隣の洋館に住んでいる同級生は、俺とお揃いのモノが欲しいらしい。

 出雲大社の参拝が終わった俺たちは、そのまま神門通りをブラブラと歩き始める。

 目的地は、双子妹のフリをしたいいんちょが地元民に聞き出したお箸の専門店。

 石畳の横断歩道を渡り、緩い下り坂を進む。そんな時、俺は前を歩くいいんちょの異変に気付いた。


 何かを見つけたらしいウチの学級委員長は、2度も余所見する。その謎の行動を疑問に思っていると、俺の右隣にいる心美が頬を膨らませた。

「もう。なんで流紀ちゃんの顔見てるの?」

「なんか、いいんちょの行動が気になってな。これから行く店の場所は大体分かってるから、あんなことする必要ないし……」

 そんなことを言っていると、3度目が訪れる。その視線の先を俺も追いかけた。すると、俺の後ろを歩いていた渡辺さんが声を出す。

「あっ、ウサギグッズの専門店もあった」

 店頭にかわいらしいウサギの小物が並べられたお店が、俺の視界に映り込む。その近くには、恋占いと書かれた透明な箱が置いてあった。


「いいんちょ、もしかして、恋占いやりたいのか?」

 唐突な俺からの問いかけを聞いたいいんちょは立ち止まり、背後を振り向いた。

「違うよ。ここまで来て、3回も同じ恋占いあったから気になっただけで……」

 明らかに動揺した表情のいいんちょと顔を合わせた俺は溜息を吐く。

「そんなに気になるなら、やればいいだろ」

「優しいね。でも、大丈夫」

 にっこりと笑ったいいんちょを見た後、さらなる疑問が浮かんだ。

「そもそも、なんでここにウサギグッズの専門店があるんだ?」

「因幡の白兎繋がりだと思う」という隣の心美の推測を聞き、数メートル進むと目的地に到着。


 その場で立ち止まったウチの学級委員長が指差す。

「あっ、ここだね。さっき言ってた郵便局の隣にあるお箸の専門店。倉雲くん、ここでお箸でも買ったら? 心美ちゃんとお揃いのヤツ」

 学級委員長がからかうような笑みを浮かべると、俺の右隣にいた心美が、目を輝かせる。

「私、奈央とお揃いのお箸が欲しいです」

 その直後、いいんちょは、赤面する俺の顔を覗き込んだ。

「もしかして、お揃いのモノ買うの初めて?」

「そうだな」

「交際記念の品がお揃いのマイ箸。毎日使うものがお揃いって、カップルらしくていいよね?」

 イタズラに笑ういいんちょと、それに賛同する心美。2人の姿を見た俺は、肩を落とした。

「分かった。じゃあ、心美、一緒に選んでくれ」

「あっ、そういえば、ここって無料で名前も掘ってくれるんだった。じゃあ、お互いの名前が刻まれたお箸を交換して毎日使うっていうのはどう?」

 思い出したように両手を合わせ、提案するいいんちょに対し、俺は照れながら視線を逸らす。

「恥ずかしすぎるだろ!」


「いらっしゃいませ」という店員の挨拶と同時に入店。四畳半程度の広さしかない店内に、100種類以上のお箸が並べられていた。それらの値札には赤と青、2種類の丸いシールが貼ってある。そのことが気になった俺は首を傾げてしまう。

 すると、レジの前にいた店員が俺たちの元へ歩み寄った。

「青いシール貼ってあるのが食器洗浄機対応のモノ。赤いシールはキレイに文字が掘れるモノでございます」

 そんな店員さんの解説を聞き、俺の近くにいたいいんちょが頬を緩める。

「じゃあ、赤いシールを目印にしてお揃いのお箸を選べばいいってことね」

「そうみたい」と口にした心美は、ジッと俺の顔を見て、言葉を続ける。

「奈央、一緒に選ぼうよ」

「ああ、そうだな」


 俺と心美は隣に並んで、お揃いのお箸を選び始める。1本ずつじっくりと見ていき3分後、心美が「あっ」と声を漏らした。

「なんだ? 良さげなヤツが見つかったか?」と問いかけると、心美は首を横に振る。

「そうじゃなくて、この前の私の誕生日プレゼントのこと。奈央もこんな感じに選んだんだろうなって……」

「あの時は、いいんちょと一緒に選んだからなぁ」

 そう思い出したことを口にした後、心美はムッとした表情を見せた。

「私に黙って流紀ちゃんと一緒にお買い物とか酷いと思う。もしかして、その時に何かあったの? 付き合ってるから隠し事禁止だよ!」

「だから、俺といいんちょはただの友達だから、疾しいことはしてない。信じてくれ。あのプレゼントはいいんちょの意見を参考にして選んだんだ」

 両手を合わせ弁明すると、心美はクスっと笑った。

「やっぱりね。奈央があんなプレゼント選べるわけないって思ってたからスッキリしたわ」

 

 そんな時、店員さんがいいんちょに声をかけているのが視界の端に映り込んだ。

「あの……もしかして、東野吹雪さんですか?」

「はい。そうですよ」

 またもや真顔で答えるいいんちょの姿を見て思わず苦笑いしてしまう。店員さんは両手を合わせて、驚いたような顔つきになった。

「あの、もし良かったら、サインを飾らせてほしいです」

 慌てて色紙とペンを取り出し、それを受け取った偽東野吹雪がサインする。そんなやり取りの後、店員さんは会釈してからレジへ戻ろうとする。だが、それを今度はいいんちょが呼び止めた。

「すみません。一つだけお願いがあります。店内で写真を撮らせてください。それで、このお店をブログで紹介します」

「はい。ありがとうございます」

 店員さんが頭を下げ了承を得たところで、いいんちょはヨウジイにスマホを見せた。

「洋二さん。写真撮影お願いします」

「かしこまりました」

 指示に従い、スマホを受け取り写真を撮るヨウジイの姿を見て、俺は心の中で「ヨウジイをマネージャー扱いしやがった」とツッコミを入れた。


 来店から10分後、ようやくそれは見つかった。目に留まったのは、白兎がデザインされたお箸。これなら男女問わず使えるだろう。値札に赤いシールが貼ってあるので、文字もキレイに掘れる。そう思いながら、それを手に取る。そんな俺の動きを見て、心美の手元を覗き込む。

「それいいね。じゃあ、それと同じの買う」

 嬉しそうに笑いながら、心美も同じモノを手にして、レジに並んだ。その後ろに俺も続く。

「ありがとうございます。無料でお名前を掘ることができますが……」

「はい、お願いします」と明るく答えた心美。すると、店員さんは首を縦に動かした。

「了解しました。3分程度かかります」

「あっ、後ろの連れも同じく、名前を掘ってください」

「了解しました。それでは、こちらの紙にお名前をご記入ください」

 流れに乗って2人揃って名前を記入。そして、3分が経過した頃、名前が掘られた世界で一つのマイ箸が手に入った。


「奈央とお揃いのマイ箸。大切に使わないとね♪」

 お土産を買ってから、有料駐車場へ戻る道中、俺の隣を歩く心美が笑顔を向ける。

「そうだな」と同意しつつ、からかわれそうなお母さんにこのことを黙っておこうと心に決める。その後、俺は後ろを振り返り、いいんちょと顔を合わせた。

「そういえば、いいんちょもお箸買ってなかったか?」

「倉雲くんたちが悩んでる間にね」

「どんなヤツ買ったんだ?」

「ポインセチアの花がデザインされたヤツだよ」

「ポインセチア?」

 聞き慣れない花の名前に首を傾げると、隣を歩く心美が声を出した。

「それって12月の誕生月の花だよね? つまり、流紀ちゃんは12月生まれ?」

「心美ちゃん。正解。因みに、花言葉は祝福する。倉雲くんと心美ちゃんが結婚することになったら、ちゃんと祝福してあげるから」

「最低でも4年後の話だ。告られて付き合うことになったけど、交際も認められてない」

 いいんちょの発言に顔を赤くしながら、声を荒げた。


 こうして、長いようで短い別荘旅行は幕を閉じたのだった。

 

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