trick recollection

第15話 トライアングル

俺のクラスの学級委員長も浮気を疑っているらしい。

「いいんちょ、相談したいことがあるんだが……」

 修学旅行3週間前の休憩時間、隣の席に座る学級委員長に問いかけた。

 すると、ウチのクラスの学級委員長は興味津々な表情を俺に見せた。

「恋愛相談だね! そういえば、最近、心美ちゃんがこのクラスに顔を出さなくなったけど、何かあったの?」

「ああ。そのことだ。理由は分からないけど、心美は俺のことを避けているんだ。心美のクラスに行っても、無視されるし、一緒に帰ろうとしても、すぐに一人で帰ってしまう。1週間も心美とまともな会話ができてないんだ」

 一通り、最近の心美の様子を聞いたウチのクラスの学級委員長は、顎を右手で触れた。

「そんなことが1週間も続いていると。じゃあ、原因は1週間前だね。ちゃんと思い出して」

「そうだな。たしか、1週間前の朝から様子がおかしくなったんだ。あの時、榎丸さんは濡らしてごめんって俺に謝ってきて……」


 記憶を手繰り寄せる俺の隣で、いいんちょが右手を大きく上に挙げる。

「ストップ。倉雲くん。榎丸さんって誰? まさか、心美ちゃんというかわいい彼女がいるのに、二股を……」

「違うんだ。榎丸さんは、いいんちょが入院してた榎丸病院の院長先生の一人娘で、心美とはよくパーティーで会う親友なんだ。俺たちと年齢は同じで、今はお嬢様学校に通っていて、ヘリコプターを飛ばして通学するほどの金持ち。それで、俺はよく呼び出されて、毎回プリンを買わされてる。本人が言うには、将来付き合いが長くなるから、今の内に親交を深めたいだけらしい。とにかく、俺は二股なんで不純なことはしてない!」

 両手を大きく振りながら、二股に関することを否定する。そんな俺の態度を見て、いいんちょは疑惑の目を向けた。

「ホントかな? もしかして、その子と二人きりで会ってるの?」

「ああ、そうだな」と認めた後で、いいんちょは深く溜息を吐いた。

「心美ちゃんというかわいい彼女がいるのに、他の子にも手を出すなんて、最低だよ」

「だから、俺と榎丸さんはただの友達だから、浮気じゃないんだ!」


 正直に話しても、いいんちょは疑惑の目で俺の顔を見つめてくる。

「ホントかな? ところで、濡らしちゃってって、どういう意味?」

「後ろから泣きながら抱き着かれて……」


 そう話した後で、いいんちょはいきなり机を強く叩いた。

「はい。ダウト。ただの友達が後ろから抱きついてくるなんてありえないよ。何なら、この場でアンケートやろっか? みんな、目を閉じて正直に答えて。この中で異性の友達同士に泣きながら抱き着いたことがある人、手を挙げて」

 唐突にクラスメイトたちに呼びかけたウチのクラスの学級委員長に、呆気に取られた。当然の結果だが、クラスメイトたちは、誰も手を挙げようとしない。それを受け、学級委員長は胸を張る。


「ほら、誰も異性の友達に泣きながら抱き着かれたことないってさ。友達以上恋人未満ならあり得るかもだけど。じゃあ、次の質問。榎丸さんの名前は?」

「一穂だけど、このやりとり、半年前もやらなかったか?」

「細かいことは気にしない! 付き合い始めて順風満帆なふたりを引き裂く恋のライバル出現。面白くなってきたよ♪」

「いや、まだ恋のライバルと決まったわけじゃないからな!」


「じゃあ、倉雲くんって榎丸さんのこと、どう思ってるの? 好きなの?」

 興味津々な隣の席のクラスメイトからの問いかけに対して、俺は唸り声を漏らした。

「うーん。明るくて話しやすい良い子だけど、俺は心美の方が好きだ」

「そうなんだ。その子に心変わりしたんじゃないかって安心したよ。他の子とも仲良くするけど、心美ちゃん一筋ってことだね♪」

 ホッとしたような表情で、いいんちょが嬉しそうに笑う。

「そうだな。俺にとっての心美は大切な人だって、この前、心美に話したのに、なぜか心美は俺を避けるようになった。一体どうしたらいいんだ?」


 一周回った悩みに頭を抱えていると、いいんちょは深く溜息を吐いた。

「倉雲くん。もう答え出てるでしょ? ケンカの原因は榎丸さんだよ。恋人でもないのに、毎回会う度にプレゼント送る相手がいるなんて、普通は浮気を疑うから! このこと、心美ちゃんも知ってるの?」

「知ってるよ。このことがバレた時、すぐに不安にさせて悪かったって謝った。心美のことが好きだっていう素直な気持ちも伝えたんだ」

「なるほど。分かったわ。心美ちゃんは、まだ倉雲くんの浮気を疑ってるってことね。榎丸さんの濡らしちゃって発言で、一線を越えたのではないかという思った心美ちゃんの中で、浮気疑惑が再燃した。それが真相かな? とにかく、早く仲直りしなさいよ。修学旅行前に破局とか、絶対に許さないから!  ということで、私がこの問題を解決してみせます!」


 突然の展開に、俺は思わず目を丸くした。

「いいんちょ、何をするつもりなんだ?」

「心美ちゃんとゆっくり話せる場を用意して、倉雲くんに謝ってもらいます。今日の放課後、この教室の中でね。廊下を走るの見逃してあげるから、終礼終わったら、帰ろうとする心美ちゃんを捕まえて、この教室に連れてきてね。仲裁役として、私も教室に残って、倉雲くんを助けるから、早く仲直りしなさいよ」

「ああ、分かった!」と答えた俺の瞳に勇気が宿った。

 心美と向き合って、ちゃんと謝る。そう決意した俺は、両手で自分の頬を強く叩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る