第21話「猫の喧嘩は目を合わせてから始まる。(らしいニャン)」

「誠に申し訳ございませんでした」

 俺は頭を地面につけ、チョコに土下座していた。

「あばば、構いませんよ。どうせ安いものですし……、それに私は気にしてませんよ」

 チョコは慌てながらも、雑誌を裂いた俺を許してくれるようだ。なんて優しい人なのだろうか。俺は気にしているけどな。今でも見られてドキドキしてるぜ。

「そうニャン!雑誌を引き裂くなんてとんでもない奴だニャン。このセクハラ野郎ニャン」

 いつの間にか目の前に立っているミィに罵倒された。なんだろう。いつからここに居たのだろうか知らないが、お前の頭にげんこつでもくらわしてやろうか。

「まあ、悪気はないみたいなので、それにその雑誌にはお金はあんまり掛かってないので大丈夫ですよ」

 チョコは土下座している俺の肩に手をポンと置き、慰める。なんて優しい人、いやもう人ではないのか。だけどなんて良い方なのだろう。人のモノを勝手に食べたりする隣の魔女とはえらい違いだ。


 俺は床から頭を上げると、チョコにペコリと頭を下げる。

「雑誌の件は本当にごめんなさい。この落とし前は何かでやるから」

「あばばば、そんなことされたら私困ります。雑誌ぐらい大丈夫ですので」

 チョコは両手を横に振りながら、俺の提案に慌てながらも、遠慮するかのように言う。次第にしつこい俺に諦めが付いたのだろうか、チョコはため息を吐いて言う。

「……、そこまで言うのなら、分かりました。勝手にしてください」

「ありがとう。悪いのは俺だしな。何か考えておくよ」

「はい、お願いしますね」

 ため息を吐きながらも、どこか楽しみにしているかのような笑みを見せながら、チョコは返事を返した。

「にゃんーだ。もう解決しちゃったのニャン?つまらないニャン」

「なんだよ。つまらないって解決したからいいじゃん」

 ミィはチョコをまじまじと見つめる。クンクンと首筋の匂いを嗅いで、尻尾を一回振った。

「ご主人様、ちなみにこの女は一体、誰にゃんですニャン?知り合い?」

「お前、最初っからいたんじゃないの?こういった時って初めから話の内容聞いてましたって流れじゃないの?」

「そんな流れ知らないニャン。来た時にはご主人様が地に頭をつけて土下座してたニャン」

「深いことは気にするな。男には頭を地面につけなくちゃいけない時があるんだよ」

「そんな男のプライドなんぞどっかに落としてきた行動ニャンて、ご主人様も地に落ちた感じがするニャン」

 ミィはジト目で俺を見る。そんな目で俺を見ないで欲しい。ミィの蔑んだ目を避けるかのようにチョコに目線を向ける。

「そうだ、こいつはチョコって言うん……、ってあれ?」

 今まで居たチョコの姿が消えていた。どこに消えたのだろう?幽霊と同じで薄くなったのだろうか?

「あの女にゃら、「あばば」って言って薄く消えていったニャン」

「そんなことないだろう?何を言っている?ヘ〇ホーじゃあるまいし」

「ヘイ〇ーが何者かは知らないニャンけど、その女の目をガン見してたら手で顔を隠しながら消えて行ったニャン」

「お前そんな事やってたのか。止めてやれよな……」

「にゃはにゃはははは」

 ミィは手を頭の上に置いて舌を出しながら、上目遣いで俺を見てきた。俺はため息を一息吐いた。

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