第6話fragile

彼とは大学時代に知り合った。学部は違うけど共通の友達を通して知り合って、なぜそこまで仲良くなったのか、今となっては理由はわからないが、それからかれこれ十年連絡を取り合い、たまに遊びに行くような関係である。

彼はひとつ年上。初めて会ったときはやたらとテンションの高い人だと思った。私もどちらかというとうるさいほうだが、彼の放つオーラに狼狽えた覚えがある。最初は敬語を使っていたが、それはふさわしくない気がして、彼の許可を得てタメ語で話すようになった。ある日彼が「そういえばお前、俺のことどこまで知ってるの?」と聞き、馴れ馴れしく話している割には彼のことを全く知らないことに気づいた。彼は自分の生い立ちを話してくれた。彼に昔なにがあったのか、正直その時はどうでもよかったが、話を聞くと今の彼からは想像できないような過去があって。それからは彼の本当の姿をよく見るようになった。

私も私で、彼にはなんでも話すことができた。彼の言葉はただの同情ではなくて、厳しい時もあるが心がこもっていた。悪いことは私が悪いと、しかし私が苦しんでいるときには手を差し伸べ、私が這い上がれるまで待っていてくれた。

当然、そんな私たちの関係はどうなっているのかと周りの人たちは騒ぎ立てた。

何もない。

本当に何もなかった。ただ仲が良い。細く長く連絡を取り続け、その分だけお互いを良く知っていただけ。語り合うことが楽しくて、たまに会うときは無言の空気ですら居心地が良かった。


時は流れていた。いつまでもそんな関係が変わらず続くのかと思っていた。

「俺の彼女が、女の人と二人で遊びに行くの嫌がるんだよね。」

「それは当たり前でしょう。あたしだって嫌だ。」

「最後の恋愛にしたいし、大切にしたいんだよね。お前とのカラオケも最後になるかもしれないな。」


彼と出会って十年。お互いアラサー。遠い将来のことの様に話してた結婚が、現実のものになったのか。

―――――じゃあ、誰が私を支えてくれるの?

彼の応援でも叱責でもなく、自分の不安、それが一番最初に頭をよぎった。

―――――彼を知っていて、支えられるのは自分だけなのに

彼の本当の姿を知っているのは私だけ。彼がどうしてほしいのか知っているのは私だけ。 なんてうぬぼれているんだ。


さあ私はこれから彼なしでどうやって生きていったらいいだろう。辛い時いつもそばにいてくれた彼がいない。どうやって立ち上がればいいんだろう。

考えているだけで表情を失って、体が動かなくなる。

ほかの誰にも彼の代わりなんて務まらない。

こんなに依存してたなんて。自分のことしか考えてなかったなんて。

泣いてたってどうしようもないことはわかっているけど、また彼が手を差し伸べてくれるんじゃないか、なんてありもしないことを考えてしまう。


失いたくない。


なんでもっと早く気付いて伝えなかったんだろう。



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