第19話「温泉の中に居た女の人(突然現れたみたいです)」
いつもの通り、慣れない洞窟の中を通ると次第に、湯気が見えてきた。クンクンと匂いを嗅ぐと硫黄の匂いがする。
俺は岩場からそっと覗きながら、周辺を確かめた。
「よし、誰も居ない。今日はミィも居ない。今回はチャンスなのかもしれない」
そっとカゴを置いてある脱衣所もどきの場所に行くと、俺は服を脱ぐ。パーカー、ジーパンと言った順で脱いでいく。
そして最後にパンツと靴下を脱いだところで俺は開放的な気分に浸ることが出来た。
なんだろう。何もかも脱ぎ捨てて自由になった感覚だ。広いお風呂って言うのもあって気分が良い。なにより天然温泉の硫黄の匂いが直に鼻から伝わってくる。これぞ本格温泉って言うんだよな。ううん。気分が上がってくるぜ。
それも一人っきりの温泉。俺専用のお風呂。なんて贅沢なんだろう。今まで入れなかった分、今回は堪能しないとな。だから、今日ばかりはミィとミナは来ないでくれよ。
ミニタオルで下半身を隠しながら、温泉まで向かう。後半分ってところぐらいで俺はミニタオルを肩にかける。
「俺一人しかいないし、開放的でもいいか。俺の身体など見る相手もいないし」
俺は鼻歌を歌いながら、近くにあった桶で身体に掛け湯をする。
「あ、あち、熱い、でも気持ちいい~ふぅぉぉぉおおおおお」
湯気が周囲を真っ白くさせる。ただ、その水分を混じった湯気が顔にかかり、余計に温泉 に入っていることを実感させてくる。
なんだか気分が上がってきた。開放感たっぷりだからだろうか、ものすごく叫びたい気分だ。
ただ今は異世界初の温泉だ。叫ぶのは温泉を堪能してからでも遅くはない。今の優先事項はこの温泉に浸かることだ。
本当に今まで足湯で我慢してきた俺だったが、今日でそのことは水に流すぜ。この温泉だけにな。
俺はそっと足を温泉の中に入れる。「ひぃ」と熱さを感じ、変な声を出してしまった。だけど一度入ってしまえば関係ない。足、ふともも、腰の順に温泉に入っていく。
「ふ、ふぁああああああああ。きっくううううううう」
目をギュッとさせながら、全身から伝わる気持ちいい感覚が脳内に伝わる。全身が一気に暖かくなった。
心なしか、さっきまで感じていた肩こりも取れた気もする。さすがミナが言っていた通り、温泉の効能効果だろう。地球にある温泉よりもこっちの異世界の方が効能や温泉的にも質が上なのだろうか。
俺は温泉の中から岩場を手で触りながら、首、頭が置けそうな場所を探す。ここ良い感じじゃない?
頭と首をそっと置くと、これがまた楽な態勢なわけであって、眠気を誘う。
「このまま眠っちゃおうか。いいかな?いいよね」
俺は天井に顔を上げて、目を閉じ、口笛を吹きながら独り言を言った。ギュッと目をつぶった後、腕を上にあげて、温泉に浸かりながら背伸びをする。
なんて至福の時なんだ。これぞ、温泉ライフ。最初は押し入れに温泉なんて会った時は頭を抱えていたけれど、今となっては最高な気分だぜ。
俺は目を開け、正面を見た。そこにはいつの間に入っていたのだろうか、温泉に浸かっている女と目が合った。
「うわーーーーーあああああ」
「あばばばばばばばばばばあ」
二人同時に奇声を放ち、温泉の中に身体を隠した。俺はジッと見ながら、つぶやいた。
「誰?」
「あばばばばば」
「あばば」が言葉なのだろうか。ここは異世界だ、その可能性もあるのかもしれない。
「あばばはあはあ、私は……、チョコと言います」
チョコと名乗る女は、いまだに顔を真っ赤にしながら目をつぶり言った。俺は石川とだけ名乗る。
こいつ言葉を喋れるのか。しかし、よく見ると結構な美女じゃないか?
少しパーマが掛かっている茶色の背たけまである髪、整った顔、それに今まで見たことのない豊潤な胸が俺の目の前にあった。
俺は必死に自分の鼻と股間を押さえた。やばい。これ以上は直で見てはいけない。
「あ、あの?あばばば、なんで鼻を押さえてるんです?」
「いや、これには深いわけなどないですよ。ははは」
落ち着け俺、この人はだたの人だ。良かったじゃないか、今までよりもまともそうな人で……、まともだろうか?
俺は頭に疑問のハテナマークを思い浮かべなら、あいつらよりかはマシかと感じていた。
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