第9話 先生の嘘
僕が幼稚園児だった頃、今でもはっきりと覚えているのだが
先生に誕生日を忘れられてしまった事があった。
僕の通っていた幼稚園では、誕生日の日にはその子をみんなでお祝いして
先生の手作りの折り紙で作ったメダルと王冠みたいな物を貰えるのだ。
それと表彰状のような、褒めてくれるお手紙を年に1回もらうという成長報告のような物まであった。
僕は大人しくて目立たない空気のような存在の子供だったのかもしれない。
「俊、お誕生日会 幼稚園でしてもらえてないの?」
「うん・・・。してもらえてない。でも、先生は忙しいのかもよ?」
「でも みんなは お誕生日お祝いしてもらえてるでしょう?」
「うん、みんなお祝いしてもらってるよ。」
そう僕が答えると、母さんは困惑の表情を浮かべて 余計僕を不安にさせた。
僕のお母さんは、僕が誕生日のお祝いの品を家に持って帰ってこない事を不審に思い、
幼稚園に通う同じクラスの子供達のお母さんに電話をして
「うちの俊のお誕生日会って やったかやっていないか?〇〇ちゃんに 聞いてもらえないかしら?」
と まるで回覧板のように 聞いてまわっていた。
僕は それが 少し嫌だった。
僕は別に 誕生日会なんて 恥ずかしいし してもらえなくても良いんだよ。
そう思っていたんだけど、お母さんは、僕の誕生日会を忘れられている事に納得がいかないようで、クラスメイトのお母さんに同じことを聞いて回っていた。
まるでそれは 親戚の家にいた インコのようだった。
同じセリフを繰り返し話している小鳥を 初めてみたとき
中に乾電池が入っているのではないか?と 不思議に眺めていた事がある。
お母さんが電話をかけていた時には、淡い黄色のセーターを着ていた事もあって
おまけにその上には黄緑色のエプロンをしているので、姿形は、遠目にはインコに視えてくる。
インコは同じセリフを繰り返し話していて
相手の返答は 同じ返事ばかりだったようだ。
どうやら インコが質問した相手の母鳥は、小鳥さん達に
「幼稚園で俊ちゃんの お誕生日会やったか 覚えてる?」
と質問しているようだが、子供達は 揃って
「やってないよ。」と答えているようだ。。。
ただ 小鳥さん達はまだ幼く 母鳥たちは 責任を取りたくないのか
「うちの子は 俊ちゃんのお誕生日会は やってないと いってますが
子供だから 忘れてしまっているのかもしれないですので、、、」
なんとも 親鳥たちは 歯切れの悪い言葉を発していたようだ。
うちのインコさんは、我慢できなくなってしまったようで
ついに 先生に電話をする事にした。
インコが電話した相手は オカメインコだったようだ。
インコは1時間を超えるくらいの間、オカメインコと話しをしていたが、
半分納得いかないという状況で、身を引いたような感じに見えた。
オカメインコは、小鳥さん達と 僕の誕生日会は きちんと開催したと主張しているらしい。
僕は、先生が僕の誕生日を忘れた事を怒ってるのではなくて、
先生が誕生日会を忘れた事を 僕が忘れているだけ、、、という責任逃れをした事に
怒るというより、子供ながらに飽きれてしまったのだ。
おまけに後日、オカメインコは 僕の家に
何食わぬ顔をして、ケーキと花束をもって訪れてきた。
メダルはなんと ご丁寧にリボンの部分が土のようなもので汚れていた。
幼稚園の砂遊び場に落ちていた事になっていた。
メダルは、申し訳なさそうに 初めて僕の手のひらに届けられた。
僕は記憶喪失になんかなっていないぞ!
メダルを落としたのなら、他の王冠や表彰状はどこへ行ったんだ?
オカメインコは うちのインコさんに
俊君のお誕生日会は当日行ったんですが
そのメダルを俊くんは、したまま幼稚園のお庭で遊んでいて
夢中になって メダルを落としたようです。。。。
もうその続きなんて どうでも良くなった。
僕がはじめて 大人の嘘を 観た日だった。
インコは僕と小鳥達の言う事を信じてくれたのが幸いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます