第8話 リーク
保科が厳重なる緘口令を敷いたにもかかわらず、その日の夕方にはマスメディアに漏れてしまった。現役の高校教師が気に入らない生徒を嵌めるべく、自分が顧問を務める剣道部の部員を煽動して剣道部員と共に、喫煙して事もあろうにその喫煙の事実をその気に入らない生徒と、それにその生徒が入部している図書部の部員にまで喫煙の濡れ衣を着せようとした…、そんな内容の新聞記事が出てしまったのだ。すっぱ抜いたのは築地に本社を構える左派系の新聞社である中央新聞であった。夕刊一面にデカデカとそれが掲載されてしまったのだ。午後4時半頃に学校教育教材用資料として定期購読している中央新聞夕刊が学校に配達されて事務職員の手により職員室に届けられるとまず初めに教務主任である喜連川がその夕刊に目を通すなり、職員室に喜連川の悲鳴が轟いた。
「一体、何事ですか?」
学年主任の進藤が喜連川に近付いて尋ねた。
「こっ、これ…」
喜連川は夕刊を持つ手を震わせながら、その夕刊を進藤に差し出した。進藤は怪訝な表情を浮かべながらも件の夕刊に目を通すと、なぜ喜連川が悲鳴を上げたのか記事を読んで納得出来た。
「これ…、マズイですね…」
「ええ…」
進藤と喜連川のやり取りに、職員室にいた他の教師もただらなぬ気配を察して二人を取り囲んだ。進藤は他の教諭にも新聞を手渡した。すると進藤から新聞を受け取ったそれらの他の教師も件の記事に目を通すなり、顔を引きつらせ、不安や恐怖、といった表情を浮かべた。不安や恐怖を抱く原因は他でもない、他のマスメディアがこの大塚学院を取り囲むに違いない、という妄想を前にして不安や恐怖が押し寄せたのだ。
「ともかく、直ちに理事長と学園長に報告すべきでしょうね」
進藤はそう言うと喜連川も同感だと言わんばかりに頷き、
「それなら私は理事長に報告しますので、喜連川先生は学園長に報告をお願いします」
そう提案した。学年主任の進藤が大塚学院の2号理事として理事長の内藤派の一員であることは喜連川も承知しており、その上での提案であった。
「そうですね。そうしましょう」
喜連川も進藤の提案に即座に飛びつくと職員室から出て行った。進藤もその後を追うようにして職員室から出て行った。
進藤と喜連川よりほぼ同時に、中央新聞に例のタバコの一件をすっぱ抜かれたとの報告を執務室で受けた理事長の内藤と学園長の保科は共に驚愕してみせた。だがその後の反応には若干の差があった。端的に言うと内藤はショックのあまり口もきけず、といった具合に相当に衝撃を受けているのが傍目にも分かるほどであり、それに対して保科は今こそ理事長の内藤を追い落とす絶好のチャンス到来と受け取ったらしく、驚愕の中にもどこか喜色が浮かんでいた。
だがこれから、と言うよりはあと数時間後か数十分後にはこの大塚学院にマスメディアが大挙して押し寄せるに違いなく、その際に対応を誤れば理事長の内藤は勿論のこと、学園長である自分も責任を取らされるかも知れず、そうなれば内藤と共倒れ、ということにもなりかねず、内藤追い落としど ころではなくなる。それゆえ保科は気を引き締めた。
「直ちに職員会議を召集します。喜連川先生、そのように伝えて下さい。宜しいですね?」
喜連川から報告を受けた保科は喜連川にそう命じた。「分かりました」と喜連川は腰を折った。
「但し、開催場所は職員室ではなく大会議室で行うこととします」
大会議室は最上階にあった。滅多に使われることはなく、今日のような非常事態のために使われるような部屋であった。そしてそれは即ち、理事長も出席することを意味していた。大会議室には理事長の席があるが、通常の職員会議が開かれる職員室には理事長の席はないからだ。
「理事長には…」
喜連川が恐る恐る尋ねると、「私の方から連絡します」と保科が答えたので喜連川は胸を撫で下ろし、「それでは早速に…」と言い残して学園長室をあとにした。
保科は喜連川が退室するのを見計らって卓上電話の受話器に手を伸ばすと理事長室の内線電話の番号を押した。そして数コールの後、「はい…」という内藤の沈んだ声が聞こえた。
「保科です」
「ああ…」
「既に報告は受けられたと思いますが…」
「ああ。さっき進藤先生から話は聞いた」
「そのことで臨時の職員会議を招集することにしました」
「そうか。当然の措置だな…」
「場所は大会議室、内藤理事長、あなたも同席して下さいますね?」
「勿論だ…」
「それでは」
保科は受話器を置いた。
それから間もなく、大会議室で始まった臨時の職員会議では早速、誰が新聞社にリークしたのか、その犯人探しが議題となった。
「やはり生徒と考えるべきでしょう」
そう自説を開陳したのは青ざめた様子の内藤の隣に座っている保科であった。
「今日は授業も部活も中止となりましたからねぇ。午前10時には全校生徒を学校から追い出しました。一方で夕刊の締め切り時間ですが…」
保科の解説に呼応した副学園長の奥野は夕刊の上部左端に目をやり、
「この夕刊は4版…、つまり最終版ですから締め切り時間は午後1時頃…」
と呟いた。
「つまり午前10時に校門を出た生徒が新聞社にリークするには充分な時間的余裕があった、ということだな?」
奥野の補足説明の続きを内藤が先回りして答えた。
「ええ。単純計算ですが、午前10時から午後1時まで3時間もありますからね。記者にとってリークされた内容を記事化するには充分な時間と言うべきでしょう」
奥野はそう答えた。
「そしてその生徒だが…、やはり吉良士郎と考えるべきだろうな…」
内藤はそう呟くと天を仰いだ。
「まあ、そう考えるのが自然でしょうねぇ…。何せ記事には体育館の壇上でのやり取りが随分と正確に再現されていますからねぇ…。DNA鑑定の件まですっぱ抜かれている…。もしかしたらICレコーダーで録音しておいたのをそのまま中央新聞の記者にでも聞かせたのかもしれませんな」
保科はそう感想を洩らした。
「だとしたら怪しからん話ですなぁ」
進藤は腕組みすると向かい合って座る喜連川を見た。吉良は喜連川のクラスの生徒ゆえに、担任教諭であるあんたにもリークの責任があるんだぞ…、進藤の目付きはそう物語っていた。喜連川もそんな進藤のそんな視線に耐えられずに俯いた。
「今はリークしたのが誰かを追及している場合ではないでしょう」
保科はリークの犯人探しをしようとする内藤らをやんわりとたしなめた。
「問題は今後の展開です」
保科がそう言うと、「今後の展開…」と内藤は復唱した。
「テレビ局もニュースとして報道を始めるかもしれません。もし体育館でのやり取りについてレコーダーでもって録音されていて、その録音テープが中央新聞の記者に渡ったとすれば、中央新聞の系列の中央テレビがニュース番組の中でそれを流すかもしれない…」
奥野が引き取る形でそう言い、保科は頷いた。
「そうです。そうなれば数時間後には我が大塚学院の校門前に報道陣が殺到するかもしれません。これで何か他に大事件でもあればそちらの方に大衆の興味も移り、報道陣も大衆の興味には敏感ですからやはりそちらの方へと取材対象を移して大衆の好奇心の需要を満たしてやるでしょうが、生憎と今は政局も安定しており、大事件も都合良く起こるわけもなく、つまりはマスメディアにとっては開店休業、といった状態で、そんな時に事もあろうに教諭が生徒を嵌めるべく自分が顧問を務める剣道部の部員を煽動して未成年である部員にタバコを吸わせ、気に入らない生徒とその生徒が所属する図書部の部員にまで喫煙の疑いを擦り付けようとした、こんなことは前代未聞の不祥事が発生した、となればマスメディアにとっては 正に格好の獲物でしょう」
保科はそう分析してみせた。
だが保科のその分析は外れた。午後5時を過ぎても校門に集まったマスメディアはと言うと、中央新聞と系列の中央テレビの記者だけであった。
そのことを大会議室に現れた、校門で警備に当たっていた守衛からその事実を聞かされると内藤は胸を撫で下ろした。他の教職員もやはり胸を撫で下ろした。勿論、保科も内藤や他の教職員と同じく胸を撫で下ろしたが、しかしその一方でもう少し集まっても良いのではないか、などと不謹慎なことを思ったりもした。
だが今の段階でマスメディアに殺到されては当然、記者会見をしなければならず、ロクにマスコミ対策も練っていない今の段階でマスメディアの対応に当たったりすればどんな不測の事態が起こるとも限らない。そうなれば記者会見の場で不用意な発言をしてしまうかも知れず、一巻の終わりである。事実、充分にマスコミ対策を練らないままに記者会見に臨み、その結果、失脚した企業トップは数え切れない。それは学校も同様である。それゆえに今はマスコミ対策を練る方が先決であり、そのためには時間が必要であった。
「浅野先生は今は?」
保科は内藤に尋ねた。体育館から同僚教諭によって両腕を取られながら連れ出された浅野はその後で理事長室へと連れて行かれたのだ。その後、浅野の姿を校内で見かけることはなかった。
「自宅待機を言い渡した」
「そうですか…、理事長」
「何だ?」
「浅野先生は理事長の遠縁に当たられる方です…。ですから理事長を前にしてこんなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが…」
保科は言葉とは裏腹に内心では歓喜雀躍、そう切り出した。
「分かっている。辞表を出させよう、そう言いたいんだろう?」
内藤は先回りして答えた。
「はい」
「だが今、直ぐに辞表を出させたりしたら責任回避だの、トカゲの尻尾きりだのとマスコミから非難されたりはしまいか?」
内藤は浅野に辞表を出させることを渋った。その理由は肉親の情、などといった情緒的なものでは勿論なく…、内藤という男はそれほど甘い男ではなく己のためならば身内さえ切り捨てる冷酷な男であり、つまるところ自派である内藤派の理事が一人、いなくなるのを恐れてのことであった。浅野は生活指導主任であると同時に2号理事として理事会のメンバーでもある。当然、内藤派に属している。その浅野が退職するとなれば自派の理事が一人いなくなることを意味し、相対的に保科派の力が増すことを意味していた。
そして学園長の保科も勿論、そんな内藤の胸のうちを読みきっていた。
「ですがこのまま自宅待機でズルズルと処分を引き延ばしを図ればそれこそ責任回避、あるいは逃げ切りを策している、とも思われかねませんよ?」
保科も内藤に見習って自分の思惑…、内藤派の力を削ぐという本音を隠して、如何にも正論を吐く振りをしてみせた。
「そうかも知れんが…」
「それに今なら…、学校にうろついているマスメディアが中央新聞と系列の中央テレビの2社に止まっている今ならば、浅野先生の暴走、ということで辞表を出させればそれで幕引きとなります。ですが今も申し上げた通りこのまま自宅待機でお茶を濁すようなことを続けていれば更にマスメディアの数も増えるかもしれず、そうなれば最悪のケースが想定されます」
「最悪のケースだと?」
「ええ」
「何だ?それは一体…」
「管理責任が問われる、ということですよ」
「管理責任…」
「そうです。浅野先生の暴走を許したのは教師に対する管理体制が充分に機能していなかったから、そういう論調で報じられるかもしれません。管理体制が充分に機能しなかった、となれば教師を管理する最高責任者の立場であられる理事長の責任が追及され始めるやもしれませんよ?」
「俺の責任…」
保科は内藤のウィークポイントを適確に突いてみせた。すなわち、内藤は自分に責任の火の粉が降りかかることを何よりも恐れていた。
「そうです。ですからそうなる前に浅野先生に辞表を出させれば、逃げ切ることも充分に可能です。なに、生徒が自殺したわけじゃありませんから、例え中央新聞や中央テレビがどんなに騒いだところで他のマスメディアは今は静観を決め込むでしょう。その間にさっさと浅野先生を辞めさせてしまえば中央新聞や中央テレビの報道も沙汰止みとなり、中央新聞や中央テレビの報道に接した大衆にしてもあっという間に過去の出来事として忘れ去ってしまいますよ」
「そうか…、そういうことなら止むを得んな…」
内藤にしてみれば自派の理事が一人いなくなることは痛手であるが、それ以上に管理責任という火の粉が降りかかる方がそれ以上にダメージが大きい…、そう判断して浅野の提案を呑むことにした。
「分かった。浅野には辞表を出させよう」
「賢明なご判断かと思われます」
保科は内藤に叩頭してみせた。勿論、内心では舌ベロを出していたが。
「それで今、浅野先生は…。もう自宅に帰られてしまいましたか?」
自宅待機と聞いて、保科はそう尋ねた。
「いや、自宅待機は命じたが、まだ聞きたいことは山ほどあるからな。今も生徒指導室に押し込めてある。俺が良いと言うまで動くな…、とな」
内藤は吐き捨てた。
「そうですか。それでは進藤先生、申し訳ないが、浅野先生をここに連れて来てくれませんか」
保科は学年主任の進藤に命じた。
「分かりました」
進藤は椅子から立ち上がると大会議室を後にし、それから5分と経たないうちに浅野を伴って戻って来た。浅野はすっかり憔悴しており、進藤はそんな浅野を出入口を背にして立たせたまま、再び元の椅子に腰掛けた。
「呼ばれた理由は分かっているな?」
内藤からそう問いかけられた浅野は顔面蒼白となった。かつての生活指導主任の面影はどこにも残ってはおらず、今、そこに立っているのは哀れな子羊に過ぎなかった。
「…おっ、俺は無実です…」
辛うじてそう呟くのが精一杯であった。
「もうそんなことはどうでも良い」
内藤は切り捨てるように言った。
「どうでも良い、って…」
「お前が無実なのかそれとも有罪なのか、そんなことはこの際、問題ではない。今、大事なのはこの名誉ある大塚学院を如何にして守るか、ということだ」
その守る対象には当然、浅野は含まれていなかった。
「そのためにもお前には今、この場で辞表を出してもらう」
「この場で…」
「勿論、口頭で構わん。一身上の都合により退職します、そうこの場で言え。そうすれば大塚学院は救われる」
「それじゃあ俺はどうなっても構わない、って言うんですかっ!」
「当たり前だろうがっ!どうして貴様なんぞのようなクズを守ってやらなけりゃならないんだっ!貴様のようなクズの所為で今、この大塚学院は危機に瀕しているんだぞっ!せめてこれ以上、学校に迷惑が及ばぬように辞めるのがスジってモンだろうがっ!」
「だって…、俺の叔父さんじゃ…」
浅野がそう言いかけると、「黙れっ!」との内藤の一喝にあった。
「貴様なんぞのようなクズがわしの甥だとは…、このわしにとっては人生最大の汚点だっ!」
「汚点…」
「元不良だかヤンキーだか知らんが、それで学園内に巣食う不良のクズ共の頭目にでもなったつもりで喜んでいるんだろうが、そんなクズのような不良共を煽動してこんな…、こんな不祥事を引き起こすとは…」
「だから俺は本当に何も…」
「もう喋るなっ!貴様の声なんぞ聞きたくもない。貴様と同じ空間で息を吸うのも耐え難い拷問だっ!頼むから、頼むからこの学校から、いや、この世から消えてなくなれっ!」
内藤は椅子から立ち上がってそう喚き散らした。そのあまりの尋常ならざる物言いに隣に座っていた保科までも流石に眉を顰め、「理事長…」と袖を引いた。だが内藤はその手を振り払うと椅子から立ち上がり、
「このクズを早く学校から連れ出せっ!」
そう誰彼となく命じた。
「いっ、嫌だぁっ!」
浅野はやはりまたしても子供のように泣き叫んだ。大の男が子供のように泣き叫ぶというのは相当に異様な光景であった。しかも周りには同僚がいるのである。恥も外聞もなく泣き叫ぶ浅野のその神経を大会議室にいた誰もが疑った。既に体育館で目にした光景であったが、それでも見慣れることはなかった。
「おっ、俺は…、俺は絶対に辞めないから…、辞めないからなっ!」
浅野はそう叫ぶと、大会議室から走り去って出て行った。その様子に理事長の内藤も学園長の保科も、それにその場にいた教師の誰もが開いた口が塞がらぬ、といった様子で眺めていた。
「まあ、仕方ねぇか…」
夕食を取り終え、ソファでテレビに齧りついていた士郎はリモコンを操りながらそう思った。今日は土曜日ということで民放各局は午後5時30分からニュースを報じていた。士郎が浅野の件をリークした中央新聞系列の中央テレビのニュース番組だけはトップで浅野の件をスクープとして報じていた。だがそれ以外の民放各局のニュース番組は浅野の件などニュース価値もない、とばかりにスポーツ関連のニュースをトップとして報じていた。
中央テレビでは学校にキャスターを派遣したらしく、画面には見慣れた校門が映っていた。そして報道の内容は士郎が中央新聞にリークしたのと寸分違わぬものであった。いや、実名こそ出ていなかったものの、その浅野が理事長の甥である、と報じていたのには驚かされた。
士郎はそれまで浅野は理事長の遠縁、といだけしか知らず、中央新聞にリークするに際してもそのように告げたのだが、中央テレビでは更に突っ込んだ取材により浅野が理事長の甥であることを突き止めたようだ。士郎が中央新聞にリークしたのが午前10時30分頃、それからまだ7時間も経っていないにもかかわらず浅野が理事長の甥であることを突き止めたテレビ局の取材力に士郎は心底、脱帽した。
「あら、これあんたが通ってる学校じゃない…」
夕食の後片付けを終えた母親が士郎の真後ろに立つとそう声をかけた。
「ああ…」
「それにしてもロクでもない先生がいたものだねぇ…、濡れ衣を着せられた子供が可哀想に…、いや、あんた知ってるんじゃないの?」
勿論、知っていた。誰あろう、他ならぬこの俺なのだから…、士郎はそう思いつつ、「ああ。別のクラスの奴だ…」と適当に答えた。いずれ母親にもバレるかも知れないが、今は母親からのうるさい追及は願い下げであった。
「そう…」
母親はそれが倅のついた嘘だとも気付かず、納得したようであった。母親はもう興味を失ったらしく、倅の元から立ち去った。
「それにしても…、実名こそ出ていないものの…、浅野も、それからあの理事長も終わりだろうなぁ…」
士郎は再び、一人テレビに齧りつくと、そんなことを思った。中央テレビの報道では生活指導主任の浅野の実名は出ず、英単語のAという仮名ではあるものの、その浅野、もとい少年AならぬA教諭が理事長の甥である、という血縁の事実に重点が置かれていた。つまり理事長の甥であることを笠に着て校内においては無法なマネを繰り返しており、それが今回の喫煙でっち上げの遠因となった、そういう論調であった。
それは士郎がリークした中央新聞の論調とも一致する。そして今回の喫煙でっち上げに関して今はまだ中央新聞と中央テレビの2社に止まっているが、学校側がこのまま何のアクションも起こさずに時間稼ぎに終始すれば中央新聞や中央テレビはそれを責任逃れ、として大々的に報道するだろう。中央新聞や中央テレビが大々的に責任追及のキャンペーンを張ればこれまで無関心だった大衆も興味を惹かれるかもしれず、浅野の件に触れた新聞の部数やニュース番組の視聴率、といった数字に反映され始めるかもしれない。そうなれば今はまだ模様眺めを決め込んでいる他社も後追い取材に走り出すかも知れず、後は燎原の火の如く、である。今回の不祥事が益々、大衆の興味をかき立てて、学校に抗議や脅迫の電話や投書が舞い込むかもしれない。勿論、そうなれば大塚学院の評判は地に堕ち、ライバル校である開文中を負かすどころの話ではなくなる。それどころか大塚学院そのものが存亡の危機に立たされるかも知れないのだ。だからそうなる前に浅野には一刻も早くに辞表を出させて幕引きを図ろう、浅野に辞表を出させて事をウヤムヤにするには今しかない…、とでも学園長の保科あたりが理事長の内藤に対して今頃、そう進言しているに違いなかった。
「正に自業自得、ってヤツだろうな…」
士郎は浅野に対して全く同情しなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます