第3話 酸素について(oxygen)

「 酸素について(oxygen) 」


あのひとは酸素をあげると言った

酸素なら毎日毎秒もらっているとわたしは言った

産まれた時から酸素に囲まれていたのだから、その恩恵と言ったらあなたには分かるまい、暗い産道から出た途端、酸素に囲まれ、ハッピーバースデーなんて、頭の天辺から足の指の先まで酸素に撫でまわされ、祝福され、そのお礼として、大きく口を開き胸いっぱいに細胞分裂して初めて肺呼吸を開始した日として、わたしを特定するスペシャルな日として記録された日となったこと

それはともかく、

それから一分たりとも酸素なくしては生きていけなくなった、それが地球との約束だった

地球は約束を破らなかった、わたしの行く先の何処でも、何処までも、何の不安もなく、それは何時もあたりまえであって、何億という細胞が、脳みそがその機能を維持できるようにと手配してくれた

それは地球にとってどれほどのことであったのか、酸素を求める生きもので埋め尽くされているといったらどれほどの?

わずが数分のあいだ窒息してしまえば途絶えてしまうこのからだ

そんなことを知っていても体験したこともなく、

息を吸って、吐いて吸って吐いて吸って、その延長に未来があることは一つの未来だった

あのひとは酸素をあげると言った

わたしはやっぱり何があるか分からないからちょうだいと言った

未来があるということは一分先の未来だった

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