第二刀 やはり平穏じゃない学園生活(寮編)

昨晩から眠れないまま朝がきた。


「7時15分…全く眠れなかった。たしか今日から学校だよな?高校も8時くらいからじゃないのか?」


凛子を起こそうと彼女の体を揺する。


「おい、起きろ。もう7時すぎてる」


「なんですか。せっかくぐっすり寝てたのに」


 そういい、布団から出た彼女はなぜか見事に胸元がはだけており、ピンク色のブラジャーがしっかり見えているいろいろな意味でとても危ない格好だったのだ。


 俺は慌てて目を反らした。


「あ、あの…」


「どうしたんです、か…」


 凛子はそれに気づくと、顔を赤くして慌てて布団をかぶった。


「み、見ましたよね。変態!」


「いや、見てない見てない。断じて見てない」


 そう言うと、凛子は疑いの目でこちらを見た。

「じゃあ、さっきなんで目を反らしたんですか!?」


「あ」


 しまった。


「もう、知りませんから」


 その後、俺たちは着替え、(もちろん別の部屋で)凛子は制服、俺は制服がないので私服で学校に向かった。


 登校中も凛子は怒っていた。


「……」


「悪かったって、さっきのはごめん」


「……」


「そう、怒るなって」


「思い出させないでください。それにしつこいです!」


「う…すまん。なんか奢るから許してくれ」


「……おにぎり3個で」


 っ図々しい奴め。


「分かった。3個な。今日の帰りに奢る」


「おにぎりで従うような安い女じゃないですけど、今回は許します」


「で?俺私服なわけだけど男子の制服はあるのか?」


「ないです。今のところは」


 じゃあ、しばらくはこのままなのか。


「で?桜蘭は寮生活だよな?俺、荷物持ってきてないんだけど。あと、ドアどうなった?」


「ドアの修理代はこっちで出しました。それに荷物は引っ越し業者に頼んであるので心配は要りません」


 そうこう色々話しているうちに校門に着いてしまった。



「着きましたよ」


「俺、本当にこの門くぐっていいのか…ここやっぱり女子校だよね」



「隊長が入学届け出してるから大丈夫ですよ。早くしないと遅刻しちゃいますよ」


「それはちょっと…初日から遅刻はヤバいと思う」


 初日から遅刻なんかしたら第一印象が一気に悪くなるし、凛子も一緒に遅刻してしまう。


「行かないなら先に行きますね。一人で来てください」


 うん、一緒に遅刻するとかそんなことなかったわ。


「だあ、もう分かった。分かったから、行くって」


 そう言い、俺は校門をくぐった。



 校門をくぐると、とても大きい5階建ての大きい校舎が建っていた。


「それでは、私はここで」


「え?ちょ、おい、まって。俺のクラスは?」


「菊田さんは、校長室に先に行ってください。」


「うん、それはいいけど俺、校長室の場所知らない…」


 そう言うと凛子は呆れたような顔をして、

「はぁ~、普通は自分が通う学校の地図くらい把握しておくものですけどね」

 と靴を履き替えながら言った。



「菊田君の靴箱はここです。私と同じ一組なのでここです」

 と言い、背伸びをして一番上の靴箱を指差した。


 俺はそこにスニーカーを入れ、靴箱の扉を閉めた。


「それにしても、広いなぁ」


「都立ですから」


「都立ねぇ…」


 やっぱ高校と中学では大きさの規模が違うな。



「で、校長室はこっちです」


 案内された所は5階の一番奥の部屋であった。


「失礼します。転入生を連れて参りました」


 凛子に続いて俺は校長室に入った。



「やあ、君が菊田君?」


「はい。そうです」


 その後、校長は俺を舐めるように見て、


「君、此処に来る前になんかスポーツしてた?」


「いえ、家に引きこもっていましたが…」


「それでその体型?」


 確かに俺は少し筋肉質だが、これは親父に勧められて(半強制的に)筋トレをしていただけだ。そういっても何年も前の事で両親が死んでからはもうしていない。


「昔、筋トレをしていましたかね。あと親の遺伝ですかね」


 実際、俺のお袋と親父は超絶ムキムキでご近所でも注目されていたのだ。


「ふーんなるほど。とりあえず今日は寮で荷物整理をしてもらって、明日体力テストをするから半袖半ズボンの薄着で学校にきて」


「はい。わかりました」


 校長は凛子の方を向き、

「えーと送ってくれた子クラスと名前教えて?」


「はい。一年一組鶴見ですが。なんですか?」


「菊田君送ってきてくれてありがとね。遅刻扱いにはしないように担任に伝えておくから」


 凛子は校長に向かって

「ありがとうございます」

 と言った。


「じゃあ、着いてきて」


「え?寮なら一応分かりますけど…あっちですよね?」

 そう言うと、校長は鍵をポケットから取り出し

「部屋、分かんないでしょ?あと今日の授業は出ないで部屋の整理をしてほしいんだ」


 この人は何かと用意周到というか…


 校長に案内され俺は着いていった。


 ほかの寮より一回り大きい寮に入る。


「ここは部屋のほかに大浴場とかの施設がついてるから一回りおおきいんだよ」


 へー。すごいな。


 説明を適当に聞き流しながら寮の中を歩いて行く。


「ここだよ」


 1105室と書かれた部屋の前で止った。


「はい、これ」


 校長は鍵を渡すとバイバイといって去っていった。


 鍵を開け、扉を開くと20畳程広いの部屋に二段ベッドがあり、上は使われている

 ようで、下が空いている。部屋のすみの方に段ボールが積まれていた。


「ん?このベッドが使われているってことは…」


 そうなると、もうひとり誰かがこの部屋に住んでいる事になる。そしてここは女子校だということは必然的にこの部屋には女子が住んでいることになる。俺の予想が正しければ…いやまてよ、男の先生が住んでいるという可能性は…


 俺は部屋の中を見回す。モノクロでシンプルな中でもどこか女子力の感じられるところが何個かある。だが男の人でも女子力の高い人はいる。これは…どっちだ?


 と考察してるうちに三十分が経っていた。さすがに一日もらって何もしてないのはまずいと思い作業を始める。


 

 もう一人の居住人の机、本棚、クローゼット、そして前の家にあった自分の家具があり、所々カーテンで分けられるように天井にカーテンレールがある。


 俺はたくさんの段ボールを開封し、自分の本棚やクローゼットに服や漫画などを詰めこみ、前の家から持ってきた食器棚に食器を入れる。相手の居住人は冷蔵庫や洗濯機、食器棚などをもってないらしく逆にどうしてこんなに部屋が綺麗なのか気になった。


 ソファーを移動させ、さらに冷蔵庫、テレビ、レンジ、トースターのコンセントをプラグに入れ、掛け時計を設置する頃には午後5時になっていた。


「やっと終わったー」


 シンプルというか貧相だった部屋がかなり豪華になった気がする。


「もう一人いるみたいだけど誰なんだろう?やっぱり先生とか?」


 その途端鍵が開き、俺のよく知っている人物が現れた。


「つ、疲れた~。もう今日はお風呂に入って早く寝ましょうっ!?」


「凛子!?はい?なっなんで?」


「なんでってそれはこっちのセリフです。なんでここというか女子寮にあなたがいるんですか」


「え?」


 やっぱりここ女子寮だったのか…


「校長の野郎覚えとれ」


「女子寮なのは当たり前じゃないですか。ここ女子校ですから」

 せめて相部屋じゃなくて一人部屋とかにしてくれ…


「とりあえず、寮の案内をしますから。ついでに監督の先生に聞いてみましょうか」


 監督ねえ…ちゃんとした先生だったらいいんだが…


 そして、俺達は部屋を出た。


 寮の2階は二年生の部屋らしく3階は三年生の部屋らしい。


 凛子は四階に階段で行き、のれんが掛かっているところで立ち止まり、


「ここが大浴場です。右側が桜の湯。左側が梅の湯です」


 右側には三年と書かれ、左側には二年と書かれている。部屋に風呂がないと思ったらこんなところにあったのかよ風呂ォ…


「覗いた瞬間に斬り刻まれますから注意してくださいね」


「んなことしないよ…」


 そんなことをしたら一発で殺されることは分かっている。


 そして俺達は五階に行くと、そこにはコンビニと生産所と書かれた場所、いろいろな自販機が数台あるのみだった。


「コンビニはさすがに分かりますよね?」


「当たり前だろ…さすがに知らないはヤバい…ってか寮にコンビニがあるってすごいな」

 あと、生産所とは何かを教えてくれ。


「じゃあ、ここはもういいですね?次に行きましょう」


「ちょっと待って、この生産所って何?」


 そう言い俺が指をさすと凛子はこう答えた。


「見れば分かるじゃないですか。刀の研ぎ直し、防具の修理などですよ」


 なるほど。


「施設の量が凄いな…」


「まあ、そのうち全て案内してあげますよ」


「え?凛子が案内してくれるのか?」


 俺がそう言うと凛子は、何言ってるんだコイツという感じの顔をした。


「は?いえ…クラスの誰かがという意味であって、決して私が菊田君を案内するとは一言も…」


「案内してと言ったのは誰だっけ?」


 俺が揚げ足をとると、凛子は

「あれは言葉の綾であって私は寮を案内すると…はぁもういいです。行っていないのはあと六階だけなので一人で勝手に行っててください」

 と言い何処かへ行ってしまった。


「はぁ~。なんか今日は凛子を怒らせてばっかりだな。好感度30くらいは下がってるだろこれ」


 そう言いつつ六階へ行くと刀を振っているもの、更に浮いている者もいた。


「なんだこれ」


 あの刀には浮くという能力が付いてるやつがあるのか。なんというか、凄いね高校って。

 ここで夢幻と黒鉄・零こいつらを試してもいいが…転校初日の一年生、しかもこの学校に本来いないはずの男子がいきなり現れたらみんなびっくりするよな。ひょっとして通報とかされちゃうんじゃ…


 あれこれ悩んだ結果、結局部屋へとスタコラと帰っていく自分であった。


 部屋に帰ると凛子が椅子に座って優雅にお茶を飲んでいる…なんてこともなく、机に向かい勉強をしているところだった。


「おかえりなさい。で?先生には会えたのですか?」


「ううん、まだ会ってない」


「じゃあ、良かったです…って会ってない!?」


「慌てることないだろ?別に明日でも会えると思うし」


「そうではなくて部屋の事を聞くんです」


 そういえばそうだったな。


「えぇ~だるい~行きたくない~」


「そっちはだるくてもこっちは重要案件なんです!」


 そうして凛子はおれを引きずるように一階の宿直室に連れていった。一階に着くと入り口近くのドアをノックし、開けて中に入る。


「失礼します。転校生の部屋について聞きに来たのですが」


 宿直室に入ると誰かがいる様子はなく、部屋は空き部屋かと思うくらいにきれいだった。流石に誰もいないことはないと思ったのか凛子は少し大きな声を出した。


「誰かいませんか?」


 電気がついているので多分居るのだろうが、とても静かだったので凛子以上の声で宿直を呼んだ。


「宿直の方居ないですか?」


「宿直ならここにいるけど?」


 後ろから声が聞こえたことに対して俺と凛子はとても驚き


「「うわぁぁぁぁぁ!?ってあれ?」」


 俺と凛子の目の前には赤いジャージ姿に濡れたタオルを首に掛けフルーツ牛乳ビンを持った風呂上がりの校長がいた。


「いまは夜遅いんだから騒がないの」


「ごめんなさいってか校長って甘党なんですね~」


 手にもっていたフルーツ牛乳が気になったのでちょっとからっかってみる。


「なっ!?べっ別に甘いのが好きって訳じゃ…好きじゃ…いいでしょ私だって女の子なんだから」


 校長で女の子ってなんかイメージ的に矛盾してるし、そもそも校長何歳なんだ?


「ねえ校長って何歳?(ヒソヒソ声)」


「校長は22歳ですよ。まだまだ女の子でもギリギリ通ると思いますよ。」


「えっ、に、22歳!?」


「やめてよ二人共。校長の件もたまたま怨獣討伐の功績が認められただけで…ってかギリギリってなによ」


「え?じゃ、じゃあここの卒業生なんですか?」


 凛子が何故か必死に食い付いた。


「話を聞け話を…まあいいや。で私の出身校は翔陽だけど…」


「じゃあ、どんな刀を使っていたんですか?」


 凛子の目が凄いキラキラしてる。校長も流石この時間に騒ぎ立てるのはにまずいと思ったのか


「と、とりあえず立ち話もあれだし中で話そうか」


 そう言い部屋の中に入り、パイプ椅子と麦茶を用意した。


「校長律儀だな~ってか校長が宿直なんかやるのってアリなんですか?」


 正直校長が宿直って聞いたことがない。


「はい、座って座って。あと宿直は私がやりたくてやってるだけだし。」


 俺は遠慮なく座る。


「菊田さんはもう少し遠慮というものを覚えてください」


「あ、別に遠慮とか大丈夫だし鶴見さんも座って大丈夫だよ」


「じゃあ、失礼します」


「で、なんだったっけ?」


 校長がフルーツ牛乳のフタをポンッと開けた。


「何の刀を使っていたかということです!」


「あぁ…私、刀使ってないよ?」


「え?」


「現在進行形で出動するときは対物ライフルを使ってるんだけど。まあ、こんな身分になったからもう出動もなにもほぼないんだけどね~」


「ええええ!?」


 その瞬間凛子は意気消沈した。

「でね私が使っているのはバレットM82A1っていう対物ライフルでー銃口初速が853m /秒!!射程はなんと、約2000m!!すごくない?でさー今はこれ使ってるけど昔はねあれ使ってたーえっと何だっけ?あっそうそうM16A1だわ、あれはなんていうか」


 校長のダンガントークに凛子は耐えれなくなったのか


「あの、校長…お花をつみにいっても良いでしょうか?」


「別にいいけど…」

 もう、凛子は情報処理が限界そうだし助け船でも出すか…


「話は通しとくから先に部屋戻っといて、これ以上おまえの精神が持たないだろ(ヒソヒソ声)」


 凛子はありがとうございますとでも言いたそうな顔で部屋を飛び出していった。


「でね、先輩とー」


 流石にもう22時だ。校長の話を聞くのは楽しいし、校長もかなりの美人なので目の保養になるだろう。しかし明日の授業で寝るわけにはいかないので校長のダンガントークを止めた。


「あの、校長いいですか?」

「ん?なに?」


「校長の話は楽しいですが、もう夜遅いのでまた後日に聞かせてください。それでここにきた要件をいいたいんですが…」


「ん、なに?」


「……なんで男女同室なんですか?」


 余っている部屋が少しあったのでそれを使えばいいはずだ。だがそこを使わないならそれなりの理由があるはずだ。


 校長はスゥーと息を吐き先ほどまでと一転して真剣な表情になった。


「鶴見さんは例の事件で妹さんを失ったのは知ってる?」


 強制的に連れてこられたときに聞いたことだ。


「はい、本人から聞きました」


「妹さんが居たときは、その妹さんが鶴見さんのパートナーだったの。辛いときも楽しいときもいつも一緒に居た。鶴見さんにとって妹さんは片腕のようなものなのよ」


「でも、それを失った」


「そう、自分の片腕を失った彼女はあまり笑わなくなった。だからその話を聞いたと

 き私は考えた。新しいパートナーを作ればいいと…」


「―でも駄目だったと」


「ええ、彼女に友人はいるけど親友とよべるレベルの友情は周りには芽生えていない。家族の方がたくさん一緒に過ごしてきたのだもの」


「で、なんで俺を選んだんです?」


「家族よりも多く一緒にいる可能性があるのは夫婦。そう考えたってわけ。まあ兄弟と夫婦ってのは全くの別物だからねこれはあくまで私のエゴというかこうなって欲しいなーっていう願望というか妄想?」


「それで?俺と凛子が夫婦になれと?」


「もちろんそんなことは言わないよ。恋愛は誰としようが自由だからね。君自身が決めることだよ。ただね、あの子と少しでも長く居てあげてほしいかな。なんだか君たちなら結ばれそうな気がするから」


 言ってる事が結構無茶苦茶だ。まあ面倒だからこれ以上話す気はない。正直疲れた…


「わかりましたよ。じゃあ僕は戻りますので」


「あ、待って」


 校長は箱を持ってきて開けた。


「これが、私の武器。刀みたいに特性はないけどある程度は強いしいざって時はいつでも駆けつけれるからピンチの時は助けを呼ぶってこと忘れないでね。無理しすぎて死んだら元も子もないからね」


「はいはい、わかりました。それではおやすみなさい」


 そう言い、俺は残った麦茶を飲み干した。


「おやすみなさい」


 部屋に戻ると凛子は風呂に行ったのか部屋に居なかった。さっきの校長との会話を頭で整理しながら帰ってきたがどうもいい感じに丸め込まれた気がする…というか俺が面倒くさくなって帰ってきてしまっただけだが…また今度話に行ってみるか。


「はぁ、駄目だったって後で伝えるか…風呂入りに行こ」


 そう言いクローゼットから下着とバスタオル、タオルを鞄に入れ、電気を消し1105室を後にした。


 四階まで階段で音を立てないように上り、二年から男と変えられた梅の湯ののれんをくぐる。おそらく先生などが宿直の時にこののれんが使われるのだろう。脱衣場には約30個ほどの籠があり洗面台にドライヤーが4つ並んでいた。服を脱ぎ、タオルを持ち湯船への扉を開けると屋内に掛け湯、シャワー、大きい湯船、露天風呂に繋がる扉があった。


 掛け湯をし、体を洗ってからまず屋内の湯船に浸かる。


「はぁ~すげぇ暖かい~くっそ癒される~」


 体の芯から温められているように感じる。


 俺はその湯船に15分ほど浸かり、露天風呂へと行った。


 露天風呂は学校の裏側が練習用の山なのでとても景色が綺麗だった。夜なので暗く

 てよく見えないが、景色が綺麗であることはわかる。温泉も肩から凝りがほぐれていくように疲れがどんどん吹き飛んでいく。20分も入っているうちに眠くなってきたので、温泉を出た。


 替えの服に着替え、髪をドライヤーで乾かし、脱衣場を出た。


「ここにコインランドリーがあるのか。まあ、洗濯機があるから使わないけど」


 エレベーターに乗って一階に行き、鍵を使ってドアを開けて入る。刀を支給された

 刀置きに置き、洗濯籠に下着とタオルを入れ蓋をする。


 凛子は寝ていたので部屋の件が駄目だった事は後日伝えとこう。


「よし、寝るか」

 

 俺は目覚まし時計をセットして深い眠りに落ちた。

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