第5話remember
「…しても、いい?」
私たちはいつものように布団にくるまって、じゃれあっていた。
彼のまっすぐな目を一瞬見つめて、こくり、と頷いた。
カッターシャツの上から彼の大きな手が入ってくる。冬だというのに彼の手は汗で少し湿っていた。私も、茹で上がりそうに熱かった。彼は遠慮がちに、最初はブラジャーの上から、そのあとブラジャーを超えて私の肌を背中側から、ゆっくりゆっくり胸の先を目指して進めていった。それがじれったくて、早く、早く、と思っていたがそんな事言えるはずもなく、ただ私の肌が敏感に彼を感じていることに驚き、くすぐったさと気持ちよさに表情が溶けていった。
ブラジャーのホックが外れ、解放される胸。張りつめていた緊張からも少し解放されたようだった。少し嬉しくなって、彼をみて微笑んだ。すると唇を塞がれた。舌を絡めあうことには慣れていた。いつも彼がリードしてくれていた。ただ、その日の彼は、口の中もゆっくりゆっくりと探るように、何かを確かめるようにキスするのだった。私は彼を求めるように強くキスをした。または大事に慈しむように優しくキスをした。部屋の中にはリップ音が鳴り響き、ふと目があった瞬間に二人で笑った。
「やーらし。」
「どっちが。」
いつもの調子の二人に戻っていた。笑った時の彼の慈しむような目が好きだった。ぎゅっと抱きしめ合うと彼の手が私のスカートを超えて下着の上から触れていた。
「…ん…」
思わず声が漏れていた。体の力が抜けて、自分が宙に浮かびそうになって彼に強く抱き着いた。彼は私がどこにも行かないように守ってくれているようだった。でも彼が触れるたびにふわふわとする。自分の口が求めるように彼の耳に吸いつき、それからまた彼の舌に吸いついた。
「…声…我慢しなくていいよ…」
なんのことだか分からなかった。でも飛んで行ってしまいそうになる度に、呼吸をするときでさえも声が漏れそうだった。自分から発せられるその声がなんだか耳障りで、精一杯押し込めようとしていた。
「…ぅ…」
彼は、そんな私の声が聞きたいのか?でも彼が小刻みに震えていえるのは分かっていた。ただそのときは、私がどこかに行ってしまいそうなことも、彼が同じ体温でいる以外のことも、さっぱり意味がわからなくて、ただよく分からない感覚だけに身を任せていた。
彼が下着を横にずらして、私の陰部をすーっと指で辿った。
「ぁーっ……」
思わず声が出てしまった。恥ずかしくて顔を横に背けた。我慢しないってこういうことなのか?いやでも我慢などしようともできなかった。
もっと、もっと。
恥ずかしいのに、抑えられない自分がいた。恥ずかしいのに、自分の意志に反して少しずつ足が開いていった。
彼は私の下着を脱がすと、優しく優しく触れた。いつも余裕でいる彼の息が少しだけ乱れている気がした。
体の奥からの波に何度も押し流されそうになったが、そのたびに彼が助けてくれた。
「…挿れるね…」
―――――――――――
「今かあ。押したら付き合えそうな人はいるんだけどね。」
「そんなこと言う人だったっけ?」
彼が昔みたいに目を細めながら笑った。
あの日は結局最後までできなかった。ただ彼のゴムのホットローションのせいで、その日はずっとジンジンと陰部が唸っていた。
「あの時変なゴム使ったでしょ。」
「分かってたの?友達にもらったやつだったんだ。」
「ずっと悶々としてたんだから。」
「お前、ほんと変わらないけど変わったよな。」
そのあとに別の人でちゃんと経験したから、なんていうのは野暮だ。
彼には感謝してる。未熟だった私を少し大人に成長させてくれた。
あの後、別れてしまって、彼が相当ショックを受けていると聞いていたが、それももうだいぶ過去の話になっていた。
私たちは笑いあいながらお酒を交わしていた。たまたま帰宅途中の駅で出会い、近くの居酒屋に入ったのだった。お互い弱くて、一杯目だというのに顔は赤くなっていた。
あの時の出来事がやっと思い出になった気がした。隠してあった日記を、本棚にタイトルを付けて並べることができたようだった。
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