第20話 6年1組

僕は、6年1組の生徒になった気分だった。


実際 6年1組の生徒と一緒に授業を受けているのだから そう感じるのも当たり前なんだけど、遥斗と一緒のクラスになれた事は嬉しかった。


それに なんだか1組というのも、1という数字が1番という感じがして 良い気分だ。


6年1組でも遥斗はリーダー的存在だった。


凄いなぁ、僕も遥斗の半分でも 自分の事をもっと素直に表現できたらいいな。

僕は いつもそう思っていた。


僕は席も遥斗と近い席になれた。

6年5組からきた居候組は、6年1組の端っこに申し訳なさそうに1列並べさせてもらっていた。

僕は、国語の時間や社会の時間などは、遥斗とノートにらくがきなどをして回し合いをしたり、キャプテン翼をこっそり回し読みしたりしていた。


僕は遥斗たちと仲良くなる前までは、漫画なんて ほとんど読んだ事もなかった。

でも、遥斗たちは 仲間同士でよく漫画の貸し借りをしてるようだった。


6年2組の岩尾 翼なんて、お父さんがサッカーが好きで、キャプテン翼にちなんで

翼と命名されたらしい。


うちのインコさんと、歩く電卓さんは、キャプテン翼なんて 知っているのだろうか? 


多分知らないだろう。。。

でも 僕の名前 ”河合 俊” も僕は気に入っている。


俊って なんだか 機敏で速そうじゃないか?

って自分だけ思ってるだけかもしれないけれど、


うーん、、、名前は そうかもしれないけど 僕は機敏でもなく速くもないなぁ。。。


名前に負けないようにしなきゃ。

せっかく6年1組に来たんだから、がんばろう!


6年1組の担任の先生は、男の先生で

とても明るく元気で声の大きな山田大樹先生だった。


正直、阿部先生より 山田先生の生徒のほうが良いなって最初から感じた。

僕が男子だからかもしれないけど、話がわかりそうな先生だと感じた。


僕の予感は的中して、山田先生は 課外授業が多めだった。


理科の授業や社会の授業中に、みんなを課外授業と称して外に連れ出してくれるのだ。


阿部先生のころは、僕が鶴亀算の事で疑問に感じた事を質問した時も

「それは 河合君、まだ知らなくていいのよ。」「まだ覚えなくていいのよ。」

それが 彼女の授業だった。


でも、山田先生は違う!

鶴亀算の話を山田先生にしたら、

「今度 鶴と亀を探しに行こう!そこから一緒に考えよう!」

なんて言葉を いきなり言ってくる。


山田先生の授業は、山や川、畑から古墳まで

6年1組の生徒を 色々な所に連れ出してくれて、とても楽しかった。

古墳での土器発掘体験は、今でも僕は凄い経験だったと感じている。


学校から歩いていける距離に前方後円墳があったのだ。

少し遠かったけど、みんなで軍手や土器を掘る小さなシャベルなどをもって

「そんなのみつかるの?」と半信半疑で古墳にみんなで向かったのだ。


僕は前方後円墳は、教科書の写真でしか見たことがなかったので

すごく興奮した記憶がある。


しかし、前方後円墳って、前が四角で後ろが丸い円の形という意味だよね?

僕がみる限り、鍵穴の形ように見える古墳は どうみても上が丸い形で下が四角に感じる。


その疑問を山田先生にぶつけてみた。

「おっ!それは 良い質問だな、これは課題にして、みんなで考えよう!」


そう先生は言うと、前方後円墳は どうして そう呼ぶのか?を


6年1組の生徒全員に 調べさせるのではなくて 自分の考えまとめる宿題を出した。


その宿題の回答は、本当様々だった。


「前方後円墳は、丸い部分が盛り上がっていて、四角い部分が低かったから きっと階段なのではないのだろうか?だから手前が四角い部分で奥の部分が丸なのだと思う。」



「古墳には 色々な形があって、円墳と方墳もある。円墳の部分に後から方墳付け足す時にそういう決まりがあった?」


「前方後円墳というのは前と後ろがあるけれど そもそも前がどこなのかは不明で、もしかしたら前を意味するのが東なのかもしれないし昔の決まりがあったのでは?」


「丸い部分がこんもり盛り上がっていたけれど、四角い部分は低かったから、低いほう四角い方からしか全体が見渡せないから、四角を前にして見るという 見る方角を示す物なのではないか?」


凄い色々な考え方が沢山でてきた。これには僕もびっくりした。


だって、今までは 教科書に載っている文字を先生が読み上げて、見て終わりな授業だった。

古墳の授業なら、前方後円墳と円墳、方墳の名前を覚えればテストは問題なかった。


僕は本を読むのが好きだから、普通の小学生よりは知識はあったかもしれないけれど、こういう色々な考え方を話し合うのは、初めてな事で新鮮に感じた。


人って色々な考えをもって生きてるんだね。

沢山の人の意見を知るって おもしろいかもしれない。


山田先生の授業も興味深くて僕の心をサッカーの次に奪い取っていったけれど、6年1組の仲間も、みんなで話し合いをするのが当たり前な仲間だったので、こんな僕でも、自然に6年1組の輪の中に入る事が出来た。


6年5組から来た居候組の7人も、みんな同じ思いだったと思う。

6年1組のみんなは、僕たち8人を快く迎え入れてくれた。


これは山田先生の力なのかもしれない。

山田先生が6年1組をまとめる力があるんだ。


オーケストラでいえば山田先生は指揮者のような存在なのかもしれない。

他の生徒達は、各自のパートを頑張って演奏する。

きっと遥斗は、軽やかに演奏するコンマスのようなバイオリン弾きで、僕は、シンバルやカスタネットをたまに叩く事くらいしか想像できない。

本音としては、僕も遥斗と同じ難しそうなバイオリンが弾きたい。


それに、カスタネットなんてオーケストラにはないよね。。。

悪い僕の癖かもしれないが、簡単そうに感じる事に逃げてはだめだよね。

シンバルやカスタネットだって真面目にやれば大変な楽器かもしれなのだから。。。


6年1組は仲間意識が高く山田先生の指揮がうまく伝わっていて、生徒の意見交換みたいな形で、良い信頼関係の形になっているのだろう。








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