こしたというのがこちらの見解だ。どうなんだ?」
じっと蔭山の鋭い眼差しが城崎を睨みつける。
「十三万円を貸し借りしたのは本当です。二週間前の四国の旅行で彼がクレジットカードを失くしたことが全ての始まりで――」
「(四国の旅行……? これは初耳だな)」
そう切り出すと、城崎は二週間前の出来事を話しだす。蔭山の後ろ脇の机でメモ取りをする女性警官の筆が早まる。
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