AI 自分語り ランニング
空は重く、鈍色をしていた。
どうしてこんな天気の日に慣れない事を始めてしまったんだろうか。ランニングなんて。
走るペースを上げる為に左腕につけたスマートフォンのAIに話しかけた。
「ザ・スミス、ディスチャーミングマンをかけて」
彼女はイヤホンから機械的な返事を投げかけ、2つ数える間も無く軽快なギターのカッティングサウンドが聞こえた。
思い出したのだ。
なぜ鬱屈としたこんな日にランニングなんか始めてしまったのか。
彼はいつも身の上話から始める。
SNSやネットの掲示板などで言うところの自分語りというやつだろうか。
その後はお決まりだ。間髪を入れずに甲高い破裂音が聴こえる。昨日はお気に入りのグラスだった。高かったのに。
いつもいつも自分のことを棚に上げて、こちらの落ち度ばかり責める。
酒が入っているのも良くない。こんな事なら別れてしまおうか、そう思ったことも一度や二度ではない。
ただ、そんな彼がたまらなく愛おしい。
ただ、すべて思い通りになる男など退屈で仕方がない。
「くだらねー」
ぽつりと呟いた独り言など空に吸い込まれて消えてしまったようだ。
俺はイヤホンを外し、彼の好きな甘いものを買いにコンビニへと歩を進めた。
三題噺ショートショート saṛī @chaan_sally
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