第4話 垣間見える、彼らの性

「ふっ…ぅ…!!」

ベッドでうつ伏せの状態にある私が、うめき声をあげる。

そんなメルの上には、末っ子の吸血鬼ヴァンパイア・コディーが覆いかぶさっており、うなじ部分より血を食らっている。

あれから、「吸血によって“失われた記憶”を思い出す」事が判明し、一週間が経過していた。彼らオレイレカン兄弟の中で一日ずつ交互に、私の血を吸う事になったらしい。最も、吸血鬼である彼らが人間の血を吸う事は日常茶飯事らしく、そこに衣食住の“食”以外の感情は何もない。

道具のような扱いは非常に不快だが、仮に逃げ出せたとしても、独りで生きていけるのか。人間界に戻る事ができるのか―――――そういった先の事を考えると、逃げずに従うしかない状態となっていた。


一方、一週間という短い間でも彼ら三兄弟の人となりがわかったような気もする。

長男のイマドは、第一印象からして近寄りがたい雰囲気を持つ青年だ。言葉の一つ一つに言霊のようなモノを感じ、逆らう者には容赦のない立ち振る舞いをしているように感じられる。彼を前にすると、吸血されても恐怖で身体が動かないという事もしばしあった。

唯一挙げられる長所としては、料理上手という所だろう。というのも、作ってくれた料理の中でメイン料理が美味しかったのはもちろんの事、私の大好きなプリンもかなり美味しい物を作ってくれた事に起因するからだ。

末っ子のコディーは、一見すると人懐っこそうな笑顔を浮かべて非常に話しやすいが、少しでも不満に感じると、すぐに態度が豹変する所が怖い。機嫌が良い時は特に問題ないが、逆に不機嫌な時に起きる感情のふり幅が尋常ではなかった。

そして、背丈が私とさして変わらず細身であるにも関わらず、押さえつける力が強く見た目と反して強引な部分が強い。しかし――――


「加減が効かなくて痛ぇかと思うが…我慢しろ」

ある日の夜、次男のバーゼルがそう告げる。

他の二人と違い、次男の吸血鬼ヴァンパイアであるバーゼルだけはどこか“違った”。最初は話しかけにくい雰囲気はあったが、吸血する時も声をかけてくれたり、痛くないかと確認してくれる事もある。また、“彼”に吸われる時だけ見えてくる“失われた記憶”にも、若干の違いがあったのである。

「…っ…!」

首筋にバーゼルの牙が触れた途端、私の身体が反応して一瞬震える。

そして、吸血される中で、また新たな“記憶の断片”を視るのであった。


「メル…。お前は、この現代において希少な存在。伝承を知りうる魔族なれば、誰もが欲するだろう。だが、わたしは…“鍵”の存在としてではなく、メル・アイヴィーという一人の少女として、命ある限り守りたいと思っているよ」

「●●ト…」

夢の中に出てくる“彼”の唇は見えるが、やはりそこから上の表情が見えない。

ただ、場所はどことはわからなくても、自分が感極まって涙を流しているという感覚だけはある。人間界の結婚式場にいた時の夢では視れなかった部分が、バーゼルに吸血された時にだけ視える事が多かったのである。


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