百本刀と夢幻刀

星野 光

壱 学園編

第一刀 まずは刀を創りましょう

 1975年、経済状況の悪化、度々来る自然災害などで人々の不安が高まっていた。そして、新たな生命のような物が誕生した。人の負の感情を素に生まれるその謎の生命体を人々は怨念の怨の字と獣の見た目から怨獣と言われた。これはその怨獣に対抗するために作られたグループに属する一人の少年の話である。


 2028年5月


「ん?なんだこれ?」


 俺はパソコンのメールボックスを見ていった。


 差出人 不詳

 用件 不詳


 パソコンの画面に浮き出たメールの差出人欄と用件欄には何も書いていなかった。


 しぶしぶ俺はメールを開いた。


 ぱんぱかぱーん!


「おめでとうございま~す」


「うわぁ!?」


 突然映像が流れだし、派手な音楽と共にうるさい女性の声がした。


 迷惑メールかと思いつつ続きを見る。


「貴方は本日より防衛省怨獣科討伐部雪組八番隊ぼうえいしょうおんじゅうかとうばつぶゆきぐみはちばんたいに配属されることになりました!」


「は?どういうことだよ?」


 俺はパソコンのメールに向かって叫んだ。


 なにパソコンに叫んでいるんだよ、しっかりしろ自分と思いつつパソコンに目を戻す。


「なんで?と思っているでしょう。わかりますよ、私には…」


 な、なんだよこいつ予言者かよ。お、俺は信じねーぞ…こんなの…


「あ、言い忘れていたんですがー、これ」


 ごくり


「国からの指名なので逃げられませんし、もうそちらに当局の者が行ってて」


 え?まじかよ…


「そろそろ迎えが行きますので、じゃあ頑張って下さい」


 そこでビデオメールは切れた。


「は?」


 ピンポーンとインターホンがなる。


「嘘だろ…まじなの?」



 ドアを少しあけながら、外を見ると同年代の女子が立っていた。


「新聞ならうちは取っておりませんので」


 と言いドアをしめようとすると、俺の目の前であり得ない光景が起こった。


 目の前の女の子がドアを引っ張りその勢いでドアが壁にぶつかりドアが取れた。 


 こ、この女の子ドア破壊したよ? これ、何かの撮影?ってかここってそんなボロかったっけ?


「ドラマの撮影?」


「いえ」


「え?じゃあなんで壊した?」


「こうでもしなきゃ開けないし…」


 わぁ怖い


「いや、だからってドアを壊すのはちょっと…ね?」


「そこはー、えっと謝ります」


「は、はあ」


「ドアを壊してごめんなさい。弁償します」


 女の子はペコリとおじぎをした。


「う、うん」


 女の子は起き上がると


「で、着いてきてくれます?」


「どこに?」


「いや、やっぱりいいです。貴方に拒否権はありませんから」


 と言われた瞬間、彼女は俺の口になにかを染み込ませたハンカチのようなもので覆いその瞬間俺は意識を失った。

 *****


 …きましたよ


「起きて下さい!もう、着きましたと言ってるじゃないですか!」


 そう言い、彼女は俺の頬を容赦なく叩いた(らしい)。


「ぐっふぇ!?」


「あ、起きましたね。薬の量間違えたと思ったじゃないですか。私の心配返してください」


 理不尽!?


 目を開けると、彼女は頬を膨らまして怒っていた。


「…可愛い」


 思ったことが口に出てしまった瞬間、彼女は変なものを見るような目で


「はい?何を急に言い出すんですか?会って間もない女性を口説かないで下さい」


「すまん、俺がどうかしてたわ」


「分かればいいんです。早く行きますよ」


 そう言われ俺は半場強制的にビルの中に連れていかれた。


 *****


 ビルの中に連れていかれた後、俺はエレベーターの中で彼女に色々と忠告を受けた。


「いいですか、まず此処は防衛省怨獣科討伐部雪組ぼうえいしょうおんじゅうかとうばつぶゆきぐみの…」


「名前、長いな…」


「じゃあ略します」


「なんて?」


「雪組でいいですか?」


「うんじゃあそれでいい」


「とりあえず此処は雪組の基地なのですが、この事は絶対秘密でお願いします。」


 何故か聞いてみたところ、


「雪組の他にもいろんな組があって、例えば菊組とか、藤組、松組などの組があるのですが、過去に内乱が起きてですね、いろんな組が組同士で潰しあいになって、その間に怨獣おんじゅうが市民を襲って新宿一帯にかなりの被害が出たのが3年前…」


「3年前、俺の両親が怪物に殺された年…」


「えっ…!?」


「…っ、じゃあ俺の両親が殺されたのはお前らが原因なのかよ。お前らが争っていなかったら俺の両親は助かったんじゃないのか?」

 

 すると、彼女はうつむき。


「それは私も報道などを見ただけで詳しい内情などは分からないので何とも言えません。でも貴方にもそんな辛い過去があったのですね…」


ってお前も両親を?」


 彼女は悲しそうに答えた。


「いえ、私は双子の妹がいたんです。それが今現在も音信不通で…」


「…すまん。急な事だったからちょっと変になってた。お前も、辛い思いをしてるんだな…」


 そうこうしてるとでエレベーターのドアが開いた。


「遅いよー。待ちくたびれちゃったじゃん」


「すみません。隊長」


 は?


「え?隊長って?えぇ!?」


 このちっこい人が?


「やあ、君が新入隊員の…えっと名前は?」


「菊田。菊田 優きくた ゆうです」


「そうか菊田くん。今日から君は雪組八番隊に配属される。ここが拠点だから覚えとくようにね。9階だよ?覚えた?」

 

「分かりました」


「ところで凛子ちゃんの表情が暗いけどエレベーター内で何を話してたの?」


 そう聞かれたので俺がエレベーター内での事を伝える。


「なるほどね~。二人共、三年前の神獣型で家族を失ったと…」


「はい、そうです」


 また、思い出したのか泣きそうになった少女が答えた。


「まぁいいや、そこの鶴見ちゃんは三年前の神獣型の被害で双子の妹を亡くしていてね。『そんな気持ちを他の人にはしてほしくない』と言って強引にサポート専門の藤組から移ってきたんだよ」


「まあ、移って一ヶ月もたちませんし、仕事もこっちの方がやりやすいんですけどね」


 そして、少女はこちらを向いて、


「自己紹介がまだでしたね。これから貴方のパートナーにる鶴見 凛子といいます。よろしくお願いします。気安く凛子とでも呼んで下さい」


 凛子はペコリとおじきをした。


「俺はさっき言ったと思うが、菊田 優だ。よろしく」


「自己紹介が終わって和んでいるところ申し訳ないけど菊田には刀を創ってもらわなくちゃね」


 え?創る?


「鉄を…叩くのか?」


「んな事してたらいつまで経っても創れないじゃない」


 と、言われて俺は大きな機械の前に連れていかれた。そして隊長は大きな鉄の塊を持ってきて俺に投げつけた。


「はい、これ」


 キャッチした俺はその鉄の塊をまじまじと見た。


「重っ!?なんですかこれ?」



「刀を創るための金属だ」


「それにしても重いですね」


「特殊な金属で出来ているからな」


 そう言いながら隊長は機械を操作し、

「その鉄の塊をここに入れてくれ」

 と言って直径60センチほどの穴を指差した。


 俺はその穴に鉄の塊を入れた。


「じゃあ、隣に手を置く場所があるからそこに手を置いてくれ」


 俺は隊長の言う通りに機械に手を置いた。


「よし、準備完了」


 といってレバーに手をかけた。


「手を離すなよ~」


「はい。」


 返事をした瞬間に隊長がレバーを下げる。


「……っ」


 く、くすぐったいんだけど…なにこれ?


 手だけ何かにくすぐられているような気がする。


「あひゃ、あひゃひゃひゃ、止めてくれ、くすぐったい」


「3.2.1完成だ」


 機械からチンと音がして、さっき鉄を入れた蓋が急に開いた。


「あぁ、死ぬかと思った」


「これぐらいで死なれるとこっちも困る」


「で?出来たんですか?」


 ほら取ってみろと言い、穴を指差した。


 俺は穴に手を入れ、ざらざらした手触りの棒を取り出す。


 手の中には立派な刀があった。


 鞘は真っ白で柄は金色に輝いている。


 俺は早速刀を抜こうとした。


「あ、菊田さん待って下さい。危ないですから」


「え?危ないって何が?」


 俺はとりあえず、刀の柄から手を離した。


「その菊田さんが持っている刀や私の持っている刀を含めて、此処で創られた刀はいろんな特殊能力があるので、その力が制御できないうちはむやみやたらに抜いてはいけないんですよ。爆発などの能力とかの可能性もありますから」


 凛子は持っている刀を見せて説明した。


「なるほど、分かった。」


「で、その特殊能力を今から計りにいくぞ」


 そう言われ案内された。


「和室!?」

 大きく武骨なビルの中にはあるとは思えないような綺麗な和室が目の前に広がっていた。


「今は皆出ばらっているがしているが雪組八番隊の控え室だ」


「菊田さん以外全員女性ですから、入る時は声かけをお願いします」


 なにやら、いろいろな事情がありそうだが今はいい。


 隊長は刀掛け台を持ってきて、埃まみれのコンセントについた埃を雑巾で拭き取った。


「この上にその刀を乗せてくれ、刀の名前と詳細が出る」


 刀を置き、その台をじっと見つめたが何も出ない。


「何も出てきませんよ?」


「おっと、電源を入れ忘れていた」


 と、カチッと電源スイッチを入れる。


 するとブウォンといい刀掛け台の上にホログラム画像が出てきた。


 刀の名 夢幻むげん

 詳細 名前の通り夢や幻に出てくる

 特殊能力 変幻自在 あらゆる刀の特殊能力を下位互換で発動する。


 詳細、雑だなぁ…


「なんですか…この雑な詳細は」


「ふむふむ…これはうちの部隊もそこそこの当たりを引いたようだな。この能力使い方によっては結構強いぞ」


「はあ、そうなんですか」


「私が見たことのある刀の中ではな。強さはあくまで使い手に依存するが」


「見たなかで一番強いのは何でしたっけ?」


 凛子が聞いたがそれは俺も気になった。


「一番という訳ではないが……それなりに強かった奴といえば黒鉄・零式くろがね・ ぜろしきって奴があってな」


「なんですか?それ」


「私が知ってる中でそれなりに強かった刀だ。まあ、私が見た物なんてそんなに多くないがな。そして、あの機械で創られた一番最初の刀らしい…作られた瞬間は見たことない。あと、能力の詳細を聞いただけだがな」


「誰が所有しているのか分かるんですか?」


「いや、誰も所有していない。というか出来なかったんだ」


 出来ない…どういうことだ?


「実は作ったはいいもののプロトタイプということで安定性に欠けて誰も制御出来なかったんだよ。あと能力がかなり頭を使うやつだから戦闘中に使えないという奴が多くてな」


「どんな特殊能力ですか?」


「ん?百花繚乱・零だったかな?覚えてないや」


「私が聞きたいのは能力の詳細なのですが…」


「刀が百本まで分裂してそれぞれを自由に操作できる能力だな」


 そりゃ強い訳だ…


「ちなみに今はあそこに封印されている」


 と言って押し入れを指した。


 え…なんでそんなとこにあるんだよ…


 ガタンッ!!


 その瞬間押し入れから音がした。

 

 ガタガタガタッ


「なんだ?」


 隊長が押し入れを開くと一本の真っ黒な刀があった。


「く、黒鉄・零式の封が解けてる。」


「え、それってヤバくない?」


 隊長はその黒鉄・零式をとり、こちらを向いて言った。


「菊田、もしよければ試しに抜いてみる?これも何かの縁だ」


「え?だってさっき危険とか…」


「能力が分かっていなければの話だ。これは、分かっているから大丈夫だ。」


 そう言うと、刀を押し付けるように渡してきた。


「まあ、やってみるか。」

 なんかよくわからないまま貰った刀を抜き刀が分裂するのをイメージしてみる。すると俺の持っている刀と分裂して現れそこにふわふわと浮いている刀の二本に増えた。



「こっこれは!?」


 俺や凛子が驚きを隠せていないが何故か隊長は嬉しそうである。


「やはり、私の見込んだ男だ。菊田くん。それあげるよ。大事に使ってあげな。夢幻と黒鉄・零式。」


「つまり、二刀流?」


 なにそれ超絶かっこいいじゃん。



「ああ、そういうことだ。」


 でもこんな重いもの二本もどうやって…


「ふふ、重いんだろ。まあ、そのうち慣れるさ。で、その刀を使えるなら夢幻も使えるよね。ちょっと抜いてみて」


 俺は真っ白い夢幻を握りゆっくり抜いた。


「振っちゃ駄目だからな!絶対振るなよ!」


 そう言い隊長は刀を抜き、構えた。すると、突然隊長の前に光の壁が出来た。


「それは?」


「これが、私の刀の特殊能力、防壁シールドってやつだよ。試しに鶴見ちゃんこれを刀で破ってみて」


 そう言われ、凛子は刀を抜き隊長に向かっておもいっきり振った。


 カンッ!


 渾身の一撃も虚しく、光の壁に弾かれてしまう。


「じゃあ、次やって」


 俺は夢幻を大きく振りかぶり隊長に向かって振った。


 しかし光の壁は破れない


「硬いなこれ」


「鍛えてるからね。能力は使えば使うほど強くなるんだ」


「つまりガンガン使ってけと」


「そゆこと。能力の話はここでおしまい」



隊長は刀を納め刀掛台に刀を置く。


「で、今日から君は雪組八番隊の新入隊員として一ヶ月間研修をしてもらおう」


「はい、よろしくお願いします」


「ところで、学校って行ってる?」


「いいえ」


 どうして急にそんなことを聞くのだろう。


「じゃあ、よかった」


「何がですか?」


「君には明日から桜蘭女子高校に通って貰うよ」


「「え?」」


「い、いいんですか?隊長。女子校に男子を入れて?」


「そこはなんとか校長に話つけとくから大丈夫だよ。ってか実はそろそろ共学に戻そうかとか言ってたんだよね。だからそれの試験ってことで」


「え、でも本当にいいのか?俺がそんなところに入って」


「いいから、いいから、気にしないで。じゃあ、明日迎えに行くからよろしく」


 と言い部屋を出ていってしまった。


「はぁ」


「あの、明日からよろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく頼む。もう早く家に帰りたい」


 ん?何か忘れてるような…


「あ、家のドア壊れてんじゃねーか」


「じゃあ、ここに泊まっていけばいいのでは?」


「ナイスアイデア凛子」


「ちなみに私も寮が遠いので泊まります。あと、布団はたしか一つだったような気がするのですが…」


 え?女の子と一緒の布団で寝るとか俺みたいな拗らせ童貞には無理なんですけど。ということで帰ります。いや、帰る場所も破壊されちゃったんだけどさ…


「仕方ないので布団を使っていいですよ」


 流石に女性を床で雑魚寝させるのは気が引ける。


「いや、俺は床で寝れるからいいよ」


「いえいえ、せっかくここまで連れてきたのもありますし。明日も学校があるのできちんと休んでもらいたいので別に私は大丈夫です」


「いやいや、いいよ。ってか俺床でしか寝れないタイプの人間だから」


 うん、これ自分でもなに言ってるかわかんねえな…


 「そうですか…では、ありがたく使わせていただきます」


 そう言い、凛子は布団に入った。


 その後、床で雑魚寝しようとしたが床が固くてあまり…というか全然眠れなかった。

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