第20話「魔王様発行雑誌」
「ところで、チョコさんは魔王関係者か魔法使いの何かで?」
俺はこの場を乗り切るためにも、話題を彼女に提供した、なんせ、風呂場で男と女の二人っきりだ。間違いなんて起こったら、即刻警察行だしな。それだけは避けないと。
チョコに問いただすと、「あばばば」と言いながら、目を右往左往させながら言う。
「あばばば、魔王様の関係者なんて恐れ多いです。私なんてそんな、ただの野良リッチーです。あばばば」
「そうか、リッチーなのか……、おい、今なんて?」
俺は脂汗が額に出ていることに気付く。リッチーなんて小説の話に出てくるだけのキャラじゃないのか?アンデットの王なんぞ、ここは異世界とは言え、俺の部屋だ。そんなものが押し入れに居るだなんて認めないぞ。幽霊なんてこの場には居ないんだからな。
「はい、リッチーです。使いの幽霊は三つ編みガールちゃんとポニーテールガールちゃんが一緒に温泉に入ってますよ。さっきまでは優雅に泳いでましたが、今は岩場で大人しく座ってますよ」
こいつ、俺の思いを全否定しやがった。それにそんな二人見えないから、マジ見えないから。俺は信じないからな。ああ、怖くないけれど、今日は電気をつけて寝てやろう。
俺は頭を抱えながら、顔を横に振る。チラリとチョコの方向に向きなおして、
「ちなみに、なんでこんなところに居るんだよ。誰かに教えてもらったの?今まで来たのは二人ぐらいしか居なかったはずだけど」
どっちかが犯人なはずだ。
「あ、そうですね。魔王様の発行している魔王雑誌にここの温泉が書いてあったので来てみただけなのですよ。最近、影が薄くなってきている気がするので……」
「お前かあああああああ」
「あばばばばば」
俺は突然絶叫したことをチョコに「ごめん」と謝りつつ、こめかみを手で押さえる。やはり
「それにしてもどういった内容が書かれてるんだろう。チョコさんでしたっけ、教えてくれると嬉しんだけど」
俺はジト目でチョコを見つめる。チョコの顔は青っぽいのだけど、にっこり笑顔を見せる。
「そうですね。ちょっと待ってくださいね。あ、そうだ、その魔王雑誌を持ってきてるので見せますよ」
チョコが温泉から勢いよく出る。まさに羞恥心の欠片もないような出かただった。俺は「きゃ」と言いながら手で顔を隠し(ちょっぴり見えてます)、チラリとチョコの方向を見る。
チョコは胸のあたりはタオルを巻いており、そんな俺を見ながら、胸を手で隠した。
「あばばば、そんなに見られると恥ずかしいですぅ~」
薄っすらと見ていたのに気づいたのか、チョコの頬は顔を真っ赤にしながら、苦笑いだった。彼女には羞恥心の心はあったようだ。
なんだ、ここの異世界の住人は全裸教ではないのか。俺は深い残念めいたため息をこの湯舟に吐いた。
カゴを置いてあったところから、背たけまである茶髪の髪を揺らしながら、嬉々して戻ってきたチョコが雑誌を持ってやってきた。雑誌は十ページぐらいで、薄い雑誌だった。
「これなんですよ。ここに温泉の情報が書いてあって……」
雑誌を見ると、温泉の効能が事細かく書いてあった。以前、ミナから聞いた通りの内容が書いてあった。だけど、なんで俺がこの文字が読めるのだろうか。疑問に思っていた所に、チョコは雑誌に書いてあった文字に指さす。
「この魔力回復、向上、気分向上に効果があるのだったら入ろうかなって。勇者軍一行に殺されかかったので助かりました。実際は凄い効果です!」
ただ、チョコが指さす文字には目もくれず、俺は別に書かれている文字に目がいっていた。
効能よりも俺は気になったのは、ある文章だった。
「な、な、なんで俺の写真が、それに、我が下僕石川だと……」
俺はチョコから雑誌を手に取るとプルプルと震えだす。チョコは人差し指を上に立てて、気分よく言ってくる。気分向上効果が出ているのだろうか。
「あ、そういえばあなたは石川って言ってましたね。あなたが『下僕』の石川さんだったんですね。いいですね、魔王様に会えて。私もあってみたいですぅ~」
「うぉおおおおおおおりゃああああああ」
「あ、あばばばばばばばばば、裂かないで~~~~きゃーーーーーーー」
俺は勢いよく手に持っている雑誌を真っ二つに引き裂いた。そして、勢いよく湯舟から立ち上がったことで俺の下半身が露出した。チョコはすぐさま顔に手を置いて目隠しした。
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