第8話 ダメな旦那が嫁に腹を立てるとき

仕事から帰宅した嫁の態度がおかしい。「おかえり。」というと、不貞腐れた様子で「ただいま。」と返す。「どっか調子悪いの?風邪引いた?」と聞けば、「うん、心の風邪。」と漏らす。あぁ、たまにあるこっちが滅入るやつだ。「心の風邪」なんて言葉を口に出すなんて。「獣になれない私たち」のガッキーにでもなったつもりか。


こういうときは、仕事で何かあったか、私に不満があるかのどちらかだ。おそらく今日は後者だろう。心当たりがなくはない。たぶん晩御飯を用意していなかったからだ。


それでも、溜まっていた洗濯は済ませたし、ゴミも捨てたし、日用品の買い出しにも行った。ただ、自分のお腹が空いてなかったので、何も作る気が起きなかっただけだ。それに一応、LINEで「何か買うか、食べて帰ってきてください。」と伝えてもいた。しかし、働く女性がこれを読んだら「旦那が悪い。」と言うのだろう。


海のように心の広い私である。通常であれば「ごめんね。」と懐の深さを見せるところだが、理由をはっきり言わず「必殺 察してちゃん」を出されると、こっちも腹が立つ。こうなったら意地だ。今夜はもう口も聞かない。勝手に悲劇のヒロインを気取っていろ。


そう言えば、昔通っていた剣道場に、大きく「不動心」と掲げてあった。動かざるごと山のごとし。まったく口も聞かないという点では、ある意味体現しているような気もしなくはない。

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