第三刀 やはり平穏じゃない学園生活(校舎編)

 ジリリリリと鳴る目覚ましを止め、二段ベッドの下段から俺は出た。俺の朝は早い。目覚まし時計を見ると午前5:00だった。


「飯でも買いに行くか」


 俺は寝間着のジャージからジーンズと厚手の半袖Tシャツに着替え、その上からパーカーを羽織った。その後、鍵をポケットに入れ、財布を持ち部屋を出た。廊下の窓から外を見ると辺り一面はまだうす暗かった。


 5階に上がると校長が居た。


「あれ、校長どうしたんですか?こんな早くに。」


「え?あ、あぁ…いや、ちょっとね…暇だから散歩と朝食を買いに…」


「そう言ってる割にはなんでイチゴパフェと大量のプリンがかごに入っているんですか?」


 校長のカゴにはイチゴパフェ、プリン、チョコプリンなどなどとても朝食だとは思えないものがかごいっぱいに入っていた。


「気にしないで」


「いや、でもこれ…」


「気にしないで」


「は、はい」


 なんか今、ごり押しでねじ伏せられたような気がする。


 校長と別れた後、俺は朝食の梅おにぎりとお茶漬けの素、レンジで出来る白米をセルフレジに通して購入し、部屋に戻った。


 部屋に戻り上着を脱ぎ、買ってきた白米をレンジに入れ、600wで1分20秒暖める。暖めている間に買ってきた梅おにぎりを食べる。朝に梅干しを食べるのが習慣化しているのだが、今日は梅干しがないのでおにぎりだ。


「うまっ」


 パリッと硬い海苔と共に柔らかい白米。その素朴な味に梅干しという少しの酸味を加えるだけでかなり美味しく感じられる。


 ちーんっ♪


 電子レンジから白米を出し、茶碗にお湯を注ごうとしたがここでお湯を沸かしていないことに気付く。ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。スマホを手に取ると中学の頃の同級生の写真が待ち受けに設定してあった。


「あいつら今も元気かな?」

 中学の頃の思い出に浸っていると湯が沸いたのか、ケトルのスイッチが切れたので湯をさっきのお茶漬けにかけて食べた。


「ごちそうさま」


 食べ終わり食器を片付けていると凛子の目覚ましが鳴ったのかジリリリリとやかましい音が鳴った。



「……」


 何十秒鳴っているのだろう…


 鳴ってからというものの寝ぼけているのか凛子は布団の中でもぞもぞ動き、手で時計を探している状態だ。さすがにもう見ていられないので起こすことにした。


「いつまでもぞもぞしてるつもりだ?起きろ!」


「あと、一分待って下さいよ~」


「ええい!うるさい!あといい加減目覚ましを止めろ!」


「…分かりましたよ」


 そういうと布団からひょこっと顔を出し、目覚ましを止めた。


「それでは~おやすみなは~い」


「おいコラ、流れるように二度寝を決めるんじゃねえ」


 はしごを上り布団をかっさらおうとしたが、凛子は布団をつかみ離そうとしなかった。


「やめてください~」


「今日は何曜日ですか~?」


「日曜日で~す♪」


 ダメだこいつ完全に寝ぼけてるわ。


「今日は水曜日だ。学校だぞ学校!!」


「がっこう?がっこう、がっ校、学校…」


「……」


「今日学校じゃないですか!?」


「さっきから言ってるだろう」


 布団を戻しながら言った。


「というか凛子お前寝ぼけてると人が変わるな」


「は?絞め殺しますよ」


ガチ目な殺意が飛んでくる。こわっ


「いや、ネタ系じゃなくて、なんていうか…その…可愛くなる?というかなんていうか…まあ、あれだ!普段はしっかりな凛子が凄く柔らかくなるっていうギャップ萌えだ」


 すると、凛子は顔を赤くして叫んだ。


「寝起きを観察して考察しないでください!このっ変態!!」


 そして、目覚まし時計を投げつけて来たのでキャッチ。


 このままだと本当に絞め殺されかねないのでとりあえず向い側のカーテン内に避難した。


「とりあえず早く着替えろ。パジャマがはだけている」


「なんでいつもそんなところばっかり見てるんですか!!変態!!」


 うん、凛子の寝相が悪いだけだと思うぞ。


 その後カーテン越しに私服に着替えた。


「飯食うか?」


 今は午前7:00だった。


「じゃあ食べます。いつもは食べてませんけど……」


 そりゃあんだけ二度寝してれば食えないだろうな……


 卵が冷蔵庫にあったのでフライパンで焼きスクランブルエッグにして皿に盛り付ける。そして、ご飯を茶碗に注ぐ。我ながらとても変な組み合わせだ。目玉焼きか卵焼きにしておけば良かった。


「いただきます」


 凛子が朝食を食べている間に俺は刀を下げるホルダーをセッティングする。ベルトに引っ掛けるタイプのものだ。ちなみに凛子のはベルトに通すものらしい。(これが一般的なホルダーのようだ。)俺はホルダーに夢幻と黒鉄・零式を差し、ベルトにかけた。


「別に苦ではないけど長時間これは腰にきそうだな。これ」


「まあ、二本も持っていたらそうなるんじゃないですか?」


 凛子が言った。


「それにしても重過ぎないか?」


「菊田くんのはよくわかりませんが私の刀は少し細いですからだいたい0.7キログラムくらいですね」


 確かに凛子の刀は少し細長い。さらに俺の刀に比べ、かなり鞘の装飾がきれいだ。


「それ、なんていうんだ?」


「夜空という刀で能力は流星といいます」


「だから鞘の部分が夜空なのか。で、能力の内容は?」


 一番気になるのはそれだ。


「身体強化。具体的にはスピードを上げる感じですね。ごちそうさま」


 凛子はご飯を食べ終え、流しに食器を置いた。そして洗面所で歯を磨きそしてリュックを背負った。


「じゃあ行くか」


「はい」


 そして、俺たちは寮を後にした。


 *****


 寮から学校までは徒歩5分と近く、あっという間に着いてしまった。靴箱から上履きをとりスニーカーを履き替える。そのまま1年1組に行く前に俺は職員室に行く。


そして、1年1組の担任に会った。


「すいません。小松先生でいいですか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 先生は小松 春子というらしい。第一印象は真面目というかんじだった。


「クラスへの案内をしてほしいのですが…」


「……」


「あの、小松先生?」


「……」


 小松先生が黙っているところに校長が来た。


「あれ?また春子はるこ上がってんの?ほらほらシャキッとしな!春子の新しい教え子だよ」


 え?校長と小松先生って仲良しなの?


「あ、あの紗由理さゆりちゃ、じゃなくて校長先生?学校ではその呼び方は……あと、か、肩組むのはちょっと……普段は良いんだけどね?時と場合を考えよう?ね?」


 そういえば校長の名前聞いてなかったな。


「あ、菊田くん。春子上がり性だから初対面の人とかあと教壇に立ったりするとたまに上がっちゃうの。ちょっと頼りないけどいい奴だから春子のことよろしくね」


「よ、よろしくね。菊田君」


 そう言い、ペコリとお辞儀をした小松先生。


 先生が生徒にお辞儀をしている。…なんじゃこりゃ。


 8時40分になり、小松先生に着いていき教室に入ると見事に女子だらけというより全員女子だった。


 ……女子校だもん


 クラスメイト全員の視線がこっちに集まる。


「え?なんで男子が?」


「ここ女子校だよね?」


「目があった。怖いんだけど」


 むちゃくちゃ言われてるな俺。


「はい、今日は転校生を紹介します」


 そういい、俺の名前をでかでかと黒板に書いた。


「それでは、自己紹介の方を」


「はい、ではこの度1年1組に入ることになった菊田 と言います。とりあえずよろしくお願いします」


 自己紹介が終わったあとに一人の女子が手を上げた。


「ねえ松っち、なんで男子なの?」


 小松先生のあだ名って松っちなんだ。


 さすがに俺には先生をあだ名で呼ぶ勇気は無かった。


「近々共学化するらしいからそれの試験とは聞いたけど、私は詳しいことは知らないかな。とにかく、みんな菊田君と仲良くしてね」


「改めてよろしくお願いします」


 そうして自己紹介も終わり、席決めに移った。みんな俺の隣は嫌なようだ。

 そりゃそうだ。


 あちらは全員女子。


 それに対してこちらは男子一人。


 幼馴染とかじゃなければ仲良くなどほぼ無理な状況だ。


 その中で俺は一番後ろの左から2番目に座った。隣にはイヤホンを着け、スマホを片手に持っている女子がいた。


 とりあえず隣から仲良くなっていこうかな。


「これからよろs」


「気持ち悪いから声掛けないで」


「……」


 ええ~!?辛辣!


 いやいや、いくらなんでもその対応の仕方はないでしょ。おじさん(※高校生です)びっくりだよ!?



 その後三時間目の英語の授業で彼女がスマホゲームをやっていた事は見なかったことにした。


 昼休みになると少しこちらを見るものや声を掛けてくる者がいた。


「あなたが菊田君ね。私はこの一年一組の学級委員長を勤める平野 綾といいます。よろしくね」


 第一印象は清楚系で可愛いというよりは美しい寄りのイメージだった。


 胸は控えめだが、逆にそれが気品を保っている。


「お、おう。よろしく」


「早速だけどこのプロフィール記入用紙を書いてくれない?」


 そういい、平野は持ってきたファイルからA4サイズの用紙を取り出して机の上に置いた。


「それじゃあ今日の放課後までによろしくね」


 そう言い、彼女は去っていった。


 用紙を見るといろいろな要件が書いてあった。


 名前:

 生年月日:

 前にいた中学校:

 趣味:

 得意な事:


 なるほどな…

 俺は迷うことなく用紙に答えを書き込んだ。


 名前:菊田 優

 生年月日:2024年12月4日

 前にいた中学校:星町中学校

 趣味:ゲーム

 得意な事:料理


「よし、出来た」


 出来たので平野のところに用紙を出しに行った。


「あれ?早いね。みんなはもっと時間がかかってたのに」


「まあ、これぐらいなら悩む必要はない」


 そして彼女は用紙を見て、


「趣味はゲームなんだ。どんなゲームをしてるの?」


「知らないと思うけど?」


 そんなにCMとかしないタイプのゲームだからな…


「ナイトメア・オンラインっていうゲーム」


「ふーん。私は知らないかな」


 平野は首をかしげた。


「まあ、知る人ぞ知るって感じのゲームだからね」


「ふーん。じゃあ、これは預かるね」


 そうして、用紙を平野に預けた俺は席に戻った。すると隣に座っている女子が声を掛けてきた。


「ねえ」


「俺の事は気持ち悪いんじゃ無かったのか?」


 少し皮肉の意味も込めて言うと、彼女はぼそぼそと何か言った。


「用件があるならちゃんと言ってくれ」


「ナイトメア・オンラインやってるの?」


 あーなるほどゲームの事ね。


「やってない…と言ったらどうする?」


「は?」


 彼女は凄い形相で睨んできた。


 ……コ、コワイデス。女子トテモコワイデス。


「やってるから。やってるやってる」


「レベルは?」


「なんの?プレイヤーレベル?スキルレベル?パーティーレベル?」


 俺がやっているMMORPGのナイトメア・オンラインには様々なレベルが存在する。

 まず一つ目にプレイヤーレベル。

 これはプレイヤーのアバター本体のレベルを指す。高ければ高いほど強い訳だ。


 二つ目にスキルレベル。

 ある一定以上特定のスキルを使い続けると上がっていくレベルだ。例えば無詠唱のスキルを極めれば無詠唱でも最高クラスの魔法を打ち込めるし、治癒スキルを上げればHPを治癒できる量が増える。上げていて損はないレベルだ。


 そして、三つ目にパーティーレベル。

 これは他のレベルシステムとは変わっており、一人一人のレベルを合わせてもパーティー全体の平均的な強さは測れないのでこの場合、クエストのクリアの仕方や貢献度によってパーティーレベルが決められる。


「プレイヤーレベルに決まってるじゃん」


「……506だが」


 このプレイヤーレベルは序盤の内は全てのレベルが上がりやすいので大体普通でも300位まではいく。しかし、350を越えた時点でほとんどレベルが上がらなくなるのだ。


 上げる方法はあるのだがどれもきつい物ばかりだった。例えば、本来メンバーの平均レベル250のパーティー三つが協力して倒すような協力ボスを一人で倒すなどしないと上がらないのだ。その代わり達成すればレベルは15位上がる。俺はこれを思い出したくない位にやって来た。


 その結果がプレイヤーレベルのカンストである。


「ごっ、506!?」


「ああ、506」


「嘘つき」


 ……本当なのに。


「そんなに信じられないなら見せてやるよ。PC版でやってるから今日俺の部屋に来い」


「は?誰がそんなの行くわけ…」


「俺は基本ソロだからな。試しにお前とパーティーを組んでみてお前の好きなことをやるってのも考えたが」


 隣の女子は悩んでいる。


「わ、分かった。ただし同じ部屋の鶴田さんも同伴で」


 俺が凛子の方を見ると『えっ!?』という顔でこっちを見ていた。


「ってかなんで俺と凛子が同じ部屋だって知ってんだ?」


「朝の登校の時に貴方達が同じ部屋から出てきたから」


 あっそれはバレるわ。


「ところで、お前名前は?」


「私の名前は冬空 美樹ふゆぞら みき


「そうか、よろしくな。冬空」


「うん」


 その後、特に何もなく俺たちは寮に戻る為に靴箱に向かっていた。


 その途中見知らぬ先輩と荷物がぶつかってしまった。しかも謝らなかった為、非常

にご立腹だったようだ。(ちなみにこれは後から聞いた話)


「ねえ、君。そこの男子」


「なんですか?早く帰りたいんですが」


 この対応がさらに先輩を怒らせてしまったようで、


「なんですか?じゃないでしょ。なんか言うことないの?」


 かなり怒らせてしまった。


「さ、さようなら?」


「なっ!?この状況でもふざけられるなんて大した度胸の持ち主ね。これだから男子は嫌いなの。というかなんで男子の貴方がここにいるんですか?」


 えっと~どこから説明したらいんだろ?


「……どうしよう」


 凛子に聞くが答えず、冬空に聞いても


「知らないよ。菊田の問題でしょ?」


 もたもたしているとここで先輩の怒りが爆発した。


「いい加減にしてください!!もういいです。この私、桜蘭女子生徒会長の福田 深雪ふくだ みゆき。貴方に決闘を申し込みます。ルールは一対一のタイマン。戦闘不能になった方が負けで刀のスキルは使っても良しとします。時刻は明日の午後4:30から場所は第四演習場で。負けたほうが勝った方の言うことをなんでも聞くこと。逃げずに来なさい。分かったわね!!」


 そういい、先輩はさっさと帰っていった。


 えぇ…すごい理不尽なんだけど…ってか何言ってんのあの人…頭おかしいのでは?


「すまない冬空。今日は無理だ」


「えぇ!?」


「明後日でいいか?」


 俺は手を合わせて謝る。


「まあ、ちゃんと見せてくれるならいいけど…」


「じゃあまた今度な」


「うん」


「じゃあな」


「バイバイ」


 そういい、俺たちは校門の前で別れた。

 明日も波乱の一日になりそうだな…

 疲れた…

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