第13話 『第八柱“暴風”のウルシュグラン』
古代竜の歴史は謎に秘めている。国境を超えて考古学者が調査に尽力するも解明に至っておらず、難航する歴史解明の中で判明しているのは古代竜が創世記と呼ばれる世界の始まりから生存する最も古き生物であること。そして古代竜は全部で十二体、存在するとされている。
それを証明したのは二五〇年前で考古学の第一人者、ウル=モグトーン。冒険家という側面も持つ異端の考古学者とされたウルは冒険の果てに古代竜と創世記が記された石碑を発見した。
まさしく世紀の発見だった。停滞していた創世記とそれに連なる古代竜の解明が加速するのではないかと全国の考古学者が解明に当たるが調査はまたしても難航する。
石碑の保存状態だ。創世記の歴史とそれに連なる情報が記されていたことは解読できた文面から予想できても確証には至らなかった。それでも古代竜が全部で十二体いることを解明できたのは石碑の外縁に立つ石柱にあった。石碑を中心に円を描く形で立つ石柱には記録にない紋様が刻印され、頂には竜の石像が鎮座していたのだ。立証させるにはあまりにも弱い証拠だが、ウルを除いた考古学者たちは停滞していた歴史の発見に浮き立って判断能力が欠如していた。それでも多数決で決議され、その判決を良しとしなかったウルはただ一人残って研究に没頭する晩年を過ごしたと言われている。
古代竜の棲み処である洞窟を目指す道程でアデルは歴史のあらましを教えた。
「つまりこれから相対する古代竜はその一体なのですね」
創世記から生きている魔獣の推し量れない実力にミリアは戦慄した。
「その調査結果が正しいとして、どうして十二体なのでしょうか? 魔獣の一種であるのなら繁殖していくのが習わしであるかと思うのですが」
イーヴァルの疑問にユミルは顎に手を添えながら思考する。これまではただ古代竜を使役することで故郷であるエピス山に被害を出さないよう守るだけを考えていた彼女にとって考えさせられるものだ。故郷を思うあまり使役される相手の事を考えずに自己都合を押し付けるのは彼女の理念から反したからである。
「ふむ、十二柱の古代竜か……」
「何か知っているの?」
思わせぶりに口を開いたジルをユミルは逃さなかった。しかし、ジルは返答はせずにただ首を左右に振る。
「我よりも小僧の方が知っているのではないか?」
話を振られたアデルに視線が集中するも一切気に留めず足を進めるも話題を無視することなく口を開いた。
「なぜ十二体なのかは分からない。だがその存在理由はおそらく一緒なのだろうさ」
「それは――」
アデルの言葉の真意を悟ったイーヴァルが確認も含めて話をしようとするもアデルは視線で黙らせ、その上から被せる形で続けた。
「確証はない。気になるのなら本人に訊けばいいさ」
あくまでアデルの感覚による発言だ。そこに絶対的な確証はなく、つまり憶測でしかない。下手な情報は時に思考の働きを邪魔して真実を埋まらせる結果に繫がってしまう危惧したうえでの配慮である。
「それもそうであるな。ただし古代竜が話すことができればだが」
アデルに賛同したジルはその足を止めて頭を上げる。視線の先には巨大な塊が寝息を漏らしながら呼吸で体を静かに揺らす。
「こ、これが古代竜⁉」
予想を遥かに上回る巨大な図体にミリアは度肝を抜かれた。その存在は伝承や文献などで語り継がれてきたとはいえ実物を拝んだ人物は少ない。考古学者であるウルも結局は一目見ることなく逝去とされたと言われている。
ミリアの声に反応した古代竜は図体に潜らせていた顔を出すと、獰猛な双眸でアデルたちを睨む。ギロリと瞳を動かしてはそれぞれの顔を確認していくなか最後に捉えたユミルと隣に立つジルを見て口を開いた。
「何者かと思えば小娘と神狼か。諦めもせずにまたきおったか」
だが、と声音を低くした古代竜は視線をアデルにずらした。
「くく、懐かしい魂だ。貴様が現代の魔王か。名はなんという?」
現代の魔王として誕生したアデルに首を伸ばした古代竜は双眸を細めて興味深そう
に観察していく。間近に迫った古代竜の鼻息と吐息の風圧がアデルの体を大きく靡かせた。
「魔王アデル」
古代竜を使役する為の助っ人としてではなく、魔王という立場でアデルは名乗った。それが古代竜の求めている返答だと悟ったからだ。
「アデル……。名も顔も違うというのにあの男と重なる」
「あの男?」
「魔王クノール。初代を務めた男だ」
アデルとジルを除いたメンバーが驚愕した。だが古代竜の言葉でアデルは常々に思っていた疑問に納得がいった。
「誕生して二十年。それまでに出来る限りの研鑚を重ねたとはいえ僅かな期間で得られる力ではない」
得物の具現化を可能とさせる魔力量と質に加えて師事して訓えを受けたわけでもないのに著しい上達を見せた武の実力。魔王が神々の手によって創造される存在とはいえ、あまりにも不自然な成長である。
「俺の創造に初代魔王の血が使われているんだな」
「確証はない。だが貴様からはクノールを感じるのもまた然り。おそらくは初代魔王の血を媒体として新たな魔王を創ったのであろう」
だが、と古代竜は続ける。
「だが貴様はクノールではない。それは理解しておろう?」
アデルは無言で頷いてから決意を声にする。
「クノールの血を引き継いで生まれ出でた意味、それを知る為にもこの戦いに勝ち、未来の道への礎とさせてもらおうか!」
愛刀を抜刀して魔剣と化した刀の剣先を古代竜に突き付けた。それを合図にイーヴァルたちもそれぞれの得物を手に戦闘態勢に移行する。
「よかろう!」
古代竜はその巨体を起き上がらせた。一挙一動ごとに大地を震わせては土埃を巻き上げていく。
「我が名はウルシュグラン。第八柱を担う暴風の古代竜なり! 死の運命を背負いし者たちよ、その定めの中で見事示してみせるがよい。己が生の意味を‼」
古代竜ウルシュグランの咆哮は洞窟内に木霊し、咆哮は暴風ともなってアデルたちを襲った。
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