第2話parallel...1
彼は私の部屋に入るなりソファにどっかりと座り、テレビを付け、テーブルの上のお菓子をつまむ。聴いていたipodを鞄にしまい、代わりにケータイだけ取り出して、後りの荷物は邪魔にならない場所にきれいに置いている。
「ごはん、作ったよ。」
彼にリクエストされたハンバーグ。彼が来る時間に合わせて作っておいた。
「お、おいしそうじゃん。」
「でしょ?褒めてよ。」
「まあ味が良いか分からないからな。」
そんなことを言いながら箸をのばす。表情を変えずに彼が言う。
「やっぱお前できる子だわ。」
箸がすすんでいる。男の人にハンバーグを作るなんて、何か王道すぎて気が引けていたが、うまくできていたのなら良かった。いや、仕事が忙しすぎて昼ごはんが食べられなかったと言っていたから、空腹がうまく働いているのか。
「ポン酢ないの?」
「ないよ。嫌いだもん。」
「お前さ、俺がポン酢好きなの知っててなんで置いてないの。」
なんで彼のために嫌いなものを買わないといけないのか。そんなに好きなら持参して置いておけばいいじゃないか。
その後は彼とソファに並んでテレビを見ていた。膝が触れていたがどちらとも動こうとはしなかった。お笑い番組で放送されていたネタはそれから少しの間、私たちの中では合言葉みたいに繰り返された。
彼がケータイを充電に差し、何か調べている。横から覗き込んでみた。
「明日かなり暑いらしいな。俺倒れるかもしれないからよろしく。」
「倒れないように努力してよ。」
甲子園の最高気温39度。冗談めいた調子で言っていたが、それが冗談ではないことは分かっていた。彼は過呼吸持ちでよく顔が青ざめていることを知っていた。明日は出かける前にコンビニに寄って、ドリンクを買っていこう。
「じゃ、お風呂かりまーす。」
時計は11時をまわっていた。鞄の中から着替えを取り出し、残りの荷物をまたきれいに片づけると彼は言った。
「シャンプーとかあるもの勝手に使って。バスタオルは一番上の引き出し。」
「ありがと。お先。」
シャワーの音がする。私は少し広くなったソファの真ん中に座りテレビを見た。
長くも短くもない時間が過ぎると、彼が髪を濡らして部屋に戻ってきた。ドライヤーを彼に手渡し、私もシャワーを浴びた。浴室には彼の持ってきた髭剃りと歯ブラシが、まるで昨日からそこにあったかのように並べられていた。
「電気消すよ。」
私はいつものベッドで、彼はソファで横になっていた。
「…今日のさ、芸人のネタ。これも面白いんだよね。」
「…どんなの?」
彼が私のベッドまで来て、ケータイを見せる。お互い目はよくなくて、二人で奪い合うように画面をのぞき込んだ。
「…ふふふ。」
半分眠くて頷くような笑い声が出た。
「これもさ、俺のおすすめなんだけど。」
彼も眠いのだろうか。低い声は暗闇に通っていたが少しかすれていた。
それからお互いに話をした。今までしてきた部活動のこと、仕事を始めてからのこと、兄弟のこと、家族の仲が良いこと、結婚はしたいけど結婚式はしたくないこと、子どもは二人は欲しいこと。気づいたら私は眠りに落ちていた。
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