三題噺ショートショート

saṛī

宇宙 空想 時間

時間は有限だ。

かつて僕の知らない世界で偉い人は言ったらしい。


いつか終わりが来ることを夢見て、僕は毎日を過ごす。

僕の見てる空はマンホールの口から見える半径50cm程度のもので、それ以上のものがあるなんて、想像すらできなかった。


彼女は言った。

あなたはなんてつまらない世界を生きているのかしら。世の中にはこんなに美しい世界が広がっているのに。


僕にとっては、空が晴れれば熱に侵され、空が陰れば火を焚き、雨が降れば逃げる、美しいもの?空想の産物ですらない。


雨で濡れる紫陽花の彩、雨が上がった後の虹の掛かる空、草木生い茂る春の匂い。

彼女は僕にとっては全てを持っていた。

かけがえのない存在だった。


彼女が死んだ。


最期に言い残した言葉は、あなたは知らない世界があり過ぎる。わたしですら知らない世界があるらしい。この空の向こうには宇宙っていう空間があって、数え切れない程の星が光っているの。きっとわたしや、あなたみたいな見たこともない素敵な人がたくさんいるの。


彼女は光だった。


いつも見ている窓の外には世界があるらしい。

覗いてみたくなった、今にして思えば、きっと、至極真っ当な感情だった思う。


僕は光を目指して登り始めた。

手は削れ、資材も使い切り、食料も尽きた。


彼女が僕の前から居なくなって数え切れない程の夜が明けた、ある朝だった。


僕は遂に達成した、空の淵に手を掛けて、体を持ち上げた。


光の先にあったのは草ひとつない荒野だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る