第13話 ユニコーンを買いに

僕は、その週末に 両親にスポーツ用品店に連れて行ってもらった。


僕の宝物を買いにいくためだ。


僕は、スポーツ売り場にたどり着くと真っ先に

サッカーボール売り場に向かった。


色とりどりの丸い玉は、まるで僕を誘惑するかのように綺麗に並んでいた。

まるで人間が全校集会で前にならえ!って整列しているかのようだ。

本当は、もっと楽にしたいのに、人間が見てるから緊張して固まっているように感じた。


僕は、1つ1つ その輝かしい丸いボールを見比べてみた。

ボール達は、僕に恥ずかしいからそんなに見ないでくれ!と言わんばかりだった。


店員さんが近づいてきて、色々教えてくれた。

一通り教えてくれた後、店員さんは、レジのほうへ歩いて行った。


沢山のボールの中から、僕は恐る恐る1つ気に入ったボールを手にとってみた。

所が、手に取ろうとしたら、そのボールは 恥ずかしがっているのか

僕の手からすり抜けるように床に転がって逃げてしまった。


「あっ、、、待って。。。」 


と僕が追いかけようとした所、日焼けしたとても溌剌とした高身長のお兄さんが

その恥ずかしがりやのボールを手慣れた感じで手にとり、僕に明るい笑顔を見せた。

そしてこう言った。


「坊主、ユニコーンは お勧めだぞ!サッカーやってるのかい?」


僕は首を横に振った。

(このボールは、ユニコーンというのか、名前もカッコいいじゃないか!)


「じゃあ、これからはじめるのかな?サッカーは楽しいし勇気をくれるぞ!」


すると、周りがざわざわしてきた。


なんだろう?

僕がボールを落とした事が いけなかったのだろうか?

それとも ディスプレイされているボールは触ってはいけないのだろか?

僕は、こういう事にも不慣れなので、空気が読めずに緊張して左瞼がピクピクした。


そんな事が頭によぎっていった瞬間


「大須拓海選手ですよね?」

と店員さんが 僕にボールを優しく手渡してくれたお兄さんに話しかけていた。


ん?あのお兄さんは サッカー選手なのか?

僕は、あまりテレビなどを見ないので、有名人などわからない。

でも、あっという間に そのお兄さんを取り巻く人が押し寄せた。


お父さんが僕に近寄ってきて

「あれは、W杯で窮地に追い込まれた日本代表を救った サッカー選手の大須だよ。」


なんだか W杯の意味も僕にはよく理解できないけど 凄い人のようだ。

”歩く電卓さん”は、テレビにもスポーツには興味なさそうなのに、

新聞は読むから知っているようだ。

新聞に載るほど有名な人なのか!

凄い人なのだという事はわかった。


ただ、なんでだろう? 僕は、そのお兄さんを見たのは 初めてなのに

どこか懐かしいような、切ないような気持ちになった。


でも、そんなことより、僕は 恥ずかしがりやのボール、ユニコーンを気に入った。

僕は宝物を手に入れたのだ!

その日はボールとシューズを買ってもらいスキップしながら帰りたくなった。


ユニコーンを選ぶきっかけをくれたお兄さんに感謝だ。

そして数年後、僕は、彼と再会をする事になるなんて、、、


お互い わからずにいたが、今日も再会だったんだね。







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