第16話「冷蔵庫にあるお宝(それを渡すのじゃ。にゃーにゃー)」
マンションの自室に戻った俺は、パソコンが置いてある机、いつもの椅子に座りながら一息ついた。
「ああ、まだ更新予定のところまで書けてないや。パソコンに打ち込まないと。温泉の一件でバタバタしてたしな」
パソコンを起動させる。カタカタとパソコンを打ち出しながら「うーん」と悩みこむ。
「プロット通りにはいかないな。また練り直すか」
俺はパソコンに向かって、深いため息を吐く。首を左右に回しながら、目をギュッとした。
すると俺以外に居るはずもないのに声が聞こえてきた。
「貴様は一体何をやっているのじゃ?早く美味しいものをよこすのじゃ」
「にゃー」
俺は即座に声の聞こえた押し入れに目をやった。そこには仁王立ちをしながらニヤニヤ笑みを浮かべている自称魔王様と横に飼い猫のミーがそこに立っていた。
「は?なんでここに、あー、そうかここの洞窟から来たのかよ。邪魔するな、さっさと帰れ。ここは俺のテリトリーだ」
俺はミナに向かってしっしと手で払うようなしぐさをした。
「なんじゃ、その仕草はわらわをバカにしておるのか?おるのじゃな?」
仁王立ちから手をわさわさと動かしながら、飛びかかろうとしているミナが言った。するとミーがミナの足を触り呼びつける。ミナはミーの顔に近づき、耳打ちで何かを言っていた。
お前、猫語が分かるのかよとでも言いたい。ミーもミーだ、そんな自称魔王様ってやつといつから仲良くなったんだ。パッと見ても俺より親しげな感じが気にくわない。
ミーの耳打ちにミナはふむふむと頷く。ミナはニヤリと笑みを見せて言う。
「そうじゃな~。このタオルの姿で虐待される。助けて!と叫んでくるかのう」
「おい、それだけは止めてくれ。まじで、俺が捕まる……、冗談だよな。なあなああ」
俺はミナに近づくと、ミナの肩に手を置き、ゆすりながら懇願した。
「ふむ、分かればいいのじゃ。さて、美味しいモノって何かな~」
「にゃ~ん」
もしやこいつらグルなのか。いやミナが猫の言葉が分かるとは限らない。いやむしろミナ自体が魔王じゃなくて猫の一種なのだろうか。うーん、考えるのはよそう。
俺は深いため息を吐き、チラリとミナの方に向くと、そのままキッチンの冷蔵庫に向かった。それと同時にミナ、ミーもついていく。
俺は冷蔵庫の中を見てみると、中には牛乳と納豆、プリンが入っていた。
これはどうする。牛乳はありきたりでミナの世界にはあるだろうし、納豆にしては、出したら怒って本当に外に出かねない。で、だがこのプリンは俺の執筆が終わった後に食べる予定にしていたプリンだ。プルプルでそれにして口に広がる甘味は何とも高貴な味である。
一時、プリンに醤油を入れたら、ウニの味がすると邪道な話が広まっていたが、いや、なんでも俺の妄言だ。
俺は悩みながらも牛乳を取り出した。そしてミナに促すように言う。
「はいはい、美味しいモノね。これだよ、牛にゅ……」
俺の言いかけた言葉を遮ったのはミナだった。
「そんなものはどうでもいいのじゃ、あの小さな個体に入ってあるモノはなんじゃ?」
ミナは手でしっしと手で跳ねのける仕草をしながら、冷蔵庫の中にあるものに指を指す。
驚いたな、こいつ納豆に興味があるのか。仕方がない、牛乳とサービスだ。
そう俺は「こいつは、なかなか目利きが良いじゃないな」と日本人精神が分かってるじゃないかと感心しながら納豆のパックに手を伸ばす。
「違うわい!その忌々しいモノは中に引っ込めるのじゃ。その隣にある黄色い物体が気になるのじゃ」
俺は恐る恐る、ミナに振り向くと口を開いた。
「……本当にいいのか。これを食べると戻れなくなるぞ」
「な、なんじゃ、わらわの曇りなき眼にはビンビンとこれを食べるべきと感じているのじゃ。いいから渡すのじゃ」
「そうか、そこまで言うのなら何も言わない」
俺はスッと冷蔵庫からプリンを取り、ミナに近づける。ミナは満足そうに「ふふん」と笑みを漏らす。
「分かれはいいのじゃ……。おい、石川、早く手を離さんかい。さもなければ恐ろしい目に……、きゃ、急に離すんじゃない!」
ミナの言い分に理不尽さを感じながらも、微かな抵抗もむなしくプリンを手渡した。
「これには美味しい匂いしかしないのじゃ、さて、おい石川!スプーンはどこじゃ早く、もたもたするではない」
本当にはたから見たら従僕関係だと思う。だたキスしただけで、こいつは……。
俺は渋々、スプーンを右手に取ると同時に、あるものを冷蔵庫から取り出した。
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