第5話 生きた証
最近、会社をでて一人になると、気が抜けるのかドッと疲れる。足を動かす気力もわずか。会社から駅まで、そして駅から自宅までを、ゆっくりゆーっくり歩いて帰る。途中、老若男女、もれなく自分を追い抜いていく。そんな状態だから、帰り道の様子をのんびり眺めることも多くなった。
見慣れた景色でもそれなりに変化はあって、ちょっとした気分転換になる。例えば歩道沿いの街路樹。頭上で枝葉と電柱が交錯していて、なんだか危ないなぁと感じていたら、いつの間にか容赦なく切り株にされていた。
そんな散髪後の道をボーッと歩いていると、気になる光景が目に入った。白いガードレールに黒い塊。大きさは人間の頭くらいか。汚れたタオル?ダンパー?一度通り過ぎたが、気になって立ち戻った。
ギョッとした。切り株の取り残しがガードレールに巻きついている。違う表現をすると、白い中指にごつめの黒い指輪をはめたような状態だ。おそらく街路樹がガードレールを巻き込んで成長していたのだろう。その一部が取りきれずに残っていたのだ。
懸命に生きていると、こうやってその証が残るんだろうか。自分も後世に生きた証をちょっとくらいは残せるんだろうか。帰り道の街路樹にこんなことを考えさせられた30半ばの夜。
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