第5話 想いの変わる様

「俺に、似ている…?」

バーゼルが、瞳を数回瞬きしながら呟く。

それに対して私は、首を縦に頷いた。

「少しずつ視えてくる、過去の記憶…。いつだかわからない内容ものもあるけど、“彼”が出てくる夢では、その雰囲気が…貴方に似ている」

ベッドに座ったまま足を動かしながら、私は語る。

 あと、バーゼルに吸血された時だけ…胸が温かくも、締め付けられるような感覚も覚える…。なんて、そこまで彼に言う必要はないか…

話の中で、私はそんなことを考えていた。

一方、私の話を聞いていたバーゼルは、腕を組みながら考え事をしている。また、吸血後で貧血気味にもなっているため、少しだけ眠気も感じていたのである。


「…こっちだ」

「う…うん…」

その後、バーゼルに連れられて、私は屋敷内にある書斎へと足を踏み込んだ。

書斎として使用しているだけに机や椅子はもちろん、パソコンや天井高くまで収納された本棚もある。

 扉の前まで来た事はあったけど、ここが書斎だったんだ…

初めて入った私は、その本の多さに圧倒されていた。

また、屋敷を出るのは禁じられているが、部屋を出て屋敷内を動き回る事は禁止されていない。そのため、お手洗いはもちろんの事、屋敷の中を吸血鬼かれらが寝静まる昼間等の時間帯に探検をしていた。その関係で、この書斎の扉の前までは来た事があったのである。

「少し本を探すので、待っていろ。そうだ、パソコンはやるなよ。ロックはかかっているだろうけど…」

私にそう告げたバーゼルは、本棚の前に立って探し始める。

その後ろ姿を、私は書斎の椅子に腰かけて見守っていた。暇と感じるくらい待たされると私は考えていたが、予想よりも早くに、彼は読もうとしている本を探し当てていた。

「何について、書かれている本…?」

「…あんたには、関係のない本」

返答に一瞬だけ間があったが、私の問いかけに対し、そっけない返答がバーゼルから返ってくる。

 私を書斎ここに連れてきたのは、何か意図でもあるのかと思ったけど…。心を開いてくれている訳ではない…よね

私は、彼の返答を聞き、俯きながら考え事をしていた。


「おい…?」

「…っ…!?」

すると、バーゼルがその場でしゃがみこみ、上目遣いで私を見上げてくる。

「……ボーッとしていた…だけ」

「…そっか。よし、あんたの部屋に戻るぞ」

私は、どこかたどたどしい口調で、俯いていた理由を明かす。

バーゼルは瞳を数回瞬きした後、ゆっくりと立ちあがる。

 今…。バーゼルが、ブレて見えた…?

私は、この時垣間見た現象が何を示すのかがわからず、心の中で呟いていた。そして、その現象が起きた理由を、彼の背中を見つめながら考えていたのである。

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