第12話daydreamed

食事を済ませて片付けを終えると、3人がけのソファの端に腰をかけた。

もう片端に座っていた彼が、テレビ画面のYouTubeから目を離さずにじりじりと寄ってきて、ソファの背もたれ越しに腕を伸ばし肩に手をまわす。

私は手に持っていたコーヒーをひと口飲むと、無言で開いた彼の手にマグカップを渡す。彼はコーヒーをひと口飲むとマグカップをテーブルに置く。

「これ、おもしろくない?最近ハマってるユーチューバーなんだよね。」

「好きそうだなーって思ってた。」

ふふふ、と笑いながら彼はソファに足を伸ばし、私の膝を枕にして寝転がった。


意外がられるけど、部屋にはこだわりが詰まっている。木目調で揃えられた家具、落ち着いた明かりを放つ間接照明が2つ、必要な物だけが並べられてその一つ一つが使いやすく洗練されたデザインのもの。ダンベルが転がっているのは、まあ男の部屋だからしょうがない。


私は少し暗い部屋で読みかけの小説をめくる。

テレビからはカップルユーチューバーの幸せそうな声が聞こえてくる。甘ったるい会話は少し苦手だ。堂々とオンラインに流すなんて私には理解できない。

少し手が疲れてきて彼の頭にそっと腕を下ろすと、ゆさゆさと彼が頭を振った。スースーと寝息を立てている。

「起きて。こんなとこで寝てたら風邪ひくよ。」

「…ん、」

返事なのか、ただ声が漏れただけなのか、のそのそと彼が起き上がるかと思ったら私の腰に手を回していた。

「ねえ聞いてた?」

「…ううん。」

今度は息が漏れると同時に、音となって聞き取れた。ふわりと彼の匂いが鼻をかすめた。

そのまま彼は、私のTシャツを少しまくると腹部にキスをした。

「…痩せた?」

「少しだけね。」

「…ふーん。もう少しお肉感欲しいんだけど。」

「じゃあ美味しいもの食べに連れてってよ。」

「考えとく。」

確かめるように腹部にキスをし探る彼。少しこそばゆくて身体がよじれる。

そっとおでこを彼の頭に近づける。

「くすぐったいって。」

すると彼はゆっくりと顔を上げ、私の顔を両手で包み込むと唇にキスをした。

触れるキスをしたら少し見つめ合って、鼻をちょこんとくっ付け合う。それが私たちの合図。

次は息継ぎもさせてもらえないような激しいキス。

唇の熱でじんわりと温められた腹部から、彼の手がゆっくりと登ってくる。

触れられた場所全てが熱を持ってふわふわと舞う。身体が彼を待っているのが分かる。

「…好き。」

「うん。…ありがと。」

左手が私の胸を捉えると、右手は臀部に伸びていった。

ゆっくり、だけど一番触れて欲しいところには触らないように動く彼の手。

身体から骨が抜けたようになって、クネクネとソファをずり落ちた。

彼の腕が私を支えてくれたかと思うと、また私を弄くり回す。

どんどん自分が解放されていって、心の奥の鉄壁まで一つ一つ剥がされていく。

丁寧に触れられるから、彼に全てを委ねられるのだ。

「あっ…」

それが私を目覚めさせる場所であっても。


遠くの方で、お笑い系ユーチューバーの声が微かに聞こえる。




------−−−−−

「朝ごはんできてるよ。起きておいで。」

ゆっくりと目を覚ますと、優しい声がする。

目を擦ると、濡れていた。

また泣いたんだ。



彼は食べ終わった朝ごはんの食器をサッと洗うと、日課の株の値動きをチェックしていた。

「またうなされてたけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫。心配かけてごめんね。」

「オレはいいけど…ほらまた涙流して。」

彼は親指で私の涙を拭うと、にっこり笑ってまたスマホに目を落とした。


彼はとても合理的だ。1日に時間の無駄がない。

暇なときは電子書籍で読書、ユーチューブは株や政治など有益な情報が得られるものを好む。




------−−−−−

「あれ、やっと半分読んだんだ。」

「うん。なんだか展開が単調で読み疲れた。」

「ラスト10ページくらいしか楽しくないからね、あの小説は。」

「そんなものオススメしないでよ。」

「そんなこと言っても、お前は最後まで読むだろ?」


意地悪そうな目で私を見る彼を、結局いつも許してしまう。


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spacing out... リサ @cocoon_fragrance

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