第四刀 売られた喧嘩は買いましょう

 先輩にタイマンを申し込まれた夜。俺と凛子は対策を練っていた。


「生徒会長か…」


 さぞかし強いのだろう…


「生徒会長の福田 深雪は、強力な怨獣を討伐した功績によってその役職についたようですね」


「それだけ強いということだな」


「ただし、情報は割れています。あちら側がこちらのスキルを把握してないのが救いですかね」


 凛子がスマホを取り出し俺に見せた画面にはニュースサイトが写っていた。


「えっとどれどれ?福田 深雪 容赦ない百連撃によって単独で危険度クラス12の怨獣を討伐……」


 は?なにこれ?危険度12ってなんか強そう……


「なあ、この危険度ってのはなんだ?」


 俺はスマホの危険度12をドラッグしウェブ検索のボタンを押した。


「ちょっと、勝手に人の携帯をいじらないでください」


 凛子がスマホを取り上げた。


 チッばれたか。


「危険度っていうのは言葉通り怨獣の危険度を表します。大きく分けてクラス21まであります。」


「21!?以外と12って弱い?」


「そんなことないですよ。今の菊田さんじゃクラス1も倒せないんですよ?」


 まだ戦ったことないけどな。


 そう言った後、凛子はカバンから白紙を取り出した。


「話がそれましたが危険度というのは文字通り怨獣の危険度を表すもので…」


「それはさっき聞いた」


「それくらい分かってます。で、クラス1が菊田さんみたいな駆け出し二人で倒せるレベルです。」


 そう言いさっき取り出した紙にクラス1・駆け出し二人と凛子は書いた。


「次にクラス2…」


 その後、凛子にクラス2からクラス21まで紙への記入付きで説明された。


「――で全く太刀打ちが出来ないクラスなんです。これで全部です。紙に書いておき

 ましたから忘れたら読んでくださいね」


 そう言い渡された紙にはこう書いてあった。

 クラス1・剣位なし二人がかりでやっと倒せる強さ

 クラス2・剣位なし5人でぎりぎり倒せる強さ

 クラス3・剣位なしでは対処するのはほぼ不可能。剣位一段一人以上で倒せる強さ

 クラス4・剣位一段二人以上で望むべき強さ

 クラス5・剣位二段一人以上で望むべき強さ

 クラス6・剣位二段四人以上で望むべき強さ

 クラス7・剣位二段六人以上で望むべき強さ

 クラス8・剣位二段八人以上で望むべき強さ

 クラス9~11・剣位三段4人以上で望むべき強さ

 クラス12~15・剣位三~四段9人以上で望むべき強さ

 クラス13~20・剣位四~五段以上複数名で望むべき強さ

 クラス21・災害級レベルの強さ


 俺は凛子に渡された紙を自分の机の上に置いた。


「で、生徒会長ってのは普通なら剣位三~四段?の奴が9人がかりで倒せる怨獣を一人で倒したのか…」


「はい、菊田くんはとんでもない人に決闘を申し込まれてしまったのですよ」


「ってか剣位ってなんだ?」


「剣位というのは怨獣討伐の成果や昇段試験によって決まる強さの目安です」


「つまり○検みたいなものか」


「まあ、そうなりますね」


「で、生徒会長は何段なの?」


「剣位五段です」


 は?え、つまり、俺って今レベル1の状態で魔王に挑もうとしてるようなわけだよな?


「……ヤバいじゃん。今から生徒会長の寮行って無かったことに出来ないかな?」


「……」


 何故か凛子がジト目でこっちを見ていた。


「と、とりあえず対策を練らないと…」


「そうですね。どうせフルボッコにされるなら抵抗した方がマシというか、格好いいですからね」


「そこは負ける前提なんだな…」


「当たり前でしょう。相手はクラス12を単独で倒す化け物なんですから」


 化け物という例えはどうかと思うがド正論だな…


「いいですか、生徒会長の刀は黒鉄くろがね。つまり、菊田さんの黒鉄・零式くろがね・ぜろしきの後継機にあたる刀ですね」


「能力は?」


 百連撃が個人のスキルなのか刀のスキルなのかそれだけでも分かれば、安心感がかなり違う。もしも個人のスキルだった場合、相手の個人のスキルともう一つ刀のスキルを警戒しないといけない。スキルがわからないとなると、対処方法もわからないためほぼ死亡状態だ。


「ニュースにあった通り、最大百連撃の猛攻ですね」


「良かった~。さすがに刀のスキルがわからないはヤバいからな」


 その後5階に二人で行き、スキル発動のコツなどを教えてもらい、その他にも受け身などの護身術を学びその日が終わった。


 *****



 朝起きて、凛子を起こす。


 そして、ご飯を食べさせる。


 昨日と同じ事を繰り返し、学校に行った。


 登校途中で冬空と会ったので一緒に登校した。


「おはよう」


「うん」


「ところで、今日勝負にいくの?」


 冬空が聞いてきた。


「まあな」


「ふ~ん。ゲームに支障が出ないレベルでやってね?」


「心配するのそこ!?」


 ヤバいよコイツ。狂ってやがる。


「まあ、善処はする…」


「手とか怪我したらぶった切るから」


「待って、やめて怖いんだけど…」


 最悪、生徒会長にフルボッコにされてその後に冬空にぶった切られるとかマジ勘弁

 ですわ…


 その後、体力測定など含めて見事に何もなく、そのまま約束の時間の5分前になってしまった。


 なぜか、冬空が着いてきたが…


「ここが第四演習場か」


「私も初めて来たけどこここまで大きいって…」


 そこは大きな建物の中に円形のスタジアムが出来ており、例えるならコロシアムというのが一番合っていた。


「やっと来ましたね。普通5分か10分前行動が基本でしょ?さあ、始めましょう」


「ちょっと待って下さい」


「なに?今さら勝負を止めにするなんてことは出来ないのだけれど」


「なんですか?この観客は…」


 演習場の座席には大量の観客がいた。生徒から先生まで沢山の人が席に座ってい

 る。


「彼女達が勝手に来ただけよ。それに、私に楯突く程の人には観客なんて関係ないでしょ?」


 彼女は満面の笑みで言ってきた。


 う、ウゼェ


「あぁ、やってやるよ」


「あ~あ、あんな安い挑発に乗っちゃったよ…」


 おい冬空少し黙ろうか…


 今結構むしゃくしゃしてんだよ。


「誰か、レフェリーとして来てくれない?」

 生徒会長が言うと、高三の生徒が一人スタジアム内に入ってきた。


「では、僭越ながらこの私、神宮寺 尚じんぐうじ なおがレフェリーを勤めさせていただきます」


「神宮寺さん。本当にお願いしても大丈夫ですか?」


「はい、会長の剣舞を間近で見られるなんてこの上ない鍛練の場ではないですか。それに会長を侮辱したこの男も私の高位治癒ハイヒールで治せますしね。もちろん、会長にぎたぎたにされてから、ね?」


 神宮寺 尚はこちらを見て嘲笑するような目で見ていた。


 高位治癒ハイヒールか、結構使えそうだな。


「煽るのもそれくらいにしておいたら?彼、結構怒ってるわよ?」


「す、すいません。会長」


「もう、なんでもいいからとっとと始めてくれ」


 出来るなら早く終わらせたいところだ。


「それでは、ただいまより一対一の決闘を始めます。ルールは一つだけ、相手を殺さないこと。それ以外なら何をしても大丈夫です。それでは、抜刀!」


 福田 深雪は黒鉄くろがねを抜いた。


 対して俺は夢幻むげんを抜いた。


「一本でいいの?もう一本は?」


「生憎、二本同時に振り回すほどの体力を持ってなくてね」


「構え!!」


 お互いの間に緊迫した空気が流れる。


 演習場は大量の観客がいる中、とても静かで相手の呼吸音まで聞き取れるレベルだった。


「始め!!」


 俺は、凛子のスキル、流星を使って大きく振りかぶった。


「甘いわね」


 最初の攻撃は黒鉄くろがねで受けられてしまった。


「なっ!?」


 いくら、下位互換とはいえこうも簡単に受け止めるとはどんな反射神経してんだ?


 そのまま押しきろうと刀で相手にのし掛かるように夢幻むげんに体重を掛ける。


 しかし、やはり筋力の違いで押しきれず鍔迫り合っている状況に立っていた。


「身体強化系スキル。使い方によっては強いけどまだまだね。一直線でルートの予想が簡単過ぎるのよ」


 そう言うと、彼女はバックステップで後退し、刀を再度構えた。


「本当の戦い方を見せてあげる」


「じゃあお勉強させて貰うとするか」


 多分、彼女は百花繚乱を使ってくるはずだ。どうする?俺じゃまず百連激を完全に受けきることは無理だ。黒鉄・零式くろがね・ぜろしきで刀を増やして受けるか…


「菊田くん!そんなんでバテたらもう一生任務に連れていかないからな!!刀も没収だ!!」


 観客席から聞き覚えのある声がしたのでそちらを見ると雪組八番隊の隊長さんがいた。


 ええ…それはさすがに理不尽なんですけど…


 ん?隊長…


 隊長を見て防壁シールドを使えばいいということに気づいた一応気づかせてくれた隊長には感謝せねば。


「隊長!!ありがとうございます!」


「ん?わたしは激励しただけだが…まあ、いいか」


 隊長はなんか嬉しそうだった。


「そろそろ、いい?行きますよ?」


「ああ、大丈夫だ」


 俺は夢幻むげんを構え直した。


「百花繚乱!」


防壁シールド!!」


 福田 深雪が上段から斬りかかって来たのを防壁シールドで受ける。


「もう一本のほうのスキルかしら?」


 もちろんやいばは弾かれるが、もう彼女は止まらない。連続で斬りかかり、防壁シールドを破ろうと更に攻撃の勢いを増していった。そんな、猛攻に下位互換である俺の防壁シールドは耐えきれる筈もなく、パリンッと破壊されてしまう。再展開には時間が掛かるので夢幻むげんでうける。


「重っ!?」


 一撃一撃がとても重い。とても受けきれそうに無かった。


 そして、抵抗むなしく吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。


「がっ!?」


 危うく意識をっ刈り取られそうになったがなんとか踏みとどまる。


 そうして、もう一度立ち上がろうとしたが体は意思に反して全く動かなかった。

 

 なぜ動かない…

 動け…

 だめだ体が動かない…

 なんで動かないんだ…

 もう、ダメかもしれない…

 ここぞとばかりに睡魔がやって来て俺の意識を刈り取ろうとする。俺は、抗えずそのまま意識を手放しそうになる。


「ぶった切られる準備は出来てるかな?」


 ふ、冬空?


 そこには、笑顔で手をポキポキならしている冬空の姿があった。


「この賭けに負けたら学校辞めさせられちゃうんでしょ?さっさと起きて早くあの人倒して私とゲームして」


 そうか、俺、負けたら辞めさせられちゃうのか…


 親をなくし、高校受験も落第、中学の頃の友人とは離れてしまい何度も居場所を失ってちょっと前まで屑みたいなニート生活を送っていた。今だからかしらないが正直あの時の自分はどうかしていると思う。


 

 もう、あんな風にはなりたくない。


 なにもしないで毎日だらだらしてただなにもない日々なんてもうこりごりだ。



 俺はもう動きそうにない自分の体に鞭を打って体に力をいれる。そしてさっき使えると思った高位治療ハイヒールを使う。


高位治癒ハイヒール!」


 自分の中から元気が沸き出てくる。撃たれたり斬られたりした部分も少しずつだが治っている。


「馬鹿なんじゃないですか?刀一本につき一つのスキルなのに、何個もスキルを使えるわけないじゃない。増しては神宮寺さんの高位治癒ハイヒールなんてレアスキル使えるわけ…」


 俺はゆっくりと立ち上がった。


「な、なんで治っているの。神宮寺さんなんかしました?」


「いや、私の刀はあちらですし…」


 俺は、そう話しているうちに夢幻むげんを左手に持ち変え、右手で腰から黒鉄・零式くろがね・ぜろしきを抜いた。動きがかなり遅くなるが仕方ない。


「はあ…はあ…そろそろいいですか」


「やっと本気を出してくれましたね。早く二刀流というものをこの目で見てみたいわ」


 俺の場合は二刀流とも呼べるようなシロモノではないがまあやるだけやってみようと思う。


「百花繚乱!」


「百花繚乱・零!」


 黒鉄・零くろがね・ゼロをまずは1本出し、ダーツのように勢いよく生徒会長に向かって飛ばす。


「なっ!?殺す気?」

 驚いている隙にもう1本出して彼女の上から重力に任せて落とすと同時にさっき飛ばした。

「あ、危ないっ!?」

 

「う、嘘」


 さっきの飛んできた刀を含めた十本の刀が俺の周りに出現しすべてが彼女のもとへ飛んでいった。


「こ、こんなの弾けばいいだけ!百花繚乱!」


 おしくも飛んでいった十本の刀の刀はすべてはじかれてしまった。さらにをスキル使って彼女が距離を詰めてきていた。


「やべっ」


 気づけば俺は首元に刀を向けられていた。


「どうやらここまでのようですね。まあ、頑張った方だと思いますよ。私の勝ちですけど」


「いつから、勝ちだと錯覚している。後ろを見てみろ。」


「いやよ。どうせ背後を突くつもりでしょ?私はそんな策には乗らないわ」


 彼女の後ろには黒鉄・零の分身が十本彼女に刃先をむけてそこに浮いているのだ。


「じゃあ、怪我を負ってもこちらは知らないからな」


 そう言い後ろの十本のうち九本を彼女の周りの地面に向かって一斉に突き刺すと彼女はようやく自分の置かれている状況を理解したようだ。


「……先にこの状態に持ち込んだのは私。つまり私の勝ちってことでいいでしょ?」


「は?なに言ってるんだ?残りの一本突き刺せばもう生徒会長は終わりつまり俺の勝ち」


 お互いが勝ちを譲らず戦闘が再開されようとしたそのときだった。


「そこまで!」


 第四演習場のドアがダーンと音をたてて開いた。


 中に入ってきたのは校長だった。


「あれ?校長、どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたもないよ!菊田くん!早く刀を納めて!」


「え。は、はい」


 俺はスキルを解除し、黒鉄・零式くろがね・ぜろしき夢幻むげんの順に鞘にしまった。


「どうやらここまでのようですね。」


 そう言い生徒会長は刀を納める。


「これから私の監視下にない状況でこのようなことを一切禁じる。よってこの決闘は無効ね。それに二人とも決闘罪のことを知らないの?これ犯罪行為だから。今回だけは多めに見るけど次やったら退学ね」


 こうして決闘は無効とされ、俺と彼女はこっぴどく校長に叱られた後、3日間の出撃停止と刀の没収、生徒会長は生徒会活動の一ヶ月停止をくらったのであった。


 *****

 校長室でこっぴどく叱られた後、外のガーデンに移動し、冷静になったところで俺と生徒会長で少し話した。


「ごめんなさい。あのときは生徒会で揉め事があってイライラしていて…その、無関係の君を巻き込んで申し訳ないと思っているの。本当にごめんなさい」


 そういい、彼女は頭を下げた。


 うん普通に巻き添え食らって大変だった。


「ところで会長さっきと怒られてからで口調というか雰囲気が大分違うんですけど何かありましたか?」


「うぇ!?」


 あ、これ聞いちゃ駄目な奴だ…


「ば、ばれたら仕方ないね。あと、会長って呼ぶの止めてくれない?」


「お、口調が変わった。じゃあ福田先輩で。」


「うーん、なんか微妙だな…」


「じゃあ、深雪先輩で」


「ま、まあ良しとしよう」


「で、どうして口調が変わるんですか?」


「話すとかなり長くなるけどいい?」


「はい、大丈夫です」


「とりあえず座ろうよ。」


 そう言い、深雪先輩はベンチに座った


「私はね、昔から何でも完璧に物事をするように言われてきたの。そのために血が滲むような努力をしてきた。そして、なんでも完璧にこなしていんだけど、周りには努力をしていることを隠していたわけ。そしたら皆、私の才能が凄いとか言い出して、勝手に私がなんでも出来るとか決め付けていったの。でどんどんハードルが上がっていって気付いたらこんな事になっていたの。あの口調も会長らしく振る舞おうとしたらついああなっちゃって。ってこんな事聞いてもつまんないよね。ごめんね。じゃあ、私はもう行くから。じゃあね」


 会長はベンチから立ってその場を去ろうとした。


「別につまらなくありませんよ。俺もそういうことありましたし。というか、困って

 いるなら俺にぶつけてください。これも何かの縁ってやつというか美雪先輩の秘密を知ってしまったんでそのお返しというか。流石にさっきみたいのは困りますけど、愚痴くらいはこぼしてもいいんですよ。人間、完璧なはずがないんですよ。だから、たまに休憩しないとボロが出ちゃいますからね。今みたいに」


「いや、でも…」


「いいですよ。基本的に俺は暇なんでいつでも相談に来てくれて。むしろ暇を持て余してるので暇つぶしには丁度いいとおもいますし」


「……なら、相談。行ってもいいんだよね?」


 


 という感じで、たまに深雪先輩が相談に来るようになった。


 ちなみに刀を没収されたと言ったら凛子に「はぁ、あのですねぇ。一つ言わせてください。……バカなんですか?」

 と言われた。確かにいろいろあったがなにかと最終的に丸く収まったんだ。別に良いだろうこれくらい。


「さぁ、俺の学園生活はこれからどうなるのやら…」


 まだまだ、俺の学園生活は始まったばかりである。



 それにしても、色々とイベント起こりすぎじゃね?

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