第3話parallel...2
「お前さ、昨日夜中になんか言ってた。え?って聞いたけど返事なかった。」
「うそ。てかまた眠れなかったの?」
「最近二、三時間おきに目覚めるから。」
「だから倒れるんだよ。」
「あ、俺コーヒーはブラック飲めないから。」
「知ってる。」
朝の少しテンションの低い会話。
そんなことを言いながら、私は卵を焼きパンに挟んでケチャップをかけた。ボイルしたソーセージと皿に並べ、彼にはミルクコーヒー、自分にはブラックコーヒーを用意した。
「さすが、できる子。」
彼が一口パンをほおばると言った。ただ卵を焼いて挟んだだけだ。いつも朝ごはんは食べないが、彼と一緒に私もパンをかじった。
二人で電車を乗り継ぎ甲子園に向かった。流れる景色を見ながらふと彼を見ると、彼もぼーっと景色を眺めていた。途中コンビニで、ドリンクを買い二人分の飲み物を鞄の中にしまった。彼が甲子園のチケットを一枚私に渡す。慣れた様子で席を探す彼の後ろをついていった。
「お前、バッターが打ったらどっちに走るかわかる?」
「分かる。私のこと馬鹿にしすぎ。」
なんとなくルールは分かる。でも場面ごとの戦略だったり込み入った話はよく分からなかった。彼は説明するときは茶化したりしないで丁寧に教えてくれた。分からないといえば分かるように説明してくれた。
真夏の日差しは暑かった。彼は喉が渇くと私の鞄を探りドリンクを取り、飲み終わると私の鞄に戻す。なくなりそうになると、彼が席を立ち飲み物の補充をする。
試合の間に席を立った彼が、試合が始まっても帰ってこなかった。あたりを見回すと日陰でうずくまっている彼がいた。
「はしゃぎすぎ。」
タオルで仰ぎながら彼に言う。まだ息が整っていない。
「息吐いて。ゆっくり。」
「……痛い…タオル…」
仰いでいたタオルが彼の腕に当たっていた。過呼吸になると腕が痺れると言っていたっけ。
「あ、ごめん。」
彼の息は乱れていたが、お互い普段と変わらない口調だった。
「あー本当、甲子園はいいわ。俺も体動かしたくなってきた。」
試合が終わり帰ろうというとき、バッティングセンターに行きたいと言い出した。
四時すぎていたが、夏の日差しはまだまだ強く私たちを照らしていた。
「あほか。」
わりと強い口調になってしまった。彼はにやりとしていたが踵を返した。
結局、ラーメンを食べに行った。私は餃子セット。彼は唐揚げセット。
ラーメンはすぐに食べられたが、サイドを食べるのが苦しかった。彼が唐揚げを私の皿に乗せた。私は彼の唐揚げと餃子を彼の皿に乗せた。
「それはないだろ。」
先によこしたのはそっちだ。私が水を飲む隣で、彼は唐揚げと餃子を口の中にほおっていた。お互いにご飯はいつも残さなかった。
「じゃ。」
「ばいばいー。」
いつもそう。また明日にでも会えそうなサヨナラを言う。
帰宅してからの―今日はありがとう―なんてメールはいちいちよこさない。
それが私たち。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます